「サンクタム」製作総指揮:ジェームズ・キャメロン、監督:アリスター・グリアソン。9月16日(金)より全国ロードショー。入場時に3Dゴーグルだけじゃなく、シュノーケルも配ってくれるとさらに息苦しくていいね。いいことあるか!

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3D映画っていうと、ジョーズに噛みちぎられたおっさんの足がプカプカ〜と画面手前側にただよってきたり、本筋とは関係なく登場人物が洗濯物を干していて物干竿がビヨ〜ンと客席の方に突き出されたり、とにかく「いつもより余計に飛び出してます!」的な、わざとらしいものが多かった。それはそれで嫌いじゃないが、技術の進化がおかしな方へ向かっているのも確かだ。

そうしたトンチンカンを大胆に蹴散らしたのが、ジェームズ・キャメロン監督による2009年公開の超大作「アバター」だった。この作品は、3D技術を「何かを飛び出させる」ためではなく、「架空の世界が実在の空間であると感じさせる」ために使っていた。それはちょっとした発明に近いものだ。
実際、「アバター」を劇場で3Dゴーグル装着して観たひとならわかると思うけど、あの没入感はちょっとこれまでにない体験だったよねー。不思議な生物がみんな目の前で生きていたよねー。先住民のナヴィは超青かったよねー。さすがはキャメロン。エンターテインメントのために4回も女房を変えてきただけのことはある!

そんなジェームズ・キャメロンが製作総指揮をつとめ、新鋭のアリスター・グリアソンを監督に起用しての3D映画がやって来た。その名も「サンクタム」! えーと、〈聖域〉って意味だそうだよ。

パプア・ニューギニアの奥地、人類が容易には足を踏み入れることのできない聖域に、腕利きの探検家と地質学者が集まっていた。彼らの目的は、ジャングルの底にひろがる大洞窟「エスペリト・エサーラ」の全貌を解き明かすこと。
苦労の甲斐あって、未知のトンネルを発見したのも束の間、運悪く巨大なサイクロンが上陸してくる。川は逆流し、洞窟内にも大量の水が流れ込んできた。岩が崩れ、出口は無惨にもふさがれてしまう。さあ、どうする? 探検隊一行は、別の出口を求めてさらに奥へ進むしかなくなったのだ──。

正直言って「洞窟探検もの」っていうのは、映画の題材としては少しも新しくない。ストーリー的にもそれほど突飛な出来事が起こるわけでなく、青い顔した地底人が出てくることもない。
だけど断言しよう。洞窟に入ってからラストまで、キンタマ鷲掴みにされっぱなしの1時間数十分だった。とにかく緊張感の持続がハンパない。

わたしは高所恐怖症の気はないから、高いところに立つのはわりと平気なんだけど、その逆で、落下物恐怖症なのね。どういうことかというと、上から何か落ちてくるんじゃないかという妄想が強くて、高層ビルの真下とかが歩けないのよ。工事用クレーンのそばとかもダメ。あれがこっちに倒れてきたらどうしようとか考えるとも、もう走って逃げたくなる。

それから、閉所恐怖症もかなりある。狭い部屋とかもイヤなんだけど、とくに苦手なのが豊島園のハイドロポリスね。あのチューブの先がだんだんすぼまっていて、滑っていくひとがいっぱいフン詰まっていたら……とか想像しちゃうともうダメ。涙が出そうになる。

「サンクタム」はパプア・ニューギニアの巨大洞窟を探検中に岩が崩れて閉じ込められた人達が、どんどん細くなる洞窟を奥へ奥へ進んでいく映画だ。しかも台風のせいで後半はほとんど水没している。狭い通路を潜水でくぐり抜けようとして、途中で岩に引っかかったりする。

なんでそんな映画撮るんだよ! 息が詰まりそうじゃないか!

で、そういう映画はスリルを感じさせことが目的だから、普通のひとが見るよりも、そういったフォビア(恐怖症)を持っているひとが見る方が、何倍も怖く感じられる。言い換えれば、映画として最高のスリルが得られるんだよね。得してんだか損してんだかよくわかんないけど、強烈な体験であることはまちがいない。

そして、注目すべきは、3Dゴーグルの存在だ。「アバター」のときは、作り上げられたあの広大な空間を隅々まで鑑賞したいのに、3Dゴーグルが視界を制限していて、すごく不満を感じてたのね。
ところが、「サンクタム」では3Dゴーグルをつけていることが、そのまま水中眼鏡が視界を狭くしている感じとリンクしているし、そもそもの洞窟の窮屈感を強調する役割も果たしていたんだよ。これはちょっと目からウロコが落ちて、ゴーグルの中でコロンと音を立てたね。
(とみさわ昭仁)