週刊少年ジャンプの連載漫画「NARUTO-ナルト-」のゲームシリーズや、「テイルコンチェルト」「.hack」シリーズなどのオリジナルゲーム、福岡県の防災・安全イメージキャラクター「まもるくん」のイラストまで、幅広く活躍しているゲーム制作会社「サイバーコネクトツー」ですが、今回はサイバーコネクトツー福岡本社にて、これまではあまり広く知られていなかった本当の姿とここまでの規模に会社を成長させた原動力について、代表取締役社長の松山洋さんにインタビューすることに成功しました。

◆サイバーコネクトツー 松山洋社長インタビュー


サイバーコネクトツー社長 松山洋(以下松山):
じゃあ早速、いいですか?会社概要からです(手元の資料をめくりつつ)。今から17年前に、わずか10名からスタートしたのが、元「サイバーコネクト」という会社です。福岡に本社があります。2年前に東京スタジオを作りました。契約社員や、あとアルバイトも入れると、今現在開発に携わっているのは、福岡本社でおよそ170名、東京スタジオでおよそ40名。合計二百数十名で、ゲーム開発、時には映画を作ったりもしています。まあ色んな開発をやっているということです。


17年前に、1本目の「テイルコンチェルト」のゲームソフト開発を担当しました。この頃、私自身はいちグラフィックデザイナー、アーティストで、この作品のおよそ80%の背景グラフィックを手掛けています。テイルコンチェルトは、10名で会社を作って最初に立ち上げたプロジェクトですね。これがきっかけで、バンダイ(現バンダイナムコゲームス)さんとお仕事することになりました。

2本目が、同じくPS1(初代プレイステーション)ですね、「サイレントボマー」というアクションゲームです。この時も私はアーティストで、9割以上の背景を手掛けております。人数が少なかったので!1人1セクションみたいな状態だったのです。PS1だったからまだそんな開発もできたんですけど。「テイルコンチェルト」は人数少なかったので、開発に1年半くらいかかりました。「サイレントボマー」のときは人が増えて14名。それでも、同じく1年半くらいかけて開発を行いました。

松山:
次、「.hack(ドットハック)シリーズ」。ここからPS2になります。「.hack」シリーズの最初のタイトルの「.hack//感染拡大 Vol.1〜絶対包囲 Vol.4」(以下、「.hack」シリーズ)のリリースは2002年から2003年。3ヶ月スパンで、全4巻構成でした。


松山:
テレビアニメを放送したり、マンガ、小説、色々なメディアで同時多発展開をしたプロジェクトです。私はアーティストとして「.hack」の背景グラフィックを作ってたんです。この時までですね。

G:
そうなんですか。

松山:
そうなんです。作り始めたタイミングで、前の社長がですね、私の同級生なんですけども、彼出て行っちゃいまして。普通、社長いなくなるって、なかなかないですけど(笑)

G:
ないですね(笑)

松山:
このときちょうど、総勢18名の会社だったんです。PS2になるんだから人数増やそう!って言って。それでも18人しかいなかったんですけど、プラス7名のアルバイト、当時ルーキーセブンって呼んでたんですけど、合計して25名の開発スタッフで。前の社長がいなくなってしまったので、私がスタッフと話をして、代表を務めることになりました。結果、その時に「サイバーコネクトツー」へ社名も変更しました。なので、私の監督作品としては「.hack」シリーズからですね。

その次のシリーズが、「.hack//G.U.」です。これは2006年から2007年の全3巻のプロジェクトですね。その翌年に、「.hack//G.U. TRILOGY」という、これはフルCGのオリジナルビデオアニメーションです。バンダイビジュアルさんと、バンダイナムコゲームスさんと一緒にやりまして。ゲームクリエイターができる、CG映画のようなものを作ってみようよ、ということで制作したのがこの「.hack//G.U. TRILOGY」なんですね。当時、なかなかBlu-ray Disc・DVDでの販売が難しい、アニメ業界は今厳しいって言われていた中で、結果、かなりの販売実績でした。


G:
おお!

松山:
おかげさまで。「.hack」シリーズのゲームファンがそのままの流れで入ってこれたっていうのもあって。「.hack//G.U. TRILOGY」は「.hack//G.U.」のもうひとつの結末というコンセプトで制作して、これも私が監督を務めました。そして2010年から、今現在も進めている「.hack」シリーズがPSPの「.hack//Link」ですね。今現在も色々とやってますけども。時を同じくして、2000年位の話なんですけども。私が社長になってから、サイバーコネクトツーをちゃんと、歌って踊れるデベロッパーにしなきゃといけないと思い始めて。

G:
歌って踊れる(笑)

松山:
そうでないと、いつまでたっても勝てないので。なので、ちゃんとやろうと。「.hack」シリーズ制作期間って3年半くらいかかっているんです。「.hack」シリーズが幸いにもヒットして、支持して頂けるお客さんも増えたんですけども、人数の少ない会社にありがちな思考で、「とにかく自分たちで力合わせていい物さえ作れば、お客さんは後から付いてくる」と。「結果は後からだ」という考え方があって。まずは自分たちにできることをコツコツとやろうと。その考えには当時から違和感があったんです。この業界って不思議なもので、頑張ってない会社って1個もないんですよ。

G:
みんな頑張ってるんですね。

松山:
そうなんです!なのに「皆」が成功できているかというとそうじゃないじゃないですか。じゃあ、普通にコツコツ頑張るだけじゃ足りないってことなんですよね。成功するためには戦略が必要なんですよ。いい物を作れば結果が後からついてくるんじゃなくて、お客様に振り向いて頂いて、夢中になってもらうことを能動的にやらないと。開発会社だからといって、いいものを作った後、売るのはパブリッシャーの役目で、我々は関知しません、というのは、ここから先は流行らないんじゃないの?と。ゲームのビジネスは、PS2になってから、どんどん大きくなっていきました。まるで映画のようだとか、この頃から言われるようになりました。映画って不思議なもので、前にうちのスタッフが言っていたんですが、「配給会社で見る映画を決める人はいない」と。「ええっ東宝が配給するのか〜!」って、それで見る映画決めないじゃないですか。

G:
確かに。

松山:
決めるのは何っていうと、監督とか、映画を作ったチームがどこのチームだとか。例えばジャンル、そしてキャスト、キャラクターデザイナーとか、そういった所。要は中身でみんな勝負するわけじゃないですか。で、あれば、ゲーム業界も大きくなっていく過程の中で、映画と同じく、「で、どこの制作会社が作ってんの?」って言いながら、パッケージの裏を見て、「あ!あのゲーム作った制作チームが作ってんだ!この人が監督か、じゃあ安心だ」と。そういうのが多分お客様がゲームを選ぶ決め手になってくるだろうと思ったんです。そのためには、さっきの話じゃないですけど、やっぱり歌って踊れるデベロッパーにならなきゃいけない。で、パブリッシャーにも、「サイバーコネクトツーと組むんだからこういうプロジェクトをやろうよ」と言ってもらえる。誰でもいい下請けだったら、クリエイターとして意味がないと思うので、そういう会社にしようと。ということでオリジナルの「.hack」シリーズで成功したからいいんですけども、次また3年半かけて1本作ってるとですね、お客様の年代がハイターゲットになるんですよ。


