突然の竹島訪問を皮切りに、日本に対して急に強硬姿勢を取り始めた韓国の李明博大統領。中でも天皇陛下に謝罪を要求した発言は、日本国内で「常軌を逸している」との声すら上がっている。

韓国では「よくぞ言った」と評価する意見がある一方、冷ややかに見る人も少なくない。支持率が17%にまで低迷する現状を打破するための「人気とり」ととらえているようだ。

自ら訪韓を要請、「できない理由はない」と意欲

李大統領の天皇陛下に対する発言が、物議を醸している。2012年8月14日、「天皇は韓国を訪問したがっているが、独立運動で亡くなった人々に心から謝罪すればいいというのが私の願いだ」と、韓国大統領として初めて明確に天皇陛下の謝罪を求めたのだ。さらに「『痛惜の念』という言葉だけを使うためなら、韓国に来る必要はない」と突き放した。「痛惜の念」という表現は1990年、当時の盧泰愚大統領が訪日した際の宮中晩さん会の席で、天皇陛下の「お言葉」の中で使われたものだ。

日本側の反発は大きかった。野田佳彦首相は「理解に苦しむ発言で遺憾だ」と批判、政府は外交ルートを通じて韓国に正式に抗議した。

李大統領の発言は、報道各社によって多少のばらつきはあるものの、どこも天皇陛下が訪韓を望んでいるようなニュアンスで伝えられている。だが実際は逆だった。2008年4月に来日した李大統領は、天皇、皇后両陛下と会談した際に訪問を招請していたのだ。これに対して天皇陛下は、「自分の外国訪問は政府が検討して決めますが、ご招待には感謝します」とおこたえになった。さらに李大統領は、福田康夫首相(当時)との会談後の共同記者会見で、天皇陛下の訪韓は「できない理由はない」と並々ならぬ意欲をみせている。これに対して、天皇陛下の韓国訪問を日本側から打診したことはないそうだ。

韓国側はその後、李大統領の発言を一部訂正。「韓国を訪問したがっているが」という部分は「訪問したいのであれば」と変えた。「もし来るのなら」という仮定の話に差し替えたのだ。発言を代表取材で聞いていた記者が誤認したのが理由と釈明している。

 

「4年間嘘ばかり」「ネズミが吠えた?」

竹島上陸に続いて、歴代の大統領が見送ってきた天皇陛下への直接の謝罪要求。相次ぐ対日強硬路線は韓国で全面的に受け入れられているかと思われたが、必ずしもそうではない。情報番組でインタビューされていたソウル市民のなかには、「やりすぎ」「任期終了間際で何をやっているんだ」と批判的な意見や、明らかに人気とりだとして「笑っちゃう」という人まで現れた。

インターネット上の反応も、反日一辺倒とは言いがたい。ツイッターで、李大統領の「天皇謝罪要求」に関するハングルのつぶやきを探してみると、2008年の訪日時に李大統領自身が天皇陛下に訪韓を要請していた事実を知った投稿者たちが、「今さら何を」というトーンで書きこんでいる。

特に、訪日した際には天皇陛下に「3回も頭を下げていた」李大統領が、いきなり豹変した様子が奇妙に映っているようで、「これまで未来志向と言っていながら、突如天皇を批判して日本との関係が最悪になった」とのツイートが見られた。果ては「(大統領の任期である)4年にわたって嘘ばかりついてきた」との怒りや、「ネズミが吠えた?」と揶揄する声まである。「ネズミ」とは、北朝鮮が李大統領を非難、罵倒する際に用いた表現だ。

「李大統領はポピュリズムに走っているようだ」

元会社経営者という李大統領は、就任時には「韓国経済を回復基調に乗せてほしい」とその手腕に期待が寄せられていた。ところが欧州の金融不安や通貨「ウォン」の下落などの影響もあり、韓国経済研究院が8月15日に発表した今年の韓国の経済成長率は、従来予想の3.2%から2.6%に下方修正されている。

7月には実兄や側近が金融機関から違法な資金を受け取ったとして逮捕されるスキャンダルが発覚。北朝鮮との関係は、近年の大統領の中では最悪と言えるほどこじれている。在任中「いいとこなし」の大統領が、任期切れ間際に見せた突然の「反日攻勢」に、韓国社会にはしらけたムードが漂ってもおかしくない。

韓国大統領府の高官は8月16日、李大統領の「謝罪要求発言」について「話の趣旨が誤解されているようだ。誤解を解きたい」と述べていると報じられた。これ以上の事態悪化を避けるため、鎮静化を図ろうとしているように思える。韓国の主要メディアを見ると、中央日報電子版は8月17日付記事の中で、「もしかすると李大統領は日本と最も短い期間内に最も遠ざかった大統領かもしれない」と批評。朝鮮日報は韓国大統領選の与党候補として立候補を表明している朴槿恵氏の側近が、「李大統領はポピュリズムに走っているようだ。その代償は次の政権が支払うことになる」と語ったと伝えた。