ロンドン五輪アジア最終予選の首位攻防戦。2戦2勝同士の対決は、日本がシリアを2対1で破り、今予選で初めて首位に立った。

 過去2戦を連勝しているとはいえ、攻め続けたわりには、いずれも2点しか取れていない日本。特に5日前のバーレーン戦では、ゴール以前に決定機と呼べるだけのチャンス自体が数えるほどだった。ボールは保持しているものの、効果的な組み立てができない。その結果、いたずらにロングボールばかりを増やした。

 それとの比較で言えば、シリア戦はずいぶんと効果的な攻撃の組み立てができるようになっていた。それを端的に物語るのが、右サイドバック酒井宏樹の攻撃参加である。

 今年、柏で大きく飛躍した酒井宏。その新星の魅力は何と言っても高い攻撃力にあるのだが、過去2戦では、それが十分に発揮されていたとは言い難い。酒井宏本人も、例えば、マレーシア戦後には、「中央を固められていたので、もっとサイドから崩せればよかったが、連携ミスが多くて上がれなかった」と話している。

 しかし、この日は違った。酒井宏が言う。

「今日は試合に入ってみて、今までで一番サイドにスペースが空いていた。それを見て、みんなでサイドに散らしていこう、という話をしていた。サイドハーフがうまくサイドに残ってくれていたんで、2対1(の数的優位の状況)が作れました」

 これまでは、ボールを保持しているだけでチーム全体の狙いがはっきりせず、厚みのある攻撃を作り出せないことが多かったが、その点では改善が見られた。酒井宏も「みんなの意図が合ってきてるっていうのは、確かだと思います」と語る。

 とはいえ、結果的にこの試合もまた、奪った得点は2点止まり。一度は追いつかれながら、再び勝ち越したことは評価できるが、言い換えれば、もっと楽に進められるべきはずの試合だった。

 決勝点を決めた大津祐樹が、「何度かあったチャンスを生かしていれば、もっとよかった」と課題を口にしたように、追加点を奪えずにいると、自滅に近い形でパスミスを連発。東慶悟は、「前半はうまく連動してパス回しもできていたが、後半は相手にペースを握られた」と悔やむ。

 関塚隆監督もまた、「相手のストロングポイントを抑えながら、もう少しボールを運べる能力を上げれば、もっと(ゲームを)支配できたはずだが、それができずに同点にされた」と振り返った。

 その失点にしても、決して偶発的なワンチャンスを生かされたわけでない。少なくとも、そこに至る15分間は完全にシリアの時間であり、危ういシーンは何度もあった。いわば、失うべくして失った1点だったのだ。

 また、組み立ての部分がかなり改善された一方で、フィニッシュにかかるところでは、相変わらずもたつきが目立った。せっかくペナルティエリア付近まで押し込んでも、そこで手詰まりになってしまうケースがあまりにも多い。

 そこに感じるのは、初戦のマレーシア戦以来変わらず続く、「余計なひと手間をかけ過ぎている」という印象である。

 前を向けばシュートを打てる。もっと言えば、すでに前を向いてゴールへ向かっている。そんな状況にもかかわらず、無理やりパスを選択するなど、やらなくていいことまでやろうとして、自ら状況を難しくしてしまっているのだ。

 中盤での組み立てに関しては、チームとしての狙いが見えてきている。だからこそ、フィニッシュの段階でもっとシンプルにゴールへ向かえば、おのずと得点も増えるはず。少しの発想の転換で解決できる問題だけに、症状がこれ以上重篤になる前に対処したいところである。

 最終予選も対戦が一巡し、五輪出場を争うライバルの実力は見えた。シリアが想像以上に強かったのは確かだが、率直に言って、3カ国いずれも日本との実力差は明らかだ。

 問題は、その実力差を正当にスコアに反映できるかどうか。日本が勝手に話をややこしくしないかどうか、である。

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