とりわけ世間の記憶に生々しいのは、損保ジャパンとの統合に踏み切る前年の'09年に起こった、当時の松沢建会長と兵頭氏の壮絶バトルだ。日本興亜OBが続ける。
 「松沢さんは副社長(当時)などと連名で損保ジャパンとの統合に反対の文書を叩きつけ、自らが後継者に指名した兵頭さんを牽制したのです。これだけでも非常事態は明らかだというのに、臨時株主総会では松沢さんが兵頭さんに激しく詰め寄り、会場が緊迫した。公の場で先輩会長が後輩社長をトコトン追い詰めて斬り込むなんて前代未聞でした。しかも筆頭株主の米投資ファンド(サウスイースタン・アセット・マネジメント)が松沢さんの応援団長を買って出て会社を揺さぶるオマケまであった」

 当時の松沢氏は、兵頭氏が損保ジャパンとの統合を決めたのは「自分のポストを確保したいからだ。統合で得するのは損保ジャパンで、日本興亜は大損する」と指摘。返す刀で「兵頭は気骨のある社員を排除し、ものを言えない雰囲気に追い込んでいる」と斬って捨てた。
 しかし、そんな血みどろの攻防戦から3年余が過ぎ、今度は「百戦錬磨のツワモノを自負する自信家」(関係者)の兵頭氏が会社から追放され、両社の合併に弾みがつく。まさに“因果は巡る”とはこのことだ。
 「兵頭会長だけでなく、佐藤社長までが退くことで桜田-二宮の新コンビはもう誰に遠慮することもなく独自カラーが発揮できる。その点ハッピーでしょうが、両雄並び立たずと言うように、遠からず2人の力関係に変化が生じるとも見られている。日本興亜は日本火災と興亜火災が合併した会社ですから、人事抗争の修羅場をくぐってきたという点では一日の長がある。が、規模で勝る損保ジャパンが経営権支配に意欲を燃やすようだと、足元をすくわれかねません」(経済記者)

 もっとも損保ジャパンにしても安田火災と日産火災、大成火災が合併した会社。それなりの免疫があるとはいえ、旧安田火災が腕力で押さえ込んだ側面は否めない。前出の日本興亜OBはその点にも危惧を抱く。
 「合併となれば本社所在地、役員構成に加えて社名をどうするかが問題になる。これで損保ジャパンが日本興亜を“吸収”しようとすれば決裂などの事態もある。日本興亜には、兵頭さん同様『損保ジャパンの言いなりになってたまるか』の気持ちが強いですからね、これを見誤ったら天下の笑いものになります」

 NKSJは日本興亜のNKと、損保ジャパンのSJを単純に継ぎ足した社名。両社の力関係にも増して、合併後のネーミングセンスも問われそうだ。