「(藤原と川内の)2人は従来の形にとらわれない考え方を持っている。実業団選手も従来の価値観だけでなく、新たな考え方を取り入れていく必要がある」

 東京マラソン終了後、日本陸連男子マラソンの坂口泰部長は2人の「脱実業団選手」について、こう触れた。実業団のやり方への「ダメ出し」である。この真意を、陸上専門誌ライターは次のように解説する。

「世界では現在2時間3分台の勝負をしていますが、日本マラソン界は02年10月に高岡寿成が出した2時間6分16秒という日本記録を10年以上も破ることができずにいます。しかも、ここにきて台頭しているのは、(藤原、川内ら)実業団選手ではない。大学長距離界の有望株はほとんどが実業団に入りますから、ゆゆしき事態です」

 なぜ、実業団選手は育っていないのか。前出・アマスポーツ担当記者が話す。

「実業団の親会社は、個人名がフィーチャーされるマラソンより、団体で企業名が露出する駅伝での成果を求める傾向がありますね」

 さらに、実業団の指導者の姿勢を問うのは、前出の専門誌ライターだ。

「不景気な世の中ですから、駅伝で結果を出さないと廃部になる可能性も低くありません。でも取材をしていると、『大事に選手を育てるよりも、使い捨てでもいいから目先の駅伝で結果を出して、自分の首をつなぎたい』という本心が見え隠れする指導者が、残念ながら多いんです」

 そもそも、駅伝とマラソンの練習方法にはどのような違いがあるのか。スポーツライターの折山淑美氏の解説を聞こう。

「駅伝は1区間通常10〜20キロですから、スピードを追求する練習がメイン。そして質より量を求める傾向がある。体には相当な負荷がかかり、耐えられない選手は故障します。一方で、マラソンは駅伝の2〜4倍を走るため、長い距離を走る練習をしなければなりません。距離が違えば、刻むラップや負荷のかけ方など、駅伝とは走るリズムも変化する。しかも大会に合わせて鍛錬期、調整期と長いスパンをかけ、高地合宿に行ったりと、時間と手間がかかるのです」

 手っとり早く駅伝に…ということなのか。藤原の場合、契約トラブルがあったにせよ、練習方法にも疑問を感じていたようだ。

「JR東日本に在籍していると、例えばニューイヤー駅伝などに、半ば強制的に出場しなければならない。駅伝に出るなら、そのための練習をする必要がある。合宿もあるし、決められた時間に決められた距離を走ったりします。実業団特有の練習ですね。が、マラソンは個人競技だから、本番から逆算して自分で調整できる。藤原はそれを選んだということです」(日本陸連関係者)