――感受性豊かなのですね。

三池監督:役者の中でも、もっと自分が!っていう自己中心的なタイプの方もいますよ。でも市川海老蔵は、一役者として現場に入って360度を見渡している。珍しい物を見て、ワクワクしている。そういう場所を提供できて良かったと思う。それに彼は、今回の経験をなんとか歌舞伎に取り入れようと考えていた。出番が終わると暇だから。モニターのところに来るわけ。それで他の人の芝居を見て「いい芝居してるよな〜」ってつぶやいたり、彼が演じたテイクを僕が見直していると、いつの間にか覗きこんだりしていて。でも、見ているのは相手の芝居を見ているの。

――研究熱心なのですね、再撮(=撮り直し)等に備えている、とか?

三池監督:何かのために見るのではなく、見入っちゃうの。しかも全ての台詞をインプットしている。歌舞伎役者ってビックリですよ。一生忘れないから、いつでもその台詞が言える。撮影の終わりごろに、最初に撮ったシーンの相手の動きや表情をすべて覚えていたからね。この間も取材で会ったから、もう忘れただろうと思って、ちょっと尋ねると、ちゃんと言える。伝統芸能を継承する歌舞伎役者にとって、演じることは溜めていくことだから、脳の使い方が映画の役者と全然違う。我々は消化する。そのシチュエーションで、その台詞っていうのは一生ない。二度としゃべらないことをやっているんですよ、映画っていうのは。

――つまり監督の多作の秘訣は、サクサクと決断し消化すると?

三池監督:そう、まったく同じシーンは二度と撮らない。それだから、なんか楽しいわけ。つまらなくて早く帰りたいなと思っても、「ちょっと待てよ、このシーンは、一生で一回きりだしな」って。そこが面白い。歌舞伎役者は全部それが残るんだよね。「どんな頭をしているんだろう?」と思いますね。

――そうですねえ、覗いてみたいですね。でも監督の頭の中がどうなっているのかも知りたいです!

三池監督:たいしたことないから、真っ白です(笑)。

――最後に、今後3D映画ってどうでしょう?

三池監督:3Dはシステムが洗練されてきているからね。たとえばフィルムで言うと、フィルムでこれから開発できるのりしろと、デジタル的な開発ののりしろはまったく違っている。あとは正直、需要と供給の問題だけ。誰がどこに投資するか、であって。かつてはフィルムでしか表現できないと思っていたことがデジタルでできるようになれば、デジタルを否定するわけにいかない。趣味嗜好の問題はありますよ、それって大事だけど、それはそれで。あと10年経つと、3Dは特別なことではなく当然のものになっていると思う。

――そういうつもりでいらっしゃるんですね。

三池監督:やっぱり自分も3D映画を観に行きますよ。映画『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』は初日に、IMAXで鑑賞しました。「これってどんな人たちが、どんな集中力で作っているんだ?!」って、自戒になりましたね。自分には、ああいった集中力や執念はないです。すごいものを見ている感じがする。面白くはないから途中で寝ちゃったりして、起きると“まだ戦ってるよ!”って、しかも同じような感じのまま(戦っている)。寝てても大丈夫な映画って幸せじゃない? すごいと思うな。

――『一命』には、それとは違うすごさがあると思います。本日は、ありがとうございました。


せっかくのスタジオ取材にも関わらず、屋外での写真撮影に快く応じてくださった三池崇史監督。リクエストに対し「はいよっ!」という言葉と共に表情やポーズを変えていくという、“世界の三池”はフランクな人柄だった。なお本作は第64回カンヌ国際映画祭にて公式上映され、人としての誇りを失わない生き方が多くの観客の心をつかみ大喝采を浴びた。映画『一命』は、10月15日より全国ロードショー。

映画『一命』- 作品情報