「風邪はひかないに越したことはありませんが、ひいたときはぜひピンチをチャンスに変えましょう」風邪の季節を前にひいたときの心構えを説くのは中国で一番有名な日本人・加藤嘉一氏。加藤流のリスク・マネジメントとは?

     *     *     *

 皆さんにお伝えしなければならない衝撃的な事件が起こりました。

 連載当初、このコラムで「ぼくは常に気持ちを張っているから風邪なんてひいたことがない。どうやったらひけるのか、逆に教えて!」と言いましたが、実はこのたび、なんと風邪をひいてしまいました……。15時間ほど……。ぼくは自分を責めました。まさか風邪をひく日がくるなんて。

 先日、ぼくはマカオで講演をし、翌朝に日本へ帰国する予定でした。ところが、講演後に関係者と食事をしてからホテルに戻ると、なぜか急に具合が悪くなってきたんです。

 変なものを食べたわけでもないし、疲れが出たのかと思っていたんですが、どんどん意識がもうろうとしてくる。これはイカンと思い、気合いを入れるために水のシャワーを浴びました。廊下に出て仲良くなったホテルの従業員の方にお願いし、顔面を3発ほど平手打ちしてもらいました。それでもいっこうに回復の気配はありません。

 これはもう寝たほうがいいと午前0時頃にベッドに入ったのですが、普段はどこでも熟睡できるぼくが、1時間おきに目を覚ましてしまう。そして、午前3時頃体温計を脇に差すと、なんと40度近くも熱があるじゃないですか……。

 そんな数字を見たのは、人生でわずか2度目です。ぼくとしたことが、久しぶりに心が折れそうになりました。「俺ってこんなに免疫力がなかったのか」と落ち込みました。少なくとも60秒は……。

 そこで、ここは気持ちを切り替えて、これも人生の修行なんだと思うことにしました。気合いで眠るように心がけました。

 翌朝、出発予定時刻は9時半。強引に8時頃体をベッドから引きずり出しましたが、依然として最悪の状態。この時点で、ぼくがやらなければいけないことは仕事も含めて10個ほどありました。

 しかし、何より優先すべきは「帰国する」こと。スケジュールが埋まっているので、絶対に飛行機に乗らなければいけません。まず体力をつけるために、食欲はまったくありませんでしたがお粥と野菜と牛乳を無理やり胃袋に詰め込みました。

 ギリギリ意識を保ちながら、考えていたのはなんとか飛行機に乗り込むことだけ。普段とはまったく違う厳しい状況でしたが、正直、心のどこかでそれを楽しんでいる自分もいた。ピンチにおいて、いかに冷静な判断を下すことができるのか。プロセスを創るのか。これぞリスクマネジメントだと。

 弱った体ではすべてを処理できないので、「何をやりたいか」ではなく「何を捨てるのか」というプライオリティを本能的に見極めなければならない。言い換えれば、どこで妥協するかということです。このときは、コラムの執筆よりも日本への帰国が優先と考え、実践しました。

「実践こそが真理を測る唯一の基準である」

 中国にはこんな言葉があります。危機的な状況の中でこそ学ぶべきこともあるのだと、あらためて感じました。飛行機に乗り込んだら爆睡し、結局、日本に着いた時にはほぼ平熱に戻っていたので、ぼくのチョイスは正しかったのだと思います。

 そろそろ風邪がはやり始めているようですが、もしかかってしまったときはぜひ、もうろうとする頭で“リスクマネジメント”について考えてみてください。そんなときは妥協こそ正義なんです。

■加藤嘉一(かとう・よしかず)
1984年4月28日生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学。中国国内では年間300本以上の取材を受け、多くの著書を持つコラムニスト。日本語での完全書き下ろしとしては初の著作となる『われ日本海の橋とならん』(ダイヤモンド社)が発売中

【関連記事】
中国旅行で最大のリスクは「反日感情」よりも「衛生面」
ギリシャから欧州に広がった財政危機は「ユーロ」という通貨システムの構造的問題
東京湾から脱原発の第一歩。「東京都天然ガス発電所」プロジェクト始動
“被曝米”の産地を隠すロンダリングが行なわれている?
アンドロイド携帯を急増するウイルスから守るためには?