G:
あっという間に……。

松山:
自分たちがそうだったように、3年半っていう年月は待っててくれないんですよ、お客様は。もう次の楽しいもの見つけちゃうんですよ。かといって、制作には時間がそれなりにかかるし、3分の1の時間で作れるようにしましょうって言ったって、それはなかなかできないじゃないですか。いい物にならないので。だったら例え2年かかってもいいから、まず開発ラインを2ラインにしようと。そうすると、2年に1本出せば交差するから、1年に1回はうちのタイトルが出せる。まずはその体制を作んないと。少ない人数でコツコツじゃなくて、勝つためには戦略がいるんです。なので、チームをまず増やす。人が足りないからできないとか……例えば格闘ゲームを作る時も、「本当は25キャラ欲しいけど、今のうちの会社だと人数少ないからやっぱり18キャラにしようか。予算も足りないし」ってなるんです。でもそれ、お客様は「知ったことか!」って話でしょう。25キャラあった方がいいんだったら、25キャラあったほうがいいに決まってるんですよ!


松山:
自分たちの事情を先にするんじゃなくて、そのタイトルにとって一番幸せなことを、お客様にとって一番幸せなことはなにか、っていう考え方からいかないと絶対に勝てないから。人数が少ないとか、手が足りないとか、しみったれたことを言うな!と。じゃあ人増やそうよと。前社長は、「人を増やすと経営がどうとか」「結果は後からついてくるから、少数精鋭でコツコツやっていこう」という事を言っていて。その時から、ずいぶんとまあのんきなことを……と、開発者として思っていました。「勝つ」って普通じゃない。人より勝つってことですから、特別じゃないと勝てないわけですよ。特別な戦略を持たないといけないんで、じゃあ人と違うことちゃんとやろうよってことで、サイバーコネクトツーはそこから大改造を行ったんですね。会社のルールから何から全部そうなんです。

G:
その大改造を行ったは何年ごろなんですか?

松山:
それは2000年です。2001年に私が社長に就任して、当時いたスタッフに、「社長はいなくなりました、そして事実上サイバーコネクトという会社はなくなりました」と伝えました。みんな能力は当然あって……当時のコアメンバーは前職のゲーム会社でアーケードゲームやビデオゲームの、格闘ゲームとかシューティングをやっていたわけです。ポリゴンで、PS1の互換ボードで作っていたので、プレイステーションの開発が今すぐできるチーム、メンバーだったんですよ。

G:
じゃあ実力があったんですね。その時から。

松山:
そうなんです。もともと能力も夢もあったんで、みんな独立して自分たちの思い描くタイトルで大ヒットさせたいっていう気持ちはあって。前職の会社のことを彼らは愚痴半分で言っていました。作りたい物で勝負させてくれるんじゃなくて、要は経営陣が決めた売れそうな物……トップダウンがきつかったというふうに感じていました。私が彼らの愚痴を聞く限り。別に愛なんか無いのに、好きでもないのに、「サッカーがプロ化してJリーグっていうのを発足するからサッカーゲームを作れ」と。「僕らサッカー好きでもなんでもないのに……」って。

結構乱暴な指示で……。まあ後から聞いて「確かにそれはないな」と思いつつも、ただどこかでは、言い訳のように聞こえる。自分たちが結果出せなかった理由を経営者のせいにしすぎてはいないか?と。自分たちはお給料をもらって仕事してる以上、絶対にヒットさせるという戦略持ってたのに、と言えるのかなと。やりたいことやりたいって言っているだけだとサークル活動と一緒で、それはビジネスじゃないなとも思いました。私自身、「テイルコンチェルト」や「サイレントボマー」を制作していた時に、本当にこの企画でいいのかな?もっとできることあるんじゃないの?とか思っていたので。『お客様ってここまでやらないと満足してくれないんじゃないの?』というのを肌で感じつつも、10人しかいなかったとか、色々事情もあって……。納得した上で出したタイトルなので後悔は当然ないんですけども。

◆オリジナル禁止令と「.hack」プロジェクト


松山:
サイバーコネクトツーになった時、「みんな能力あるから元の会社とか、日本全国の会社に入り直すこともできるし、活躍できるとも思う。でもまだサイバー作って結果出せてないし、何より最初の『テイルコンチェルト』、そして今回の『サイレントボマー』や次の『.hack』も含めて、バンダイって会社にまだ恩をちゃんと返せてないんじゃないの」という話を当時のスタッフに話をして。俺はこの「.hack」を最後までやりたいと。

鵜之澤伸(うのざわしん)さん(現・株式会社バンダイナムコゲームス代表取締役副社長)が新しくビデオゲーム事業部長に就任した年でもあったんですよ。新たに就任した鵜之澤さんがやり方をがばっと変えられたんです。バンダイのビデオゲーム事業部50人くらいを集めて、彼らに対して「自分達は、ポリゴンの物を作れるのか。絵描いたり、プログラム書いたりできるのかと。そうじゃないだろう。」と。開発会社に対して、ちゃんと向かい合うようにと。自分はアニメでそうやって成功してきたと。鵜之澤さんご自身がそうやってアニメビジネスとして成功してこられたんです。それから、色々な事ががらっと変わって。私自身も鵜之澤さんに呼び出されました。その頃は、「.hack」の企画を進めてた時だったんですけど。鵜之澤さんに「やめろ」って言われて。「今まで色んなプロジェクトチームを見てきたし、部下からも話を聞いたから、お前らが優秀なのはよーく分かった。『テイルコンチェルト』も『サイレントボマー』もよーくできてる。でも売れなかった。それは成功とは言わない」と。

G:
それは、目の前で?

松山:
はい。ちょうどバンダイの社内にいたんですよ、わたし。結構その時からバンダイのプロデューサーさんと仲良かったんで、黙って聞いてたんですけど、なんてこと言うんだこの人は!と。でも正論なんですよ。


G:
(笑)

松山:
その時、某少年誌で連載しているマンガが来年アニメ化されるから、このゲームを制作してお前らまず1回売れろと。「売れたら次はあれやりたいって言っても誰も文句言わないから。俺もハンコ押してやる」と。結局「.hack」の打ち合わせに来たのに、事実上別のタイトルやれって言われてる!(笑)

私もそのマンガが好きでしたけど、ちょっと待ってください、スタッフと相談するのでと言って博多に帰りました。それから数週間後に鵜之澤さんの所に行って、話はよく分かるしその通りだと思うけども、ちょっとここは意地を張らせて欲しい、と。言われたタイトルでは出来ません、オリジナルの「.hack」でやらして欲しい、と言ったんです。それがうちで3本目のゲームになるので、もし仮にそのマンガのゲームを制作して大成功したとしても、それが原作のおかげなのか我々の実力のおかげなのかが正直分かんなくなる。デベロッパーとしては命かけてやろうと思ってるし、バンダイでここ10年は続く新規IPを作ってみせるから、やらせて欲しいと。これで駄目だったら首を切ってもらって構わない、という話を鵜之澤さんにしたんですよ。まあ、怒鳴られるかと思いきや、「分かった、じゃあやらせてやる」となって、「あれ?」っていう話なんです。今では分かるんですけど彼も情熱的な性格なんですね。

