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 今年の秋はまるで涼しさを拒むかのように、熱い映画が盛りだくさん!そんな“体育会系”な映画を、MOVIE ENTER編集部が厳選してご紹介する「秋映画特集2012 -燃える!体育会系映画-」特集。初回を飾るカルト映画のフジモトがご紹介するのは、フィンランドのトンデモSF映画『アイアン・スカイ』だ。ファンからのカンパで1億円以上の製作費を集めたという愛すべき馬鹿げた世界観と、圧倒的な迫力映像に、摂りすぎたカロリーも完全燃焼?

アイアン・スカイ

1945年、連合軍の猛攻撃にさらされ、ナチス・ドイツは完全に敗北。しかし、一部の残党たちは密かに月の裏側へと逃亡を図っていた。70年の歳月が流れ、時は2018年、再選を目指すアメリカの女性大統領は、自らの支持率回復のため、凍結されていたアポロ計画を再始動。黒人モデルのワシントンを広告塔パイロットとして派遣する。だが彼が月面で目撃したものは恐るべきものだった。月面で存続していたナチスドイツはその科学技術を独自に発展させ、秘密基地を建造していたのである。虎視眈々と連合軍への復讐の機会をうかがっていた月面ナチスは、ワシントンを捕らえることで地球の情報を獲得。最終調査のために地球へナチス党員を送り込む。そしてついに積年の怨念を晴らすため、月面ナチス帝国の地球侵略が始まる…。(作品情報へ

無茶苦茶すぎる!でも期待どおりの胸アツなトンデモ描写!

 月面に逃げたナチスドイツが、地球に復讐にやってくる。そんな"出オチ”感バリバリな本作。同様のトンデモない設定の低予算映画はこれまでも数多く存在した。ある時は地底から、ある時は海底から、はたまた冬の雪山から、時空の壁すら超えて、ナチスドイツは平和な世界へ侵略してきたものだ。しかしそういったネタ的作品とは、一線を画す情熱で作られたのが『アイアン・スカイ』である。まず目に付くのが、登場するナチスの兵器類だ。地球文明から隔離され、独自の発展を遂げた月面ナチス文化は、正直洗練されているとは言い難い。第二次世界大戦中のデザインそのままの機関銃、また無駄に超巨大なコンピュータまで登場。また、地球を侵略する宇宙船のデザインも秀逸。予告編でも確認できるが、大戦中にナチスドイツによる製造が噂されていた“ハウニブ”と呼ばれる、UFOを彷彿とさせる宇宙船が登場する。さらに地球侵略の母船となる宇宙戦艦は、当時の飛行船“ツェッペリン号”をモチーフとしたもの。いちいち凝ったディティールには、胸を熱くせざるをえない。しかも、古めかしいデザインにも関わらず、地球の最新鋭ジェット機や、近未来の宇宙戦艦と互角、いやそれ以上に激しい戦いを繰り広げるのである。レトロなデザインの宇宙船群、が大挙して地球に攻めてくる様子はまさに壮観。クライマックスには、月の一部をも吹き飛ばす、強烈な威力もつ破壊兵器(やっぱり巨大)まで現れ、これぞSFという戦闘シーンが繰り広げられる。見た目は古臭くても「我がナチスの科学力はァァァァァァァァアアア世界一ィィィイイイイ!」なのだ。また、月面ナチスの主要キャラクターを演じる面々も特徴的。いかにもなルックスの月面ナチス総統、野心を秘めたキレモノ士官、何故かアインシュタインそっくりなマッドサイエンティストなどなど、あげればキリがないほど「ニヤリ」とする素材だらけだ。これだけ細かく、馬鹿げたことにエネルギーを注ぎ込まれれば、ファンも製作費をカンパしたくなると言うものだ。
 

おバカ映画なんて呼ばせない。筋は通すのが月面ナチス流の地球侵略だ!

