主力製品の「柿の種」を手にする佐藤社長

写真拡大

タレントのほしのあきさんが、袋入りの柿の種とせんべいを手に持って「どっちがほしいの」と尋ねる。すると俳優の松平健さんがひと言、「どっちもほしいの」――。お茶の間に流れるこのコミカルなCMを制作したのは、米菓メーカーの三幸製菓(本社・新潟市)だ。

業界では後発だが、過去10年間で売上高を3倍に伸ばし、シェア首位に迫る勢いだ。社是に「良品廉価」を掲げ、優れた品質の米菓を少しでも安く届ける努力を続けている。

「良品廉価」を社是に掲げる

米菓市場は近年、成長が伸び悩みの傾向にある。売れ行き上位の商品はロングセラーが多く、新旧交代があまり見られない。

三幸製菓が、この「出来上がった市場」で売上高3倍を達成した背景には、佐藤裕紀社長が「まじめ」と端的に表現する社風と、1962年の創業以来受け継がれてきたチャレンジ精神があるようだ。

社是である「良品廉価」を実践し続けるのは、簡単ではない。製品の質を向上し、よりよい素材を用いるには一定の金額がかかる。しかし一方でコスト削減、商品の低価格化を実現しなければならない。佐藤社長は、製品の品質と価格のバランスを取りつつ三幸製菓の「色」を出す工夫を凝らしていると話す。例えば主力商品の「柿の種」は、原料を「もち米百パーセント」として「良品」に仕上げ、他社との差別化を図った。だが原料費は高くなるため、アジアを中心に安価な仕入れ先を見つける「廉価」にも努めている。

技術の向上も欠かさない。人気を集めているせんべい「ひねり焼」の製造過程では、本来、表面は平らに仕上げるせいべいを、機械生産でも手作り感が出るような独自の製法を生みだしている。

「かりんとうって、ええなあ」がキッカケ

後発であるがゆえに、既存の枠にとらわれない発想でチャレンジしてきたのが、三幸製菓の歴史だ。1977年に発売し、同社を代表する製品に成長した「雪の宿」は、塩味のせんべいに砂糖蜜をかけるという当時では画期的な味だった。せいべいにチーズとアーモンドを組み合わせた「チーズアーモンド」も、斬新なアイデアが基礎となっている。

挑戦のDNAは、今日まで受け継がれている。2011年には、「異分野」ともいえる「かりんとう」を発売した。佐藤社長は、「社員の『かりんとうって、ええなあ』という呟きを聞いたのがキッカケ」と笑うが、スーパーに立ち寄るとかりんとうの売り場はせんべいの隣というケースが多く、似たような客層との手ごたえを得ていたと打ち明ける。米菓とは違って小麦粉が原料のため、開発部門は苦労の連続だったが、ここでも「初参入」の新鮮な考え方が奏功して、従来のかりんとう製品にはなかった「小分けにして販売する」という顧客からの要望を取り入れ、製品化につなげた。

年末から冬の寒い時期は、米菓が最も親しまれる時期だ。佐藤社長は、ロングヒットが続いている商品はさらに価値を高める努力を続け、一方で「良品廉価」を追求するためにさらなるグローバル化を進めると意気込む。