9件の強姦致傷罪などに問われた被告に、「異例」という懲役50年の実刑判決が下された。裁判員裁判ではあったが、そこには相応の理由があったようだ。

「お前、殺されたいの?」。静岡県長泉町の無職、小沢貴司被告(35)は、路上でこう脅すなどして、9年間で女性9人に手荒い乱暴を加えていたという。

24年、26年の量刑が一度に足される

静岡地裁沼津支部は2011年12月5日、こうした小沢被告の犯行を「徹底した矯正が望まれる」などと断罪した。判決によると、小沢被告は、車を走らせて狙い目の女性を探し、犯行では女性の首を意識を失うほど強く絞めたり、頭をコンクリートに何回も打ちつけたりしていた。襲った9人のうち4人からは、現金を強奪するなどもしていた。

懲役50年もの刑になったのは、別々の量刑が一度に足されたためだ。

小沢被告は、09年3月に窃盗罪で懲役1年、執行猶予4年の判決が確定している。刑法では、確定判決の前と後では、量刑が併合されずに分けられることになっている。有罪判決が出たにもかかわらず、再犯に及んだのは悪質だとみなされるからのようだ。

今回の事件では、01〜08年の5件が懲役24年、09〜10年の4件が懲役26年の判決だった。なお、検察側は、有期刑の上限になる懲役30年をそれぞれ求刑していた。

ネット上では、この判決に対し、「性犯罪者の人権を考えれば、この量刑は重過ぎるだろ」「人殺しても五年くらいで出てこれる奴も居るのに」などと疑問視する声も一部である。しかし、性犯罪の厳罰化を反映してか、多くは、小沢被告の犯行に厳しい見方をしているようだ。

「やっとまともな裁判のできる国になってきたな」「これでも軽すぎるくらい そもそも再犯率の高さ鑑みたら更正なんて全く期待できない」「そのうち100年とか200年とか出てくるんだろうな」

「強姦致傷を繰り返せば、無期懲役刑もある」

産経ニュースによると、小沢貴司被告の弁護側は会見で、懲役50年という判決に「無期懲役より重い」と反発した。

社会の厳しい目を反映して、無期懲役の受刑者も刑期が長くなり、終身刑化が進んでいると報じられている。それでも、最近は、35年ほどで仮出所できるともされている。弁護側は、このことを意識して発言したらしい。

弁護側はまた、「裁判員裁判における求刑の仕方を模索したのではないか」と検察側を批判した。小沢被告は、判決を受け入れるかもしれないと漏らしているともいうが、弁護側は控訴する方針だという。

判決について、司法関係者からも「あまりに形式的な判決だ」との批判が出た。併合審に比べて量刑に極端な格差があるのは望ましくないというのがその理由としている。

一方、メディアでのコメントも多い板倉宏日大名誉教授(刑法)は、判決を「当然だと思います」と評価する。

「日本では、確かに珍しく異例のことです。しかし、もともと強姦致傷が複数回にわたる場合、無期懲役刑もありうるんですよ。外国なら、何十年の懲役刑というのは、いくらでもあります」

職業裁判官による裁判であっても、量刑はそんなに違わないはずだという。検察側が裁判員裁判を意識して求刑したという主張にも否定的だ。

形式的な判決とも言えないという。

「殺人事件であっても、このごろは量刑が重くなっています。もし何人も殺したケースならば、死刑になりますよ。刑法に規定があるわけですし、今回は、強姦致傷などが9件もあるわけですから、合計で懲役50年でもおかしくありません」