G:
情熱が通じたんですね。

松山:
はい。それだけ覚悟を決めて話をしているということで。その代わり命かけろ、絶対成功させろと。ただしこれはお前らが頑張るだけじゃだめだ。キャラクターデザイナーも脚本も、絶対に売れる人間を引っ張って来ないとだめだ。そんな甘い世界じゃねえと。で、貞本さん伊藤さん真下さんにも参加して頂けることになり、それで「.hack」の全容が見えてきたんです。開発を始めて1年が経って、2年目くらいでだいぶ軌道に乗り始めた時に鵜之澤さんがまたやってきて「まだ足りない」と。ゲームだけじゃダメだと。PS2のタイトルで、全4巻構成、それにOVA付けてやるのが決まっていて、もうアニメも作っていたんですよ。けど「まだ足りない」と。「これじゃ多分ヒットできない、ゲーム単品でちょっと面白いゲームっていうだけで終わってしまう。ムーブメントを作るってそういうことじゃないんだ」って言って、「テレビアニメを決めてきた。テレビアニメ2クール放送するから、『.hack』プロジェクトとして並行してお客様が楽しめるものをやれ」と。そしたら、弊社は「そんなこともあろうかとそういう企画を用意してました!」って出すわけです(笑)


G:
待ってましたと(笑)

松山:
命かけてやってましたんで、どんなことでも想定していました。マジですか困りましたって絶対に言えない。それでテレビ東京さんとバンダイビジュアルさん、読売広告社さんで「.hack//SIGN」の企画が動き始めたんですが、その後に鵜之澤さんがまたやってきて「まだ足りない」と。マンガやれと。ゲーム以外に、マンガもアニメも小説も、全部押さえるということで。角川書店さんに行ってマンガ決めてきたからあとお前ら企画作れと。「そんなこともあろうかと!」ということで、マンガの企画ありますよ、マンガでやるならこういうやり方にしましょう、小説でやるならこうしましょう、ということを角川書店さんとお話をして。「.hack」は、正直やっぱり鵜之澤さんの影響は大きいですね。色んな事を思いついて。けど、そう言って思いついてくれたおかげで我々も覚悟決まったし、それで「.hack」は立ち上がって、結果ワールドワイドで190万本という大ヒットができて、本当によかったんです。

◆NARUTO−ナルト− ナルティメットヒーローの制作秘話


松山:
その後、もう一ライン立ち上げようという事になりました。私自身、キャラクター物は大好きですし、マンガが大好きなので、ちょうど連載が始まって1年弱くらいの「NARUTO−ナルト−」の企画書を勝手に書いて、プロトタイプの映像もつくりました。世間一般では「キャラクターゲーム=クソゲー」という認識だったので、だから「キャラクターゲーム」でも面白いといわれるお手本となるようなものを作ろうと。オリジナルの「.hack」をやったから分かるけれども、お客さんがどこにもいないっていうことは、ゼロから振り向いてもらうってことは、すごく大変なことです。けど版権を使うってことは、すでにコミックを読んでいるお客様がいるんです。アニメを見ているってことで、その人たちの傾向が分かるから、そのファンの皆さんをもっと満足させるタイトルを作んなきゃいけない。越えなきゃいけないハードルはオリジナルタイトル以上なんだと。なぜなら、彼らには「オレのナルト」「オレの螺旋丸」っていうイメージを持っているんですよ。


G:
マンガなら誰にでもありますね。

松山:
だからこそ、越えなきゃいけない期待はオリジナル以上なんだと。小説を読んだ人やマンガを読んだ人のイメージを越えて、「これ!」って言えるタイトルを制作しないといけないわけだから。それくらいの気概を持たないと。そうやって完成したのが、「ナルティメット」シリーズの第一作、「NARUTO−ナルト− ナルティメットヒーロー」です。そして、「NARUTO−ナルト− ナルティメットヒーロー2」では、ファミ通さんの「新作ゲームクロスレビュー」でゴールド殿堂入りしたんです。

G:
それはすごい!

松山:
これで「キャラクターゲーム=クソゲー」と言わせんぞと。いいものはちゃんと評価されるんだと。その後、開発した「NARUTO−ナルト− ナルティメットストーム」は文化庁のメディア芸術祭でも賞を頂いたんで。いいものは間違いなく評価されるし、結果も生み出せると。そのためには戦略も必要だし、いいかどうかを知ってもらうためのプロモーション活動もやっていかなきゃいけない。そのためには人を増やして技術も上げなきゃと、うちはうちの一番の得意技で勝負する。ということで結果的に「NARUTO−ナルト− ナルティメット」シリーズは実際に10年、「.hack」シリーズと並ぶうちの代表作品になりましたというお話です。「ナルティメット」シリーズは、アクセルシリーズでもずっとゴールドが続いてますし、その後の、「NARUTO−ナルト− ナルティメットストーム」からはプラチナ殿堂入りに進化するんですけども、ストーム2に至っては10点・10点・10点・9点でしたから、うちの最高得点は39点という点数で、あと1点で満点なんです。本当に多大なる評価を頂いたんです。ただし、「NARUTO−ナルト− ナルティメットストーム」シリーズからPS3での開発になり……PS3って人数もコストも今まで以上にかかるんです。でも、PS3等のHD機だからこそ、弊社が国内外で評価を頂いている、映像演出を生み出すことが出来ました。


松山:
せっかく自分たちが命かけて作ったものなんだから、日本で30万本売れるのと世界で100万本売れるのとどっちがいいかってというと、100万に決まってるじゃないですか!そりゃ多い方がいいに決まってるんです。せっかく作ったものですから、一人でも多くの人に楽しんでほしいという気持ちがあって、だったらワールドワイドに売れるものをちゃんと作れる会社になろうと。世界中のゲームファンから、「サイバーコネクトツーの作るタイトルって要チェックだよね」って思われたいし、言語の壁を越えて楽しみにしてほしいって気持ちが当時からありました。一人でも多く、一本でも多くっていう精神で、ワールドワイド戦略を立てて、タイトルの発売が無くても海外出張に行くようにしたんですよ。E3ゲームズコンペンションジャパンエキスポ、海外で行われているイベントを中心に、まず現地のことを知る。そして現地で我々の商品を販売しているバンダイナムコヨーロッパとか、バンダイナムコアメリカとか、そういった所の人たちと、とにかくコミュニケーションを持つ。「どういうタイトルが日本風で売りにくいの?」とか「アメリカだとどういったものが好まれるの?」とか。「そりゃもちろん、拳銃で頭を撃ち抜くゲームさ!」みたいに言われるんですけど!

