「世界一幸せな国」ブータンと幸福の尺度 【テレンス・リーのニュースを斬る!】

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ジグミ・ケサル・ナムゲ・ワンチュク国王とジェツン・ペマ・ワンチュク王妃の来日でブータン王国への関心が一気に高まった。

同時に「国民総幸福量(GNH)」という哲学も広く知られるようになった。

この国民総幸福量という考えは、1972年に当時のジグミ・ミンゲ・ワンチュク国王が提唱したものだ。40年も前に物質的豊かさでなく精神的豊かさを国家の指針に据えたのは驚異的と言わざるを得ない。数年前に実施された国勢調査では、国民の実に96.7%が「幸せ」と回答しているから、この政策は一応の成功だったといえるだろう。

たしかに幸福の尺度はいろいろあるだろう。だが、長期化する平成大不況、忍び寄る世界恐慌の足音を聞きながら「資産の多寡で幸不幸が決まるのか?」、「これまで信じて疑わなかった価値観が本当に正しいのか?」と首を傾げていた人は少なくないはずだ。

余談だが私はブータン王国に行ったことがある。かれこれ20数年も前のことだが強烈なカルチャーショックを受けたものだ。

ガタガタの中古ジープを運転してブータン王国のある村に差し掛かった。小休憩のためジープを停めて一服していたら、子供たちが物陰から恐る恐るこちらを覗っていた。

しばらくするとその子供たちが、バケツやら錆びた空き缶やらに水を入れて持ってきた。通訳が「ジープに飲ませたいらしい」と微笑んだ。子供たちは生まれて初めて自動車を見たのだった。疲れたジープに水を飲ませてやれといったのだ。

これを非文明社会と一蹴していいのだろうか?

あのときの子供たちがいまは家庭を持つ年齢となり、彼らが「幸せだ」と回答しているはずなのだ。幸福の尺度をあらためて考えずにはいられないだろう。

結局、ブータン国王と王妃の来日は、病んでいる時代の病んでいる日本人に福音だったと思う。幸福の尺度を再考する機会を与えてくれたことは、それ自体が幸せなことだ。

師走にあまりネガティブなことはいいたくないが、来年はもっと厳しい時代になるかもしれない。そのタイミングで日本人に「幸福」の意味を投げかけたブータン国王夫妻の来日は、やがて必ず生きる糧になると私は信じている。

(テレンス・リー)