「風俗に行かなくてよかった」発言で一躍お茶の間の人気者になった西村賢太に続き、今度は「都知事閣下と東京都民各位のために、もらっといてやる」発言で田中慎弥が大ブレイク。ここ3回はニコニコ動画で生中継されていることもあってか、日比谷の東京會舘で開かれる芥川賞受賞会見に注目が集まっている。
 週刊誌などでも歴代珍会見が記事になったりしてますが、当欄では、この機会に、2000年以降の芥川賞受賞会見武勇伝をまとめてみた。伝聞や噂レベルの話も混じってるので、話半分くらいでひとつ。

 トップバッターは、第123回(2000年上半期) の町田康(「きれぎれ」)。記者会見で、芥川賞受賞の喜びを「アフロでファンキーなビート」と形容、各紙がいっせいに飛びついて見出しに掲げ、ちょっとした流行語になった。
 もっともこれは、「いまの気持ちを音楽にたとえると?」という記者の誘導質問から、無理やり引き出されたものだったらしい。ウカツなことを言うとあとあとまで祟ります。

 同じく受賞の気持ちを聞かれて、「ま、めでたいな、というくらいです」と答えたのは、第128回(2002年下半期)の大道珠貴(「しょっぱいドライブ」)。4度めの正直(3回落とされたあとの受賞)だと、このくらいが正直なところかも。

 同じ質問に対して、「芥川賞は足の裏に付いたご飯粒みたいなもの」と、まるで謎かけのような答えを返したのは、同じく4回目で受賞を果たした絲山秋子(第134回「沖で待つ」)。そのココロは、「とれないと気持ちが悪いが、とっても食べられない」だそうで、なるほどごもっとも。とはいえ、芥川賞をとると、かなり長いあいだ、食っていくことくらいはできそうです。

 ちなみにこの受賞会見後、選考委員との懇談の場で、絲山秋子が山田詠美に向かって「あんただれ?」と言ったという伝説がありますが、正しくは、詠美さんではなく(同じく選考委員の)蘯のぶ子さんが相手だったらしい。しかも実際は、「おめでとう!」と近寄ってきた高樹さんに対し、「どなたですか?」とたずねただけだという話。
 もっともこの後、絲山×山田間でひと悶着あったのは事実らしく、「おぼえてろよ」と捨てぜりふを吐いた詠美さんに、絲山さんが「おまえもなー」と返したという伝説もある。女性の芥川受賞者ではダントツの勇者かも。

 勇者とは反対の方向に強くアピールしたのは第130回(2003年下半期) 「蹴りたい背中」の綿矢りさ(当時19歳)。受賞会見のとき、膝小僧にバンドエイドかなんかを貼っていて、記者が「その膝は?」と質問したところ、めちゃくちゃ恥ずかしそうに手で絆創膏を隠しながら、そのときだけ京都訛りで、「いやぁ、やっぱりわかるか......」とつぶやき、そのあと消え入りそうな声で、「すみません、自転車でぶつけて」と謝った。芥川賞受賞会見史上、最萌の瞬間。

 しかし、受賞会見史上最大のパフォーマンスといえば、その次の第131回「介護入門」のモブ・ノリオにとどめをさす。
 会見場に入ってくるなり、「ごめ〜ん」と叫びながら、6本のマイクがきちんとセットされていたテーブルに向かって思いきりダイブ。テーブルごとぜんぶひっくり返して、会場はシーン......。
 各メディアの音声担当者は、無表情のまま無言でテーブルを直し、マイクを拾ってもとどおり再セッティング。さらに、仕切り直しではじまった会見のモブ・ノリオ第一声は、
「どうも、舞城王太郎です」
 同じ回に「好き好き大好き超愛してる。」で候補になっていた舞城王太郎が覆面作家で、素顔を見せない(第16回三島由紀夫賞の受賞会見・贈賞式にも顔を見せなかった)ことを踏まえたギャグだが、これまた会場はシーン......。
 まったくみごとな滑りっぷりで、これまた芥川賞の歴史に名を刻んだ。

 勇者といえば、第137回(2007年上半期)「アサッテの人」の諏訪哲史もはずせない。
こちらは受賞会見ではなく、贈賞式の受賞者スピーチでの話だが、登壇してマイクの前に立つと、
「群像新人賞の授賞式で『舟唄』を歌ったところ、会場が思いきりシーンとしてしまいまして、あれだけは絶対やめろと親戚・友人一同から言われたんですが、今日はそのリベンジをやりたいと思います。ただし『舟唄』は暗くなることがわかったので、ここは細川たかしさんで行きたいと思います。『演歌は譲れないのかよ!』とお思いでしょうが、そこは譲れませんね。ではみなさん手拍子をよろしく」
 ......というハイテンションな前フリに続いて、「心のこり」を熱唱。「わたしバカよねぇ」の名調子に、会場は爆笑と喝采と微妙な空気に包まれた。
 その夜の二次会では、受賞者みずからタンクトップ一枚になり、締めの挨拶では、だいたひかるネタのどうでもいい話(「どうでもいいですよ」と歌ってから始まるやつ)を披露。はては東京都政にまで言及する暴走ぶり。歴代受賞者の中でも指折りの勇者だろう。

 こうして見てくると、西村賢太、田中慎弥も、芥川賞の伝統の継承者。このふたりが会見のハードルを上げすぎたんじゃないかと危惧する声(豊由美)もあるが、新たな勇者が次々に登場することを願ってやまない。

(大森望)







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