G:
わかりやすいですね。

松山:
ヘッドショットがクールだとか、それはちょっと気持ちが分からんわと。日本では戦争はいけないことですから、そこは相容れないわけですよ。戦争で人を殺すのをよしとは思えないじゃないですか、教育もそうじゃないですし。でも国によってはそれが職業としてあります。我々は戦争の格好よさがわからない。でもじゃあ日本人が世界で物が作れないかと言ったらそんなことはなくて、「もののけ姫」にしたって、「千と千尋の神隠し」にしたって、世界で評価される作品だってある。「新世紀エヴァンゲリオン」だってそうだし。本物さえ作れば欧米関係なく皆に振り向いてもらえる作品が作れるんです。

日本人の強みを活かして、アメリカやヨーロッパには真似ができない、そういう物の作り方をしようっていうことで「NARUTO−ナルト−」で勝負したんです。「.hack」シリーズはJRPGなんで、欧米では敬遠され始めてたんです。なので、これで無理して欧米で展開するよりも、「NARUTO−ナルト−」で、本物のアニメに外国人が驚いて、「オーマイゴッド!」と言ってしまうような物を作ってやろう、というコンセプトから始まったのが「NARUTO−ナルト− ナルティメットストーム」シリーズシリーズなんです。その結果、実際にアメリカ人にプレゼンした時に文字通り「オーマイゴッド!」って言われましたからね!今からお前らに「オーマイゴッド!」って言わしてやるから!と、プレゼンで話をして、ボスバトルとかを見せて。こうすると「オーマイゴッド!」ってちゃんと言ってくれるんです。

双方:
(大笑)

松山:
プレゼンもいっぱい練習しました。プレゼンが下手だとこれは不利だなと、色んな世界に行って勉強して。他社さんのプレゼンテーションも拝見させてもらって、私から見ても下手だなこの人、皆寝てるじゃんっていうのと、この人は上手いな、みんなグイーって気持ちを持ってかれているなって。絶対に後者の方が応援したくなるし、記事も書きたくなるじゃないですか!それでプレゼン下手だと致命的だなと思って。うちのスタッフに言っても、なかなか理解してもらえないんですけど、私は人前に出てぺらぺらぺらぺらしゃべるのが好きな人間に見えるかもしれないですけど、もともとすごいあがり症で、ものすごく無理して頑張って説明してるんですよ。ほんとはすごく、プレゼンとか人前に出るのが苦手な方なんですけど、結構努力で頑張ってるんです。そういったプレゼンの甲斐もあって、向こうでは沢山記事を書いていただけて。「NARUTO−ナルト− ナルティメットストーム」シリーズは世界でサイバーコネクトツーという名前を知ってもらうきっかけになったタイトルです。


松山:
私はマンガも好きですけどアニメも好きなんです。なのでユーフォーテーブルの近藤光さんとも仲良くしてるんですけど。アニメーターを心の底から尊敬してるんですよ。ガイナックスっていうチームのクリエイティブは子どものころ、「オネアミスの翼」がまだ「王立宇宙軍」とだけ呼ばれていた頃から知ってたんですけど、私は彼らのクリエイティブがすごく好きで、今でも私の中ではバイブルなんですよ。彼らの作ったものが。アニメーターの発想力には敵わないって今も思います。弊社のタイトルはアニメーションの神作画に匹敵するような、かつゲームならではの映像演出を目指していておかげ様で世界的にも評価を頂いています。

G:
すごいですね。

松山:
「御社のゲームはアニメを超えた」みたいなこと言いますけど、バカ言うなと。全然超えてねえし、アニメーターの発想力をなめんな、と。俺らはまだ足元にも及んでない、と。脳味噌で動きを作って紙とペンだけで勝負してる人々じゃないですか。うちらってCGで組み上げて、おかしいなって思ったらすぐ直せる、そういう世界でやってるわけですから。アニメは、まだとてもじゃないけど全く超えてないと思ってるんですね。だからこそ我々はまだ上にいけると思っていますんで。まだまだやれることゴマンとありますから。やっぱり私は大好きなアニメーターを目標に、アニメアクションとか、それをもっと突き詰めていこうとは思っています。アニメ表現というのは弊社の得意技の一つで、それを一つクリアできたっていうのが「NARUTO−ナルト− ナルティメットストーム」シリーズですね。で、次。ニンテンドーDSで、オリジナルタイトルを。「NARUTO−ナルト− ナルティメット」シリーズでも「.hack」シリーズでもないタイトルが2010年に発売されました。これは弊社が17年前に会社を興してすぐ作った「テイルコンチェルト」と同一世界線で作られているタイトルです。「テイルコンチェルト」の売上は満足できるものではなかったのですが、すごい熱狂的なファンも当然いらっしゃって、応援してくださっていて。今も「テイルコンチェルト」の続編を作ってほしいと望んでくれるお客さんがいらっしゃる程です。10年の思いをもってDSのタイトルでは異常な長さですけど、制作期間3年かけて細ーく長ーく制作し、勝負したのがこの「Solatorobo それからCODAへ」。


松山:
弊社主催のイベントも開催させていただきました。、完全設定資料集や各種関連グッズ、ファンブックなどを作りながら、好きでいてくれているお客さんと一緒に、まだ我々自身が盛り上がりというかね、そういうものを作っていきたいなと思っているタイトルです。次のプロジェクトにもつなげていきたいと思っています。

次はPSPの新しいシリーズですけども、「NARUTO−ナルト− 疾風伝 ナルティメットインパクト」、これは去年の10月に発売されたタイトルですね。これもプラチナ殿堂を頂いてですね……PSPで、ですよ!なのにバンダイナムコさんは「ストーム2は39点だったのに、インパクトは35点でギリギリプラチナだったんですけども、サイバーさんちょっと頑張りが足りないんじゃないですか」って。


G:
そんな(笑)

松山:
なにおう!と。超良くできてるんですよ、これ!まあ、今までで一番ギリギリの戦いでもあったんですが、最後まで諦めずPSPなのに超豪華なタイトルにしようって、やること全部やりました。ストーム2が評価されていたので、超アニメでドラマ・ボスバトルも楽しめて、全方位型からのアニメアクションが楽しめるっていう、しかもドラマも楽しめる通信プレイも遊べるって言う、もう、全部ですよ!全部やりました……(笑)

◆映像作品と地域での活動

松山:
で、次。前作から4年経ったんですけど、今年1月に、私自身で監督をさせて頂いて、、「.hack」シリーズのプロジェクトとして2012年1月から全国公開をさせて頂いた劇場用3Dアニメーション「ドットハック セカイの向こうに」ですね。


松山:
元々は立体視はゲームのためにずっと研究していましたので、そのゲーム屋の技術っていうのを活かして、CGと立体視という表現にこだわって制作しました。ご覧頂いた方にもおかげさまで高い評価を頂きました。

で、次。次はカプコンさんと組んだ「ASURA'S WRATH(アスラズラース)」です。


松山:
馬の合う会社ですね、カプコンさんは。これも3年くらい前に着手した物です。そしてカプコンとサイバーコネクトツーでバカな、誰もまねできないようなもの作ろうぜ、という当初のコンセプトがちゃんと表現できたと思っています。非常に高い熱量を持っていたタイトルで、2月に世界で同時発売しております。また、日本では奇しくも同発だったんですけども、「ナルティメットストーム」シリーズの新しいタイトル、「NARUTO−ナルト− 疾風伝 ナルティメットストームジェネレーション」っていう、新旧のワールドが一同に会して最新キャラで対戦特化型ナルティっていうものをコンセプトに制作しました。本シリーズのナンバリングタイトルみたいにボスバトルが大量に入ってるとか、ドラマが頭から最後まで緻密にRPGのように表現されているというものではなく、バトルに特化して、バトルのシステムを改良とか、色々やってるタイトルです。


