生物研など、「免疫不全ブタ」開発で臓器再生などに用いるヒト化ブタに進展

写真拡大

農業生物資源研究所(生物研)、プライムテック、理化学研究所(理研)の3者は、遺伝子組換え技術と体細胞クローン技術の利用により、免疫に関与する遺伝子「IL2rg」を欠損した「免疫不全ブタ」の開発に成功したと発表した。

成果は、生物研 遺伝子組換え研究センター 医用モデルブタ研究開発ユニットの大西彰ユニット長、プライムテック 先進技術開発チームの岩元正樹チーム長、理研 横浜研究所 免疫アレルギー科学総合研究センター ヒト疾患モデル研究グループの石川文彦グループディレクターらの共同研究グループによるもの。

研究は、農林水産省委託プロジェクト「動物ゲノムを活用した新市場創出のための技術開発(動物ゲノムを活用した新需要創造のための研究)」の一環として行われた。

研究の詳細な内容は、6月13日付けで米専門誌「Cell Stem Cell」に掲載された。

これまで、遺伝子組換え技術によって、ヒトの生理現象や疾患を再現できるモデル動物が作成され、さまざまな研究に用いられてきた。

その代表的な1つが、遺伝子組換えにより免疫機能を喪失した「免疫不全マウス」だ。

免疫機能のない動物は拒絶反応を起こさないため、個体間や異種間の細胞や組織の移植が可能という特徴を持つ。

現在では、さらに免疫不全マウスにヒトの細胞を移植することにより、ヒトの細胞や組織を保持する、いわゆる「Humanized mouse(ヒト化マウス)」の研究が進められている。

ヒト化マウスは、創薬のための研究材料としての利用のみならず、新薬の前臨床試験やヒト細胞の分化、機能解析などの基礎研究にも有用であり、医療革命の礎としての貢献が期待されている状況だ。

一方、ブタは、マウスよりも生理学的および解剖学的にヒトとの類似性が高いため、ヒトの疾病や治療法の研究に適している。

そのため、研究グループはヒト化マウスの技術をブタに応用するため、その第1歩として免疫不全ブタの開発に取り組んだ次第だ。

マウスの場合、特定の遺伝子の機能を消失させた、いわゆる遺伝子ノックアウトマウスの作製には、ES細胞(胚性幹細胞)が用いられる。

まずES細胞に対して遺伝子組換えを行い、その後、組換えられたES細胞から個体が再生される。

しかしブタの場合、長年研究してきたにもかかわらず、実用的なES細胞がないため、遺伝子ノックアウトブタの作製ができなかった。

一方、体細胞から個体を再生する「体細胞クローン技術」の開発が進められ、1996年には世界で初めて体細胞クローンヒツジの「ドリー」が誕生。

その後、ヤギ、ウシ、マウスなどの体細胞クローンが誕生し、2000年には、体細胞クローンブタの作出に米国の研究グループと同研究グループが成功していた。

今回、研究グループはこの「体細胞クローン技術」と「遺伝子組換え技術」を組み合わせることで、免疫関連の遺伝子の機能を消失させた、免疫不全ブタを開発することを目指した。

最初に遺伝子組換えにより、免疫機能に重要な役割を持つ「IL2rg遺伝子」の機能を消失させたブタの培養細胞(体細胞)を作成。

その後、得られた組換え細胞を用いて、体細胞クローン技術により遺伝子組換えブタを作出した(画像1・2)。

IL2rg遺伝子は、性染色体のX染色体上に位置する。

そのため、機能を喪失したIL2rg遺伝子をX染色体上に持つ雄(性染色体:XY型)は、免疫不全になった。

一方、雌(性染色体:XX型)の場合は、片方のX染色体上のIL2rg遺伝子が機能を喪失しても、もう一方のX染色体上が正常なIL2rg遺伝子を持つ場合には機能が補われ、免疫不全にならず通常のブタと変わりなかった。

免疫不全ブタでは、免疫に必須な器官である胸腺が欠失していた(画像3)。免疫に関与するリンパ球の内、免疫応答の調節や発達の司令塔の「T細胞」(胸腺で分化)、ある種のウイルス感染細胞や腫瘍細胞を攻撃して破壊する「NK細胞」(骨髄で分化)が消失していた。