【つの丸】自分なりの『あしたのジョー』を描きたくて、漫画家をやってますからね。あの漫画の男っぽい世界に憧れると、こんな感じになるんです。いっそね、「『あしたのジョー』が俺の作品ってことにならないかな?」って思ってますよ。ちば(てつや)先生、権利を譲ってくんないかな(笑)。

――“ジョー”のどこにグッときた?

【つの丸】ジョーは孤独な意地っ張りで、自分のスタイルを貫く、そこが大好きですね。「意地を張れ!」というのは、“マキバオー”のテーマでもあるので。自分はこれが正しいと思ったなら、その道は厳しいと知りつつも、突き進んでいきたい。それで失敗するかもしれないし、みじめになるかもしれないけど、意地を通したなら負けてもすっきりするんじゃないか。自分が漫画を描くときも、一番大事にしている感覚ですね。

――前作に登場したサラブレッドのカスケードは、『あしたのジョー』の力石そのものですよね。前作の主人公にとって圧倒的なライバルでした。でも本作ではカスケードにあたる存在がいません。

【つの丸】最強のライバルを一頭決めて、主人公はそれを追いかけるっていう構造をまたやっちゃうと、物語が前とカブってきちゃうと思ったんです。だから、絶対的なライバルというよりも「仲間」という形でフィールオーライを登場させて、仲間的な要素をまったく排除した「敵」という感じでアマゾンスピリットという馬を登場させました。

――いわば全員ライバル状態で、それぞれのドラマを色濃く描く群像劇スタイルは前作との大きな違いです。この春、ウェブ連載へ移行するとともに『たいようのマキバオーW』というタイトルで新章が始まりましたが、「ついにヒロインを出してきた!」と思ったら、やっぱり馬でした!!(笑)

【つの丸】新しい流れを作るために新しい要素が欲しいなと考えていったら、今まで描いていないという意味でも、牝馬かなあと。今まではレースに厳しくて、発言も割とキツめな馬が多かったんですけど、キャラクターとしてかわいらしい、性格がいい、それでも強いという馬を描きたいなと。

――どうしてかわいい女のコは描かないんですか?

【つの丸】むしろ、なんで描けるのかなと思いますよ。だって自分の趣味が丸々出ちゃうじゃないですか。恥ずかしくて描けないですよ。

――そういえば、カッコいい馬はたくさん出てくるんですが、カッコいい男も描いていないような。

【つの丸】世の中にはありますけどね、イケメンばっかりが出てきて、スポーツしながらカッコいい台詞を言い合うみたいな漫画も。僕ね、生理的にダメなんですよ。カッコよくてスポーツがよくできて、そんな男が偉そうな台詞しゃべってて、心に響くのかな。僕はウソくさくてムカついちゃいますね。読む人がなるべく素直に、心に響くようにということを考えると、キャラクターはちょっとカッコ悪いぐらいのほうがいい。それが馬だったら、カッコいいやつでも大丈夫。カッコいい台詞をしゃべらせても、照れずに描けるんですよ。

――馬だったら、カッコいい台詞を言っても「けっ」とならずにすんなりのみ込める。つの丸先生が漫画史に打ち立てた最大の発明だと思います。マキバオーはついにGIの栄冠を手にしましたが……今後の展望を教えてください!

【つの丸】前作の終盤で、日本の馬が世界に挑戦する話を描いたんですけど、駆け足になっちゃったなというのが心残りだったんです。次はもっとじっくり、世界に挑戦する話をきっちりと描こうかなと思ってます。でもね、そのへんは自分の都合だけじゃどうにもならないですから。単行本が売れなかったら、世界挑戦を目前にして夢破れることになる。だから、「続きが見たかったら1巻買えよ!」と。そうじゃないと……「知らねえぞ!」と(笑)。まあ、期待してください。予想は裏切りつつも、期待は裏切らないですから。

(取材・文/吉田大助 撮影/村上庄吾)

●つの丸
1970年5月27日生まれ。『モンモンモン』で連載デビュー。『みどりのマキバオー』で小学館漫画賞児童部門を受賞。現在、『たいようのマキバオーW』を週プレNEWSで連載中。『たいようのマキバオーW』第1巻(集英社刊)発売中

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