2003年に実験線で世界最高速度(時速581キロ)を記録したリニアの先頭車両。2年後の着工に向け、様々な声が上がってきている

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5月25日、JR東海は新幹線開業50周年を記念した国際会議を2014年10月に開催すると発表した。同年には、国内初となるリニアモーターカーも着工を開始する予定。JR東海にとっては節目の年になる。

しかし、そのリニアモーターカーに疑問の声を上げる人たちもいる。特に環境問題に関しては、すでに被害が出ているものもあるという。

1997年、リニアモーターカーが山梨県大月市と都留市の間の18.4km区間で実験走行を開始した。すると、2年後の1999年、山梨県大月市朝日小沢地区では水源が枯れ、川から魚が消えた。当時、同市の水道組合の職員は、「トンネルができて3ヵ月後に水が枯れました。JR東海は代替策として地下水をくんでいます。問題はその補償が30年で切れること。あとは、自分たちでなんとかしなければ」と語っていた。

2009年10月にも、実験線の延伸工事に伴うトンネル掘削で、山梨県笛吹市御坂町の水源である天川が枯れ、昨年末も山梨県上野原市無生野地区の簡易水道の水源である棚の入沢が枯渇した。

「川だけではなく、個人宅の井戸も数十件、リニア工事以後に枯れているんです」(笛吹市の建設部土木課)

実際に着工に入れば、より広範囲で環境破壊が起こる危険性もある。だが、こうした現実はほとんど報道されていない。それはなぜか。

『必要か、リニア新幹線』などの著書もある橋山禮治郎千葉商科大学大学院客員教授(政策学)は、「その構造は原発と同じ」として、次のように語る。

「東京電力がマスコミの大スポンサーだから、原発問題は長年報道されませんでした。JR東海もマスコミの大スポンサーだから、リニアの問題は報道されない。住民の声に対しても、JR東海は『安全です』『問題ありません』と繰り返すだけ。これも東電と同じ」

橋山氏はリニアに賛成でも反対でもない。事業の成功に必要な環境問題、経済性、技術の3つの課題さえクリアされれば「推進に反対する理由はない」との立場だ。

「ただ、現状を見る限り、それら3つの課題に関し、住民が納得するまでの検証を重ねた経緯は見当たらない。それで事業が推進されるのはおかしいと思っているんです」(橋山氏)

リニアモーターカーの予定工費は、名古屋までが5兆4300億円。そこから大阪までが3兆6000億円。国民が期待を寄せる巨大事業だけに、事実が正しく検証されることを祈るばかりだ。

(取材/樫田秀樹、撮影/本田雄士)

■週刊プレイボーイ24号『タブーだらけ!夢の「リニア新幹線」は“第二の原発”か!?』より