松山:
そして弊社開発の最新作が6月28日に発売された「ドットハック セカイの向こうに+Versus Hybrid Pack」です。映像とゲームが両方楽しめるという形で発売されます。ゲームはおまけではなく「.hack」シリーズの1本としてしっかり楽しめる内容になっています。


松山:
それと、これは珍しい話なんですけど、福岡県の防災キャラクターの「まもるくん」を弊社で手掛けております。なかなかキャラクターデザインの仕事は受けないんですけどね。福岡県にはある思いがあって。ちょっと前の話ですけど、福岡が西方沖地震という地震被害にあって、亡くなった方もいたんです。弊社も当然、被害が出ました。なので、福岡の会社として、何か防災意識を高められるようなお手伝いができないかと。ちょっとこう、普通じゃないキャラクターを立ち上げたいということで、ゲーム会社サイバーコネクトツーという福岡の会社が、ただのキャラクターデザインだけではない、まるでゲームのような世界観や設定までさせて頂いてるのが「まもるくん」なんです。福岡県のまもるくんの防災ポスターとかも弊社で作ってます。


松山:
あと、ここ九州・福岡でゲーム会社には、レベルファイブさんやガンバリオンさんなどいくつかゲーム会社があるんですね。そういったとゲーム会社やゲーム関連会社と一緒に、福岡市・福岡県・九州経済産業局・九州大学と産学官連携を持って、ゲームやエンターテイメント産業を盛り上げていくために、GFFという任意団体をつくり、戦略をもって共に福岡をゲーム産業都市にするためにやっていきましょうという活動をしています。昨日も会議をやっていました。◆組織としてのサイバーコネクトツー

松山:
ここからはゲーム会社サイバーコネクトツーが他のゲームとちょっと違いますよ、ということを紹介していきます。ホームページにも掲載されているので簡単に説明致します。うちは今、スタッフが200人以上いますけど、一人のスタッフが何人ものスタッフを束ねるというやり方ではなく、スリーマンセル(3人1組)を基本に行動しています。各チームにトライファクターっていう表がありまして、情報に関してはトップダウンでばーっと下りていって、物作りのアイディアに関してはボトムアップ。3人で相談するんです。アイデアを出しあって「いいねそれ!」ってなったら、上にあがってきて、そのアイデアを今度は上の3人で相談するんです。良ければ上にあがって行って決定する。つまんなければそこでバツンとなくなるという。1人のスタッフが何十人もの人間を見なければいけないってなったら、「管理者がやりたくてゲーム会社入ったんじゃねーよ」ってところがありますんで。うちはこの方式を、私が社長になってから実行しています。スリーマンセルが基本ですが、時には4人1組だとか2人1組だとかという部署もありますけども、基本的にはそうしてます。


松山:
そして、弊社は徹夜禁止です。企業として当たり前だとは思うのですが。ゲーム開発って1年2年3年って長期間かかります。いつか誰かが倒れていいプロジェクトなんて1個もないんですよ。休まず働いたら、体も壊しますから。なので徹夜だけは、ダメ。ただし残業もあるし、休日出勤もあります。でも翌日朝9時に出社することがルールです。遅刻すると当然ですが怒られます。むっちゃ怒りますんで。前の日に飲みに行くのもいいよ、でもその代わり翌日9時に来いと。残業してもいいよ、でも翌日9時にちゃんと来いと。徹夜はダメだと。絶対に帰れと言ってます。だらだらやらず、計画立ててちゃんとやりなさいよと。そういう考え方なんですね。


松山:
次に、年に1回全スタッフに、これから自分が企画したいアイデア書……企画書のひな型みたいなものを制作し、みんなでファミ通クロスレビューみたいにして点数をつけています。みんな自分の企画は100点なんです、俺のが最強って思って企画作るんで。ですが、お客様に見せてみると、「意味が分からん」とか多いですね。それを1人とか2人とか3人に見せてもピンとこないんです。そいう時に「お前にはわからんか、これ」って相手のせいにしちゃうんです。企画ってそういうものなんで。だから、全スタッフで行います。誰が誰に何点つけてるか分からないようにして、点数付けて、200人から0点って言われたらさすがに自分の企画ダメなんだなって。


G:
気づきますね。

松山:
でしょう(笑)ということは多分お客様もそう思うんで。200人近くいるスタッフの過半数以上が、「ん?これなんか面白そうじゃね?」って思ったらお客様もきっとそう思ってるんですよ。なんで、そうやって自分のアイデアを試す場所っていうのは、訓練の意味も含めて新人もベテランも等しくやっています。

あと、独自のルールの話です。ゲーム会社によってまちまちですけど、うちの会社はセクションが4つあって、企画……いわゆるゲームデザインセクションですね。企画と、アーティスト、プログラム、サウンドです。この4つには、それぞれのチームの中にリードって言われているリーダーがいて、さらにチームを束ねるディレクターがいますそれとは別にもう1人だけ特別ディレクションというディレクターを選んでいます。大体選ぶルールの傾向としては、入社して間もない人間が選ばれることが多いです。リードとかって、やはりベテランじゃないですか。そうなると、開発の後半になればなるほど、「いや、今からその仕様変更はないね」とか、こうすると完成しなくなるっていう考え方でハンドリングしてもらわなければ困るんです。チームを何十人も率いてるわけですから。なんですけども、入社して間もない人間だけはですね、後半のこの期に及んで「こういうことしません?」みたいなことを平気で言ってくるんです。知識と経験が無いから。だから毎回もめるんですよ。各ディレクターからはこの制度やめたいって毎回言われています(笑)


G:
(笑)

松山:
私の中では新しいディレクターを育てるための施策なんです。制作現場で絵を描いてる若いスタッフとかって、どうやって物事が決まってるかってやっぱりわかんないわけですよ。だからそういったところに参加すると視野も広がるし、見えるものもある。あと現場に戻った時、他のスタッフにそういう話ができるじゃないですか。上司には上司の責任がありますけども、そこに無理矢理でもいいからチャンスをあげる意味でも若い人間をバコっと入れて。目覚めるかどうかはそのスタッフ次第なんですけども。大体訳の分かっていない新人を選びます。条件はあります。メンタルが強い事。あと遠慮しないやつですね。だから後半になってもおかしなことを言うんですよ。わけわかんないから。「これをした方が面白くないですか?」みたいなことを言って、それ追加したら今からどれだけ時間かかるか分かってんのとか。毎回もめ事になるから嫌だとディレクターはみんな言うんですけど。他にディレクターを育てるいいアイデアがあるなら持ってこいと。今の所そういったアイデアが無いんで、何年もずっと継続中。

