緒方:「『幽☆遊☆白書』が知らない世界に突然放り込まれたような環境だったのに対し、『セーラームーン』は前のシリーズから、各話のゲストで出る妖怪や小学生といった細かい役をやらせていただいていました。その次に1クールくらい通して登場する敵の女性キャラ(あやかしの四姉妹の長女・嵐のペッツ)を、さらに劇場版でタキシード仮面の少年時代を担当させていただきました。その後、次のシリーズから出てくる新しいセーラー戦士(セーラーウラヌス)として指名があったんです。そのため制作スタッフの方やほかのセーラー戦士の先輩たちとは1年をかけて信頼関係を築くことができたので、居心地のよい現場でしたし、とても演じやすかったですね」



――ちなみに蔵馬と比べて演じやすかったところはあるのでしょうか?



緒方:「蔵馬は見た目と声は高校生なんですけど、中身が何千年も生きている妖怪という役なので、精神的に老成されています。当時の自分としてはめちゃくちゃ背伸びしている役でしたね。それに比べてウラヌスは相方(セーラーネプチューン役の勝生真沙子さん)が大変頼りになる先輩だったので、自分はのびのびやらせていただくことができました」



演技に必要なのは想像力!



――それまでの中性的な役のイメージが強いなか、『魔法騎士レイアース』のエメロード姫にはとても驚きました。



緒方:「エメロード姫はご指名で役をいただいたんですけど、それまでの間にそんな役をやったことがなかったので、事務所のスタッフ陣が一番びっくりしていましたね(笑)。そんなチャレンジャーなレイアーススタッフの皆さんに感謝しています。私はデフォルメキャラやファミリーアニメが少なく、リアリティーを求められる役が多いんですけど、そういう時は、キャラクターの気持ちを自分の中に作っていって、どのような環境でどのように育った人なんだろう......という想像力を働かせます。恐らくドラマや舞台の役者さんも同様に想像していると思いますが、声の仕事の場合は"声" でしか勝負できない分、さらに想像力が必要となります。エメロード姫は特にガッツリ必要でした(笑)。想像力で補ってキャラクターの気持ちになると、自然にその声になるんです」



――想像力で自然にそのキャラクターの声が出てくるんですか!?



緒方:「だって普通の人だって、特に中学生・高校生ぐらいの多感な時期の女の子は、相手によって喋り方が違うじゃないですか。お母さんに対して『なぁに〜?』とか気だるそうに話していても、大好きな人には『こんにちは〜☆』って高い声になりますよね(笑)。要は置かれている環境の違いです。例えばエメロード姫のようにお姫様だったら、みんなにキレイだと言われ、敬(うやま)われ、何もしなくても何でも与えてもらえる環境。自分がそういう風に育ったらどうなるんだろう?と考えます。そうすると自然に姿勢が変わるし、穏やかな感じで喋るようになるんです。自分の場合は声帯の幅が広いこともあって、高い声も問題なく出せました」



より自然体を追求できた「碇シンジ」役



――アンケートで2位だった『新世紀エヴァンゲリオン』の碇(いかり)シンジについても、リアルを追求したのでしょうか?



緒方:「そうですね。例えば『ありがとうございます』という声も、舞台だとお客さんに聞こえるように声を遠くまで飛ばす必要があります。かといって叫んでいるみたいにならないよう、明快に発声するのも技術の一つです。だけどドラマや映画だと音声さんもいたりして、ゼロ距離で喋っている声をそのまま録って下さるじゃないですか。だからそんなにガッツリと声を張らなくてもいいし、張らないことで、むしろリアリティーのある芝居ができるんです。これはアニメでも通用するんじゃないかとずっと思っていたんですが、それを一番最初にやらせてくれたのが『新世紀エヴァンゲリオン』でした」