「今までのしがらみを断ち切らないとソニーの凋落は止まらない」と語る原田節雄氏

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今年9月の中間決算で約400億円の最終赤字を計上、11月には格付け会社のフィッチから投機的水準の「ダブルBマイナス」に引き下げられたソニー。この凋落の原因はなんなのか。元社員である原田節雄氏が、内部事情や社内制度を細かく分析することで答えようとするのが『ソニー 失われた20年 内側から見た無能と希望』だ。

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―タイトルの「失われた20年」ですが、これは創業者のひとりである盛田昭夫さんが会社から完全に離れた1993年から約20年ということですね。

「そうです。私はソニーを3つの時期に分けて考えています。まず1945年から始まる『成長期』。創業者の井深大(いぶかまさる)さんと盛田昭夫さんが牽引していました。それが、1993年に大賀典雄さんが実権を完全に握るようになって第2期の『停滞期』が始まります。彼は仕事ができて自分の地位を脅かしかねない人を徐々に排除しました。しかし彼の周囲には、井深さんや盛田さんが見いだした仕事のできる人がまだたくさんいた。それで組織が回っていたわけです。

第3期が1996年から現在までの『衰退期』。出井(いでい)伸之さん、ハワード・ストリンガーさんが実権を握るようになり、彼らの周りから井深さんや盛田さんが選んだ優秀な人がいなくなります。ゴマスリ社員ばかり近づいてくるようになるのです」

―本書でも井深さん、盛田さんが偉大だったということは何度も繰り返してらっしゃいますね。

「彼らはベンチャーから始めているから、会社のさまざまな部署をしっかり把握している。社員にどんな人がいて、その人は優秀かどうか、どんな仕事が向いているか、家族構成までわかっていました。そして、ソニーが大企業になった後も、社内をひとりで歩いて誰にでも気さくに声をかけていた。私が仕事をしているとき、ふと人の気配を感じて振り返ったら井深さんや盛田さんが背後にいて、仕事内容について質問されるという経験を何度もしましたよ。彼らはそうやって現場のことを把握し、同時に力のある社員を見つけていったんだと思います」

―現在の上層部は社内のことがわかってない?

「ソニーの一般社員が、ストリンガーさんや現社長の平井(一夫)さんの働いている姿を見ることなんてめったにないと思いますよ。そして、1993年から増えていった社外取締役の人たちはもともとソニーの人間ではありませんからね。現場の人間のことなどわからないのも当然です」

―社外取締役が多いということは外に開かれた経営をしているということで評価する人もいましたが。

「とんでもない。ソニーの社外取締役制度は癒着の温床です。というのは、社外取締役は会長や社長が連れてくることができる。そして、取締役会のメンバー14名のうち社内の人間は2名でした。役員の人事権を握るのは『指名委員会』という5名の組織なのですが、そのうち2名が会長と社長で、社長が会長の子飼いだとしたらどうなりますか。会社の命運を決める役員任命権を会長ひとりで牛耳ることができる。これでは、集団指導体制の中国のほうがガバナンスがきいてますよ。

おまけにその役員メンバーの大半が文系で、技術のことなどわかっていません。事業を熟知している人がいないのです」

―では、今年6月に新しく社長になった平井さんも期待薄ということでしょうか。

「今までのしがらみを断ち切っていく決意をすること、そのための地盤を作って実行することが第一歩です。それができないとソニーの凋落は止まらないでしょう」

(撮影/高橋定敬)

●原田節雄(はらだ・せつお)

1947年生まれ。ジャーナリスト。工場から欧州の事業所、本社のヘッドクオーターまでソニーのさまざまな現場を経験。2008年に内閣総理大臣賞を受賞。2010年に退社

『ソニー 失われた20年 内側から見た無能と希望』

さくら舎 1680円

ソニーはなぜiPodを作れなかったのか。なぜサムスンに負けてしまったのか。本書では徹底して歴代首脳と社内のシステムの変化を追い、いかにソニーが自壊していったかを追う