G:
なるほど。

松山:
大体そういうことを経験した人間が新しいプロジェクトのディレクターをやることが多いです。「アスラズラース」を作った下田星児っていうディレクターもそうでしたから。そうすると人の何倍も活躍するんですよ。色んなとこに首突っ込むし、やり取りも喧嘩状態になるんですけども、それだけもまれてるってことですから。そういうやつが新しいプロジェクトのディレクターやる時は、周りの人間も「まあそうだよね、こいつだったらやるよね」ってなる。そういうのも含めて、プレゼンテーションが終わってるみたいなところがありますので。

他のルールとしては、「ゲームやろうぜCC2」っていうのがあります。


松山:
弊社は各プロジェクトにゲームソフトを買っています。必要経費だということで。無駄はダメですけど。「モンスターハンター」を4本買って下さいと言われた時は「ちょっと待て」と。それ研究じゃないだろ!って。一番良くなくて、私が大嫌いなのが、アニメーターでもゲームクリエイターでもそうなんですけど、「昔に比べてゲームで遊ばなくなった」とか、「アニメを見なくなった」とか、そういうこと。私が消費者、子どもだったら、むちゃくちゃアニメが好きで、むちゃくちゃゲームが好きで、しょっちゅう映画を見てる、バカみたいな、そういう人間が作った作品と、ゲームは仕事として割り切って、他社の作品にも興味が無いし、そういうスタンスで僕は作ってますっていう人間が作ったゲームのどっちが欲しいかというと、間違いなく前者なんですよ。クリエイターはバカであって欲しいと思います。世の中には色んな会社があると思いますけど、うちは週刊少年ジャンプを読んでなかったら怒られる会社です。マンガを読んでなかったらものすごい怒りますから。私が!

G:
烈火のごとく……。

松山:
今連載してるものとか今週号を読んでることを前提に話しますし、映画も見てること前提に話すんですよ。すいませんそれまだ見てないんで、って言われたら「見てないあなたが悪いんでしょ?」って。映画っていうのは公開された初週に見るのが礼儀なんです。分かりますよね、このビジネスやってれば。業界のひとははみんな初週の動員数を気にしてるんです!じゃあそれを応援するっていうのはどういうことかというと、初週に見に行くという事なんです。発売日にゲームソフトを買う事なんです。メーカーも作り手もみんなそれを気にしてることですから。それがもう当たり前なので。

公開から2週間たって昼飯食いながらスタッフと映画の話してて、「わああちょっと待って下さい、僕まだ見てないんで!」って言うやつがいるんですけど、なんでまだ見てない人に話題を合わせなきゃいけないんだ!って。だからうちはネタばれってそのものがNGワードですよ。公開してから何週間たってんだと!その程度の好きと一緒にすんなと。別に興味ないんだからネタばれされてもいいじゃんって。本当に気になってるんだったら初週で見に行ってるよ?って、そういう考え方です。私は月60冊くらいの漫画雑誌を定期購読していて、基本的には全部読んでいますので、全部読んでることを前提に話をします。映画もそうですしアニメもそうですし。なので見てないとか知らないとかって言うと怒ります。皆が皆そんなスタッフでは当然ないです。そうじゃないスタッフも当然中にはいます。ただ、見てることを前提に話をしますので、皆私が何か説明してる時はしれーっとメモを取ってます(苦笑)

G:
なるほど。

松山:
知らないタイトルの話をしていると、世代のギャップってどうしてもあって。要するに演出の話をする時にも、「やりたいのは要するにあれよ、『ウイングマン』のデルタエンドをやって」って話すんですけど、そうすると「すいません、もう一回言ってもらって良いですか」みたいな。で、お前ウイングマンを知らずに大人になったの!?って。私にしてみれば、手塚治虫って誰ですかって言ってるのと一緒なわけですよ!だから、そういうのも皆が皆知ってるわけじゃないんですけど、知らないってはっきり言うと怒られるんです。「何さぼってんの」って話をするんで。

G:
勉強不足だと。

松山:だから、会社のライブラリにある4千本のDVDをみんな借りてデータベースでミーティングして学ぶ。だって、誰もが知ってる物を見てないと。ゲームクリエイターって、私が言うのも変ですけど、言うほどそういう作品見てないんですよ。私の尊敬するアニメーターって知識欲の化け物で、貞本さんや鶴巻さんや、ガイナックスの方たちだけじゃないんですけど、ものすごい沢山の娯楽に触れているんです。見てもいないし知らないのに「あれはだめだ」とか絶対に言わないですよ。あれも見てるしこれも見てるしどれも知ってるし、食べたことあるしみたいな。ほんと知識欲の化け物みたいな人たちばっかりなんですよ。そんだけ吸収しないと生み出せない、そういう人の典型なんでしょうね。「GANTZ」って作品を描かれてる奥浩哉さんも同じことを言われてたんですけど、自分は誰も見たことのない絵を作りたいんだと、だから沢山の映画を見てきたんだと。で、一つも真似しない。そうしたら誰も見たことのないものが作れると。仰る通りだと思うんです。その為のサイバーコネクトツーのライブラリです。


松山:
それでもね、どこかで見たことがあるような絵面になってしまうのは仕方ないじゃないですか。どこかのアイデアと重なってしまったり、潜在意識的にもあるんで。でもその姿勢がまず大事じゃないですか。ろくに見てもない知りもしないのになんかオリジナルで作った、とかね。言うのは簡単ですけども、それはかっこ悪いと思います。とにかく面白いことを皆で情報シェアしようという姿勢です。そのためにゲームは会社で買っています。自分のお小遣いで買うと、最後までクリアしなかったり、途中で寝たりとかするんで。会社の金で買ったのだから、責任持って最後までやれ!とかちゃんと見ろ!とか、RPGでも何人かで分担してクリアしろとか、ムービー全部アンロックしろとか!

G:
それはすごいですね。

松山:
あとは、他のゲーム会社でもあると思いますが、、会社が儲かったらボーナスいっぱいもらえるよ、と。


松山:
うちは上場企業でもなく、私がオーナーの会社なので、会社に利益を残して税金で取られるよりは、スタッフにボーナスとして全部あげちゃった方が「もっと頑張ろう!」って気持ちになるじゃないですか。その方がいいに決まってるじゃないですか。

あと他のゲーム会社と違うのは、インターンシップを積極的に取ってることですね。



松山:
福岡という土地柄、待っていてもなかなか人は育たないし、だったら育てようという考え方でやっています。求められるスキルが年々上がっていくので、なかなか新卒が合格しにくいっていうのもありますし。なので、うちには4種類のインターンシップがあって、1年を通してずっとやってますね。育てる気満々でやってますから。終わったら学校に返すんですけど、見込みのある人にはちょっと待て、と。現場でアシスタントからやって実績を積んで何カ月以内に社員を目指せ、という話をしてるんです。それで毎年うちに新卒が入社してます。結構こういう人間が強いんですよね。ゼロからたたき上げができてるんで。うち厳しいですから教育が。

G:
インターンって言ってもたたき上げみたいな感じなんですね。

松山:
完全体育会系ですよ、はい。手とり足とりではないですから。結構スパルタでやりますんで。ただ、うちは環境の整ってる会社、プロの現場ですから、これをチャンスと呼ばずなんと呼ぶんだと!それで結果を出せないんだったらやる気なしですから。そんな奴が作ったものは子どもたちに出せないんで。

