日本の統治構造において、明治の廃藩置県以来の大改革となる「道州制」。そのメリットは中央集権システムの弊害、すなわち非効率的な統治構造を一掃し、地方分権による活性化が実現できると推進派は予測する。

 だが、もちろんいいことばかりではない。立命館大学法学部の村上弘教授が、道州制導入で想定される負の事態を指摘する。

「道州制には府県から道州への集権化にすぎないのではないかという不安もつきまといます。例えば、大阪を州都として関西州を作る場合、大阪への集権現象が起き、京都や兵庫が埋没しかねません。それまで京都のことなら京都の住民と知事、議会で政策決定していたことも、大阪の州政府で決められてしまう。都道府県が維持されていたことで保たれていた地域の多様性や地名なども失われかねない。州都になれなかった県都の人口は3分の1くらいに激減するという予測もあります」

 結局、国という単位を道州に縮小したとしても、そこでまた中央集権・一極集中が起こってしまうということだ。

 また、京都大学経済学部・岡田知弘教授は経済面で懸念する。

「道州制の推進論者には経団連など、日本をグローバル企業が活動しやすい国に作り変えたいと考えている向きが少なくない。都道府県の統合や国の出先機関の廃止で浮いた十数兆円の資金で、グローバル企業が利用する空港や港湾、道路などを整備しようというものです。ただ、インフラを整備してもグローバル企業が進出する保証はなく、進出したとしても地域が豊かになるとは限りません。関空なんかはいい例で、1兆円近くかけて建設したのにもかかわらず、自治体は巨額の赤字を抱えることになってしまった。しかも、工事は外国企業や東京系企業が受注してしまい、大阪経済を潤すことにはならなかった。県庁がなくなると、周辺地域の衰退は一層進むことになるでしょう」

 そうなれば、道州政府や基礎自治体が国から引き継いだ医療、教育、福祉サービスも劣化しかねない。前出の村上教授が続ける。

「内政を国から地方(道州)に移したからといって、すべてがバラ色になるわけではない。住民自治という視点から眺めると、道州制により行政の範囲が広域になることで住民と地域政府の距離は遠くなります。それは『地方の実情に合った自治』を破壊するかもしれない。だからこそ、道州制の論議には冷静な見極めが必要です」

 はたして道州制は日本を元気にする起爆剤となるのか、それともさらなる格差と衰退をもたらす毒薬となるのか? 本格的な議論は続く。

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