『花のズボラ飯 うんま〜いレシピ』久住昌之監修、水沢 悦子イラスト/主婦の友社
冷蔵庫のアリモノでできるレシピがてんこ盛り。一見不思議に見える組み合わせでも、試してみると不思議な成果が味わえます!

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毎年年末に発刊される「このマンガがすごい!」シリーズの最新刊、「このマンガがすごい! 2012」でオンナ編(少女誌・女性誌)の1位を獲得した『花のズボラ飯』(作・久住昌之/画・水沢悦子)。いまもっとも勢いのあるマンガのひとつと言っていいでしょう。今年の春に行われたマンガ大賞でも4位に入賞し、その少し前にこのエキレビ!でたまごまごさんも「『孤独のグルメ』原作者のズボラ飯とは? 30代の家庭料理マンガに注目!」という記事で紹介しています。どんな作品かはWiki先生の説明がわかりやすいので、以下に引用しておきます。決してぼくがズボラなわけではありません。

「夫が単身赴任となってしまった主婦・花が、毎日のごはんを手抜きメニュー(ズボラ飯)で乗り切ろうとするグルメ漫画作品。主人公の心理描写が多いことなど、同じく久住原作の別作品『孤独のグルメ』(谷口ジロー:作画)と共通する部分も多い」

そんな『花のスボラ飯』からリアルレシピ本、『花のズボラ飯 うんま〜いレシピ』が出版されたという話を聞いて少々驚きました。というのも、マンガのなかに登場するレシピには、完成型の味が想像てきない品がいくつかあったからです。実際、マンガの原作者であり、本書の監修者でもある久住昌之氏はこのレシピ本のあとがきで「ボクはこれまで、普段、料理なんてほとんどしませんでした」と言っています。

とはいえ、出版社もあまたのレシピ本を出版している主婦の友社。ヘタなものを出してくるはずがありません。載録されたレシピは『花のズボラ飯』に登場したメニューを中心に計107点。「コミックスに紹介しきれなかったメニューもわんさかてんこ盛り」とまえがきに書いてあるとおり、マンガに登場したメニューをジャンルごとに分類していて、そこからの発展系メニューも多数載っています。

実はワタクシ、今年の春に行われたマンガ大賞の慰労会で調理場担当として、マンガに登場するメニューを再現するという企画に携わりました。『花のズボラ飯』からも、何品か作らせて頂きましたが、これがとても難しかった! 敬愛する料理研究家の先生がよく「料理は、いろんなものを混ぜるほど、まずくなるリスクが高くなる」と仰っていますが、時折花はそれをやるんです。

例えば、本レシピの第一章「創作トースト」のしょっぱなに登場する、「シャケトー」や「ピザトースト シャンチョビ味」などのシンプルな品ならまったく問題ありません。味も想像できますし、実際担当となった友人も軽々とこなしていました。大好評です。ところが、このレシピ本のオビにもなっている「ポトケチャミルクミソ鍋」など、本当に苦労させられるメニューが『ズボラ飯』にはあるのです。

普通にポトフを作ればいいのに、マンガでは「味がぼやけたか?」とか言いながら、牛乳、トマトケチャップ、味噌など、常識では考えられない調味料を次々と投入するのです。読み手としては「ああっ!」「ダメ!」「やめてえ!」「逃げてええ!」と叫びたい衝動を抑えるのに必死でした。

そして先の再現企画で一番頭を悩ませたのが、この「ポトケチャミルクミソ鍋」。どうしてもおいしそうとは思えなかった上に、食べたこともないから目指す味もわからない。迷路に入ったワタクシはコミックスの主人公・花さんと同じように、次々に「これくらいか……?」とヤマカンで調味料を投入していきました。しまいには自分の味覚で対応しきれなくなり、周囲にいた人に「どう思う?」と次々に味見を迫る始末。「自分で判断できないなんて、もう自分に調理場に立つ資格はない……」(アマチュアですけど)。そんな挫折感を味わわせるほどの難敵メニューが、『花のズボラ飯』には時折登場するのです。

まだ現時点では、本書のレシピ通りの分量では試していませんが、少なくともオールカラー、128ページにわたってつづられた本書のメニューはどれもおいしそう。「ポトケチャミルクミソ鍋」も春に再現したものとは微妙にスープの色合いが違うので、きっと絶妙のバランスとなっているに違いありません。「ああ、あのときにこの本があれば……」。そんな気持ちでほぞを噛みながら、どのレシピを試してみようかワクワクしてしまう。『花のズボラ飯 うんま〜いレシピ』はそんな相反する衝動を喚起する不思議なレシピ本なのかもしれません。
(松浦達也)