あと、月に一回だけですけども、会社見学をやっています。


松山:
下は小学生から中学生、高校生、専門学校生、大学生、大卒、あと社会人とか。色んな人が来ます。最近は外国の方が多いですね。海外から日本のゲーム産業を学びたいから20人ほど案内してほしいと。通訳はつけるからとか。あとカナダ大使館や、オランダ大使館。いわゆるゲーム産業が盛んな国が多いですね。ゲーム制作会社では、会社見学ってほとんど受け入れるところないんですよ。とはいえ、ゲームクリエイターを目指している子どもたちにこういう職場なんだよーとかこういう環境なんだよーっていうものを見せてあげることができるじゃないですか。見せられないところもありますが、見せられるところもありますんで。開発しているスタッフの顔とか見たっていいじゃないですか。ここは隠す必要ないんで!だからこんな人間がゲームを作っているんだよ、子供たちに対して、「君らと変わんないでしょっ」ていう。そういうのを見て納得したりとか。もう、とにかく機密機密で全部隠すじゃないですか、ゲーム業界って。隠さなきゃいけない理由もあるんですけど、見せられるものもあるから。この会社見学がきっかけで、ビジョンが明確になって、ゲーム業界目指そうって子どもたちがいるんだったら、それはそれでいいんじゃない、と。気の長い話ですけども。それで10年後うちの門をたたいてくれたらいいじゃない!と(笑)

双方:
(笑)

松山:
彼も実はそうなんですよ(隣にいる社員を示す)。

G:
そうなんですか!

松山:
私が10年から8年位前ですか、福岡の中学校で講演やったんですよ。そのときの中学生です。で、今年面接やって、新卒でうちに入社です。

G:
まいた種が育ったんですね。

松山:
おかげさまで!これからようやくそういう世代がでてくる感じで。よかった〜10年以上前からやってて(笑)

双方:
(大笑)

松山:
次は、制作会社があんまりやっていないことを紹介しますね。ちょっと前からやってるCC2ストアの商品ですね。


松山:
主力商品の一つである「.hack」の完全設定資料集は、私が欲しいと思えるという目線で制作しています。私、設定資料集マニアで色んな会社のアニメの原画集とか買うんですよ。やっぱり決定稿に至るまでのボツ案とか、どういう変遷を経てこの決定稿になったのかとか、すごく気になるんです。でも本当に完全なやつってなかなかないんですよね。エンターブレインさんが出してる本と、アスキー・メディアワークスさんが出してる本は中身がちょっと違ったりとかするんです!結局、別々に買わなきゃいけない。共通項目多いんだから全部1冊にまとめてほしい!!って思います。それで私自身が「.hack」シリーズのファンだったとしたらサイバーコネクトツーが自分たちで作った、現場にあった落書きの1枚から制作者が当時どうだったっていう思いまで載っている、完全な設定資料があったら絶対買うなあと思って。私自身が欲しいっていうのもあって。それで、この完全設定資料集を制作しました。

おかげ様で、ファンの皆様には結構ご好評も頂いています。本業はあくまでゲーム制作なんですけども、基本的には私とデザイン室スタッフ合わせ、2人とかで作ってたんです。構成して完成したら発売するっていう状態で。本業はゲーム開発なんで、なかなかポンポン出せないんですけども、これからも力入れてちゃんとやってこうかなとは思ってます。

次、まずうちの社内ですね。これはもう後ほどご案内しますけど、弊社の開発室はワンフロアです。


松山:
サウンドルームは別で。共用部があって、下に会議室があるんですけど、うちは全スタッフが集まれる広場を必ず作るんです。


松山:
会社によっては全員が集まれる場所が無いっていう所も多いんですけど、弊社は毎週月曜日に、東京も福岡もテレビ会議システムに繋いだ状態で、全スタッフで会議をやっています。進捗報告を約1時間。どの部屋もテレビ会議につなげられるようにしてまいすので、東京スタジオとのコミュニケーションもバッチリです。東京にある会社さんにポンポン博多に出張してもらうわけにいかないので、大井町にある東京スタジオに来て頂いて、テレビ会議システムを使って福岡の我々とミーティングをしています。HD画質で繋いでいるので窓の向こうにいるみたいで!今日も、ついさっきまで東京のスタッフとテレビ会議をしていたんですけど、超いいですよ。テクノロジーは日々進歩していますね。


松山:
次は、ライブラリですね。下のフロアに置いていますけども、マンガは2000ちょい……今3000冊くらいですね。私が家から少しずつ持って来てる、「松山文庫」って言う感じですね。よくマンガ喫茶みたいになっていますが。これは東京にもあるんですけど、4000本以上ありますBlu-ray Disc・DVDですね。最近はBlu-ray Discが多いです。東京にも同じ物を置いてます。これを見てないと話にならないよっていうものから、制作会社ごとに、ガイナックスの棚とか。あとウルトラマンとか仮面ライダーとか戦隊シリーズとかジャンル分けもしています。特撮が大好きなので、そういったものが全部取り揃えてありますね。アニメやドラマ、映画まで網羅しています当然、ジャンプ系も一通り置いてあるんですけども。


松山:
で、次。東京スタジオですね。2年前に作ったんですけど環境は全く同じです。机も全部一緒にしてあるんです。


松山:
制作会社としては珍しいと思うんですが、東京スタジオと福岡本社で別々のものを作らないんです。サイバーコネクトツーの中に他人はいらないんです。


松山:
「東京スタジオで何か作ってます」ってなったら、福岡は関係ないねとか、あり得ませんから。 東京と福岡で別々のものをつくっていたら、お互いよその地の会社と同じわけですよ。なのでそうじゃないと。作る物は、連携をとって、同じものを開発しようと。東京の役目は別にあると。だから毎日会議をやってますね、皆。

福岡って場所柄、GIGAZINEさんのようにわざわざちゃんとお越し頂ける方は、なかなかいらっしゃらないんですよ。出版社も制作会社も東京にあることは多いのは事実なので、「近くまで寄ったので来ました」ってできないじゃないですか。東京は逆にそれが当たり前なんです。ちょっと御挨拶行きます、っていうのが出来るんです。そのための東京スタジオなんです。色んな会社の皆さんとコミュニケーションをとる場所。福岡で開発していても、東京スタジオと同じものが見れるんで、毎日、会議室が足りないくらい。取材も含めて来客があって、そこで得た情報を福岡にフィードバックするのが東京スタジオの役目なんです。


松山:
次、東京と福岡にそれぞれの開発室にモニターを置いて、お互い朝から晩まで中継してます。なので右下が東京スタジオなんですよ、この画面。上と左下が福岡なんですけども。3か所にカメラがあって。


松山:
で、次。ルールも全く一緒です。


松山:
東京なので出社は10時にして下さいって言ったら面接で落ちます。外国じゃないんだから……何、その時差?っていうね(笑)朝9時に来れない人はいらないって。ルール守れないんじゃダメと。大体どんな会社か分かっていただけたと思いますけど。

