残りのリンパ球の1つである「B細胞」(骨髄で分化)は存在していたが、抗体である「免疫グロブリン」を産生する「抗体産生能」を消失していた。

免疫機能をほぼ失っているため、臓器移植などを行っても拒絶反応は起こりにくくなるが、そのかわりに病原菌などの攻撃に対する抵抗力が圧倒的に弱くなるため、免疫不全ブタはおよそ2カ月以内ですべてが死亡するなど短命だった。

そこで免疫不全ブタに正常な免疫機能を持つブタの骨髄を移植したところ、免疫機能が回復し、また骨髄移植した5頭中3頭が1年以上生存したことが確認された。

重度な複合型免疫不全マウスはすでにヒト造血系モデルや免疫系モデル、ヒト肝臓モデル、ヒト感染症モデルなど多様なヒトモデルマウス作出に貢献しており、今回の免疫不全ブタはヒトの細胞や組織を移植する、新たな大型ヒトモデルブタ作出への大きな1歩を踏み出したと、研究グループはコメントしているほか、免疫不全ブタは、抗体医薬品開発への利用、再生医療におけるiPS細胞由来のヒト培養細胞の長期安全性試験、実用的なヒト組織や臓器の再生に向けた最初の1歩としても、今後の活用が期待されるともしている。

また、今後の研究展開としては、ヒト由来の細胞を移植するためには、今回の免疫不全ブタでは重度な複合型免疫不全までは示していなかったことから、今後はさらに免疫に関与するほかの遺伝子「Rag遺伝子」の機能喪失も必要と考えられるため、Rag遺伝子の機能を喪失した免疫不全ブタの開発にも取り組んでいるとしているほか、2種類の免疫不全ブタを交配することにより、IL2rg遺伝子とRag遺伝子両方の機能を喪失した重度な複合型免疫不全ブタを作出し、このブタにヒト由来の細胞を移植することで「Humanized pig(ヒト化ブタ)」の開発を目指す(画像5)としている。