渡邊恒雄氏の周章狼狽ぶりから見えること|野球史
日曜日は、朝日新聞の巨人契約金超過問題キャンペーンはお休みだったようだ。ネタがないのか、静観したのか。
ただ、報道以来、各マスコミの渡邊恒雄読売グループ本社会長への取材は過熱気味の様で、読売新聞東京本社広報部とプロ野球巨人軍は、マスコミ各社に、渡邉会長が「身の危険を感じている」と、報道の抑制を申し入れた。
これまで、この種の事件が起こったときは、渡邊恒雄会長は、記者を前に余裕綽々でパフォーマンスをしたものだ。記者の数が多ければ多いほど、ドヤ顔になるという感じで、お得意の球界再編論や他メディア批判をしたものだが、今回はダンマリを決め込んでいる。「下手にしゃべるな」と会社側から箝口令が出ているのかもしれない。
メディアから流れる氏の写真も、やつれているようで、急に老人の顔になったように見える。ここに、今回の事件に対する読売側の衝撃度が見て取れる。
読売新聞は日曜の朝刊で、朝日の記事が対象とした1997年以降こうしたトップ機密を知りえた役員は10人だとした。このうち6人は朝日の取材を受けず、残る4人の内3人も取材拒否をした。残る一人、清武英利氏だけが資料を朝日に提供することができた、としている。
清武氏はこの件についての読売新聞の取材を拒否したようだが、やはり今回の内部資料流出は、清武英利氏によるものと考えてよいようだ。
巨人側が事実関係を争う気が全くなく、違法性の有無やプライバシーでしか反論しないのは、朝日の手元にある内部資料の確度が極めて高い=つまり本物であることを知っているからではないか。また、渡邉会長の憔悴ぶりも「飼い犬に深手を負わされた」衝撃によるものではないだろうか。
今や法廷で争う間柄になった巨人と清武氏である。巨人は弁護団を結成し物量にモノを言わせているようだ。劣勢に見える清武氏側が、このタイミングで切り札を切ったのではないか。
だとすれば、朝日新聞側はさらに決定的な資料ももっている可能性が強い。それは2007年11月の「契約金上限の申し合わせ」以降の巨人入団選手の契約にかかわる内部資料だ。
巨人側は、今回上げられた6選手の契約について、「最高標準額」が「目安」であった2007年以前の契約であり、違法性もなく、ルール違反でもなかったとしている。しかし、2007年以降の裏契約資料が出てくれば、巨人側は完全に敗北する。
具体的には2007年の大卒ドラフト1位村田透、高卒1位藤村大介、2008年大田泰示、2009年長野久義、2010年澤村拓一、2011年松本竜也である(松本は微妙か)。特に、長野、澤村はその年のドラフトの目玉であり、巨人が単独指名している。巨額の金が動いてもおかしくない。
想像をたくましくすれば、読売側はすでに朝日、清武側に交渉を持ちかけているかもしれない。壊滅的な敗北を回避する代わりに、訴訟を取り下げるとか、清武氏の名誉を回復するとか。朝日側にも何らかの譲歩を持ちかけるかもしれない。しかし清武氏との交渉はともかく、大メディア同士である読売、朝日間での取引は、難しいような気がする。
読売側は、朝日側に内部文書を入手した経緯について説明するよう、質問状をだし、回答次第では法的手段に訴えるとしている。「取材源の秘匿」はジャーナリズムの基本だから、朝日があっさり種明かしをすることは考えられないと思うが。
この一連の事件が、フェイドアウトのような気持の悪い終わり方をしたとすれば、そこに何らかの取引があったと考えてもよさそうだ。清武氏の立場が今後どうなるか、がポイントではないか。
例によって「なぜこの時期に」という意見が識者の間からちらほら出ている。ではどんな時期であれば、良かったというのだろうか?この程度の寝言なら、近所のおじさんおばさんでも言える。
野球ファンとしては、建前と実態がかい離し、裏金や裏交渉が常態化し、ブローカーまがいの人物が横行するNPBとアマチュア球界の浄化のために、この際徹底的な真相究明を求めたい。
プロ野球が政治の世界でいう「解党的出直し」の契機となることを期待したい。
※夜半を過ぎてから騒々しくなってきた。
続報:
清武氏は共同通信の取材に応じ、情報を流出させたとの読売側の報道を否定、編成担当だったので「(契約書が入った金庫を)見たこともないし、触ったこともない」と話した。
もし、内部にもう一人内応者がいたとしたら、それはそれでゆゆしき事態だ。
また、清武氏は新人獲得について担当した2005年以降、契約金上限を超える契約はなかったとしている。これは微妙な話だ。
「申し合わせに違反する契約をした」と清武氏が言えば、氏自身が不正に主体的に関与したことを白状することになる。否定することで、仮に申し合わせ違反の事実が露呈しても、「私の知らないところで動いた話」ということが出来る。
清武氏は11月の「清武の乱」以来、もっとも優位な立場にいるのではないか。
続続報:
読売側は、共同側から配信された記事を否定し、「清武氏は、契約内容を知り得る役職にいた」と反論した。それはそうだと思う。