G:
何から何まで説明して頂いて。

松山:
いえいえ。初めてのお付き合いの方には、最初は大体こういうスライドを用意して、うちはこういう会社で他の会社とこういうところが違うっていうのを説明するんです。お互いのことを何も知らずに「とにかくサイバーさん何かやりましょう!」っていうのは難しいです。実際にお仕事が始まってみたら、うちは結構めんどくさいかもよ?っていうところも含めて、まずはちゃんとお互いのことを知りましょうということで、スライドを使ってプレゼンテーションします。カプコンさんともスタートはそこからでした。だからメーカーさんによっては「サイバーさん忙しいですよね。いつになったら空きます?」みたいなことを言われますが、ラインが空く日はいつかあるかもしれないけど、その時にいきなりお付き合いできるかと言うとなかなか難しいです。せっかくね、弊社とパートナーを組むのであれば、例えばカプコンさんと組むんだったら、弊社とカプコンが組んだからこそできることをやるべきだと思うんですね。カプコンの強み、サイバーコネクトツーの強みを合わせたタイトルで人々を幸せにしないと。それぞれの会社の強みって、やっぱりあるじゃないですか。なので、そういう付き合い方をちゃんとしましょうよって。お話はよく頂きますし、ご相談頂くことも多いんですけど、大体そういう話を始めると、「うわ、サイバーめんどくさい!」って思われるかもしれません。けど、そうじゃないといい仕事はなかなかできないと思いますんで。

◆サイバーコネクトツーができるまで

G:
それで、サイバーコネクトツーはその前にサイバーコネクトがあって、松山さんがそれを引き継ぐ形でサイバーコネクトツーの社長になったということですけど、その時に「俺がやらなきゃいけない」と思った最大の理由って何ですか?

松山:
1つは、私自身が会社を立ち上げたメンバーの一人だったという事ですね。当時は10人で、お金を出し合って会社を作ったんです。ぶっちゃけ資本金300万だったので、1人30万ずつ出しあって作ったんですけども。その時に社長をやってたのが大学時代の同級生。その人は、大学卒業後、有名な某ゲーム会社に就職しました。私以外の9人は全員そのゲーム会社出身なんです。でも私は大学を卒業してから3年間、コンクリート会社で働いていました(笑)


G:
全然関係ない会社だったんですね。

松山:
まあ、お固い仕事をしてましたよ。福岡本社で1年、その後に関西事業部っていうのができて、大阪で2年ちょっと。大阪ドームの建設などに関わっていました。その時に既にゲーム会社に勤めていたその同級生と電話やFAXでやり取りしていたんですけど、色々相談に乗ってる中で、ふとしたタイミングで一緒にやろうという話になって。私も元々エンターテイメント業界で仕事をやりたいなって思っていたんです。自分でマンガを描くとかではなく、自分で独立してやるか、どこかに入って物を作るかなって。出版社に入って編集担当になるのもマンガ作りだと思いますし。アニメ業界でもやりたいし、映画でもやりたいし、色々やりたいなって。でもその中で、まず世の中をちゃんと知ろうということでコンクリート会社に入ったんです。しかもなるべく1000人以上規模の会社で。大学生なんて世の中のことを知らないじゃないですか、当たり前ですけど。なので、世の中のことをまず知ろうと。だからそのために大きい会社が良いと。「島耕作」じゃないですけど。サラリーマンとは何か、会社とは何か、そして仕事とは何かと。どうにもならない壁っていうか、個人の努力、会社の努力でなんとかなることとならないことがあるじゃないですか。その限界の壁を知りたかったので。公共工事は国の発注なので、どうにもならない壁って、どうしてもあるんです。なので、行政や設計コンサルタント、ゼネコンがいて、そこに営業をかけるメーカーだったんですけど、その会社で色々と仕事をして「なるほどー!」って、色んな事を学びました。実は、ゲームって私自身にとって特別ではなかったんですね。自分の中での優先順位はまずマンガ。その次にアニメや映画、その次がゲームが好きなんです。その友達がゲーム会社に入ったのは知ってましたけど、一緒にゲーム会社をやらないかって言われた時に、「ゲームかあ〜」と。といっても、ゲームはもちろん遊んでいました、「ドラクエ」や「FF」。少年ジャンプ巻頭に「次のファイナルファンタジーVIIはプレイステーションだ」っていうのがスクープ記事として載っていたので、「はっはー、ということは任天堂のスーパーファミコンからプレイステーションが主流へとなっていくのかな?」と、「じゃあゲーム業界も大きく動くんだなあ」くらいの感覚でした。ゲームでビジネスをやるって決めていたわけではなく自分が遊ぶ娯楽の1個でした。

とはいえ友人も軽い気持ちで言ってるわけじゃないだろうから、ちゃんとゲーム業界のこと調べてみようと思って、サラリーマンやりながら本屋さんとか図書館に行ってました。そもそもゲーム業界のことを知らないので、ゲーム業界の歴史から学ぼうと。調べたら、まだ、浅い歴史なんですよ。その当時、任天堂さんのファミコンから数えてもゲーム業界の歴史ってまだ15年だったんですよ。今でも30年ですよ。正直ゲームブームって、ファミコンブームからじゃないですか。その前ってカセットビジョンがありましたけど、それがブームかと言えば、昔のおもちゃの一環だったんだと思うんです。じゃあコンピューターがどこから始まったかというとすごい昔の、アタリショックで知られるアタリの時代。元々アメリカの研究室で生まれたのがコンピューターゲームで、そこからインベーダーへと続いて。自身が子どものころに見てた、「ゼビウス」とか「パックマン」とか。ああいう物は、世の中的にはこういう見え方だったんだ、っていうのを福岡の少年ひろしはわかんないわけじゃないですか。

子どものころって皆そうだと思うんですけど、クラスで流行ってる物が世の中で流行ってる物だと思っているわけじゃないですか。どうやらうちのクラスだけで流行ってて、世の中では全然流行ってなかったとか、わからない。クラスで「迷宮組曲」がむちゃくちゃ流行ってると、体感的には100万本売れてるレベルなんですけど(笑)でもその本を読むと、全然話題にもなってなくて、全然そんなことないんだなって。世の中と地方は全然違うんだっていうのを学びましたね。プレイステーションが発売されて、セガサターンが出て、一番驚いたのはこの進化のスピード。ゲームテクノロジーの、コンピュータのスピードがあまりにも早すぎるっていうのと、これで終わりっていう物が全然ない、と。マンガとかアニメーションの技術も日々進化してますけども、基本的には紙にペンで絵を描いて、それを撮影してって、道具は便利になってますけど基本は変わらないじゃないですか。今でこそコンピュータで読み込んでやってますけど。絵コンテがあってっていうのも全然変わらないと思うんです。

ゲームって作り方がまるで違うんですよ。2Dから3Dになったり3Dから立体になったり、色々変化し続けてるんです。HDになったりとか。これはとんでもないスピードの業界だなと。いわゆる決まった形がないんです。ということは、後発で参入したとしてもどうとでもできるな。これから大容量の時代、メディアがでかくなって、カセットじゃなくなる。てことは、自分がマンガもやりたいし映画もやりたい、アニメもやりたい!っていう、そういうことが全部やれんじゃん!と。ゲームは総合エンターテイメントになるんだ、と思ったんです。じゃあ人生かけて、命かけてこ