 これほどまでに徹底してトンデモな要素で構成されているので、大爆笑な作品と思われる方も多いだろう。だが本作には、単なるバカなパロディ映画にはない、一本通ったスジがあるのである。それが顕著に現れているのが、地球側の登場人物たちだ。月面ナチスに対抗する、地球連合軍を代表するのは、例によってアメリカ大統領。これがまた曲者で、「Yes,she can!」をキャッチコピーとし、イメージ戦略ばかりを推し進めるかなり痛い女性キャラ。そのほか各国首脳も、地球への攻撃を、北朝鮮が「うちがやりました」と宣言したりと、全く一枚岩にならない地球連合軍。がっちり現在の世界各国の情勢を反映しているのだ。ほかにも月面に降り立った月面ナチスとネオナチとのやり取りがあったりと、数々のシニカルな笑いが映画全編にちりばめられており、本作が単純なネタ作品として作られた訳ではないことは一目瞭然。またもうひとつの重要なポイントとしてあげたいのが、月面ナチスの描き方である。それは、“ナチス”という全体主義をどうしようもない完全悪として扱いながらも、そこに囚われた人々(月面で生活する元ドイツ国民)は犠牲者として描かれている点である。近年のアニメ作品として似ている作品で例えるならば、誰もが知る「機動戦士ガンダム」シリーズにおける、“スペースノイド(宇宙移民)とアースノイド(地球人類)の対立”だろう。本作品における月面ナチス国民は、スペースノイドとして月面移住を余儀なくされた人々なのである。つまり、ナチスの地球侵略というトンデモSFを題材にしつつも、戦争の犠牲となる人々を描いた作品なのだ。エンタテインメントとして楽しませながら、このような真摯な態度で作ったからこそ、ドイツ本国でさえ上映され、大ヒットしたというのも頷けるのである。ただ、そういったシニカルさを常にはらんでいるため、ドッカンドッカンと爆笑が起こる映画ではないことはだけは言っておかねばならない。どちらかと言えば、終始クスクス笑いが続く、ブラック・コメディの要素が強い作品である。

一番熱い、カロリー消費ポイントはココ!

 宇宙船同士の迫力の戦闘シーン、ブラックなギャグ、古めかしいのに洗練された兵器デザイン、イイ顔をしたナチス総統や幹部などなど、やたらと胸を熱くする要素が満載の作品ながら、フジモトが一番推したい“燃える熱いポイント”は、主人公である妄信的なナチス女性隊員・レナーテ・リヒターである。ブロンドでカールした美しい髪、青い瞳、透き通った白い肌。ヒトラーが標榜した“アーリヤ人の理想”のような容姿の女性なので、さぞ嫌な性格なのだろうと思いきや、さにあらず。予想もしない程のドジッ娘なのである。それは隔離された月面で生まれ育った、温室育ちという環境のなせるワザだが、その様子にひたすらどぎまぎさせられるのだ。また、登場してかなり早い段階で、何故か下着姿になってしまうのだが、この下着のデザインがまた素晴らしいのである(性的な意味ではなく)。そしてただただドジっ娘なだけでなく、純粋さゆえの意思の強さを見せる場面も登場。中でも、地球に到着した後に、アメリカ大統領室でレナーテ嬢が演説するシーンは必見。その凛とした美しさには、男性はおろか女性も確実に萌え…いや燃えるはずだ。美しさの中にも天然さを備え、さらに力強い意思を見せるその様子は、いわば月面ナチス版“綾瀬はるか”とも言うべき魅力。彼女が地球に降り立ち、現在の地球文化を学ぶうち、真の目的に目覚めていく様子には、「がんばれレナーテ!」と応援したくなるはず。はっきり言って、彼女の存在だけでごはん5杯はイケる。レナーテ嬢、マジ最強!MOVIE ENTERではレナーテ嬢にインタビューも行っているので、まずはコレで萌えることをオススメする。

インタビュー:ユリア・ディーツェ「『アイアン・スカイ』はクレイジーな傑作」

 トンデモ映画の呼び声高く、やたら燃える展開ながら“体育会系映画”としてのカロリー消費はそこそこ。ただ、思いのほか“イイ映画”なので、見た後の満足感はかなりのもの。また、前述した以外にも、ものすごい数のパロディ描写が登場するので、繰り返し見ても楽しめるだろう。噂によると前日譚を描いたTVシリーズや、続編も予定されているというので、そちらにも期待。レナーテ嬢の再登場を切に願う。

 『アイアン・スカイ』はTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国公開中。

『アイアン・スカイ』 - 公式サイト



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カルト映画のフジモトの所見評価

【消費カロリー】ごはん5杯ぶんくらい

【爆笑度】★★★

【燃え(萌え)度】★★★★★

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