不採算路線の削減、大型航空機の売却、大量のリストラなどにより2012年3月期には過去最高益の記録を塗り替え、上場廃止から約2年8ヵ月で再上場を果たすJAL

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上場廃止から約2年8ヵ月という超ハイスピードでの再上場となる日本航空(JAL)。

今回の再上場は、「米フェイスブックに次ぐ、今年2番目の大型上場」「全日空の時価総額6329億円をしのぐ、6873億円での上場」と騒がれているが、実際、破綻から再上場までの流れを見ると、JALは“奇跡”ともいえるV字回復を遂げている。

まず、2010年1月19日に会社更生法の適用を申請。翌2月には京セラ創業者の稲盛和夫氏を会長に迎え、企業再生支援機構の更生計画に基づいて、不採算路線の削減、大型航空機の売却、そしてグループ全体で1万6000人のリストラが断行された。

その結果、11年3月期の営業利益(連結)は1884億円と、過去最高の黒字となった。この額は、更生計画で見込まれた641億円の約3倍に達していた。さらに、12年3月期にも営業利益を積み増し、2049億円となり、過去最高益の記録を塗り替えた。

破綻したのがウソのようなV字回復ぶりに、立役者である稲盛会長は「超すごい!」と崇めたてまつられたのである。

だが、そうして迎える華々しい再上場の陰で、現場のキャビンアテンダント(以下、CA)やパイロットからは、悲鳴にも似た訴えが聞こえてくるのだった……。

ある現役30代CAによれば、更生計画の大量リストラによって「勤務状況が劇的に変わった」という。

「フライト時間は、破綻する前はだいたい70時間前後で、更生計画ではだいたい5時間は増えるとされていました。ところが、実際には、80時間どころか、先月は92時間も飛ぶことになりました。毎月こんな状態です。それに、ベテランからリストラしたことで仕事の効率が悪くなり、成田−ボストン間など10時間を超える長時間フライトでも休みを取るヒマもなく、食事すら取れずに立ちっぱなしということもザラです」

勤務時間も増え、さらに休みも取りづらくなったという。

「あるCAは、フライトの前日に38℃の熱が出たので、『明日は欠勤にしてほしい』と電話で連絡をしました。以前であれば、事前に電話をしているわけですし、なんの問題もありませんでしたが、そのCAは会社から『明日になったら熱が下がるかもしれないから、出勤するように』と言われたそうです。ほかにも、『結納の日に年休を申請したが断られた』というケースも」(別のベテランCA)

すべては人を減らしたことによるしわ寄せだ。それでも、高い給料をもらえているのであれば、ある程度は我慢せざるを得ないが……。

「とんでもない。更生計画による人件費削減で、私たちの給料は年収ベースで3、4割は減っています。20代のCAは基本給が20万円で、それにフライト分の乗務手当がつきますが、決して多いとはいえません。現に、休みも取れず、給料も減り、このままでは将来への展望を抱けないと、希望退職枠に入らない若いCAが、昨年度だけで574名も退職しました」(前出・30代CA)

一度は破綻した企業を再生するには、大ナタを振るうのは仕方がない……と製造業や建設業などでは言えるかもしれないが、こと公共交通機関においては、現場の士気は安全に関わるため、利益を優先したリストラが必ずしもいいとはいえないのである。

実際、すでに人員削減によって安全への不安につながる、いくつもの事例が報告されている。

「食事を運ぶカートのストッパーをかけ忘れ、カートが機内を自走して客席を破壊しました。ケガ人は出ませんでしたが、もし、小さなお子さんが座っていたら……」

「体調不良のまま乗務したCAが、耐えきれずお客さまの前で嘔吐してしまいました」

「チェックインのカウンター業務もCAが行なうことになり、客室内で荷物入れを確認する人数が減ってしまいました。その影響で、離陸後に上から荷物が落ちてくるということも起きています」

人員削減はCAだけでなく、パイロットも対象だ。今年1月には、フライト前に転倒した機長が肋骨を折り、血まみれのまま旭川−羽田間を飛び、このことは国会でも取り上げられた。

ほかにも、機長が燃料費を節約することを考えるあまり、CAに向かって、「今日は台風を迂回せず突っ切って飛行するので、揺れるから気をつけるように」という、信じ難い指示を出したこともあったそうだ。

再建の立役者である稲盛会長は「利益なくして安全なし」と掲げるが、その実態はどうか。事故を起こしてからでは遅い。

(取材・文/頓所直人)