自民党総裁は安倍晋三氏になった。民主党代表選が「予定通りの野田再選」で低調に終わったのに対して、自民党総裁選は総裁交代でかなり盛り上がった。野党総裁選がテレビ中継されたのは前代未聞のことだ。各種の世論調査で、民主党支持率は低迷する一方、すでに民主を上回っている自民党支持率は伸びている。

安倍新総裁は3党合意遵守の意向を示しているが、「近いうち解散」がどうなるのか。安倍氏は、「近いうち」とは年内と思うと明言し、党執行部人事後に民主との党首会談に応じるが、ここで「近いうち解散」を明確に出来るかどうか、安倍新総裁の大仕事だ。

経済運営は及第点だった安倍政権

民主党の執行部は輿石氏が幹事長続投となって、「近いうち解散」をやるそぶりはない。最近の民主党支持率低迷からも、ここで解散・総選挙になったら民主党は消滅危機になる。野田民主党としても、先の国会で自民が問責決議を出したことを理由として「近いうち解散」の前提が崩れたというだろう。

一方、安倍自民党も、3党合意は公党間だけではなく国民との約束という立場で、「近いうち解散」を迫るはずだ。いずれにしても、政治家同士の力勝負になるだろう。

その前に党内人事がある。安倍氏は育ちがいいためか、よくいろいろな人の意見を聞く。それが仇にならなければいいが。長老支配、派閥均衡などというイメージが出るような人事をしたら、自民党が変わるという党員の期待だけでなく、国民をも裏切ってしまう。そうなると、今総裁選で、いま盛り上がっている自民党支持率も一気に下がるだろう。

5年前の安倍政権は、いまだに投げ出しといわれる。私自身、当時官邸に内閣参事官(総理補佐官補)でいて、午前中に国会の打ち合わせをしているときは体調が悪そうだなあと感じていたが、昼ごろになって辞任するということになって、ほんとうに驚いた。ただ、そこに至るまでの経済パフォーマンスは良かった。安倍政権での名目GDP、株価はともに最近10年間で最高値だ。また、失業率も最近10年間で最低。財政再建も増税なしでほぼできていた。名目GDPと失業率がよくて、財政再建できれば政権の経済運営としては及第点だ。

解散遠のけばしぼむ株式市場の期待

今や日本株は世界から出遅れて低迷している。前の安倍政権当時、日経平均の円表示の数字はニューヨークダウのドル表示の数字より高かった。ところが、リーマンショックで両方共に落ち込んでから、日経平均は低迷し、ニューヨークダウは回復した。その結果、今では、日経平均の円表示は9000、ニューヨークダウのドル表示は1万3000以上と、かつてと全く逆転している。

その理由はかつては円安、今は円高になったことでほとんど説明できる。本コラムで再三書いてきたが、為替は両国通貨の交換比率で相対的に多いほうが安くなる。いうなれば、為替はほとんど金融政策の差で決まるのだ。前の安倍政権の時には今と比較すればカネを刷ってそれで為替レートは120円くらいだった。それで輸出企業は潤い、株価も1万8000円以上だった。

こうしたことは株式関係者はよく知っているので、株式市場では安倍政権の誕生を期待する人は多い。ただし、それも総選挙をした後でないと、政策を実現できない。「近いうち解散」が遠のくと、株式市場の期待もしぼむだろう。そのうちに、古い自民党が復活しようものなら今の安倍自民党の人気も下がってしまう。

「近いうち解散」がすぐできれば、多少の自民党内のゴタゴタも隠されるだろうが、遠のくと、諸悪が噴出してくる可能性がある。

「近いうち解散」のポイントは党首間の信頼関係だけでは谷垣前自民党総裁の例をみても、うまくいかないだろう。特例公債法を使うことだ。財務省はつなぎ国債は違法であるといい、その旨の閣議決定をしている。ということは、特例公債法で、年度いっぱいの満額ではなく、一部の額だけで特例公債法を通し、残りは選挙後にやると約束するのだ。

こうでもしないと、野田首相は平気で嘘をつくのでまた騙されたということになるだろう。

++ 高橋洋一プロフィール高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。