胸の桜のエンブレムから、海外ではブレイブブロッサムズと呼ばれる日本代表のユニホーム。
その名の通り、勇敢な戦いを期待したい。

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学生のとき「24時間耐久・スクール☆ウォーズ鑑賞会」という馬鹿げた企画をしたことがある。文字通り、丸一日ぶっ通しで『スクール☆ウォーズ』全26話を鑑賞しようというもの。そんなバカなことをやっていたからか、周りからよく「ラグビーってルールがわからないけど何が面白いの?」と言われてきた。確かにラグビーのルールはちょっと難しい。でも大丈夫!ルールがわからなくても楽しめるのがラグビーだから。15人対15人という球技でもっとも人数を要するスポーツであり、それだけ人数が集まれば『スクール☆ウォーズ』のイソップや大木大助じゃないが、人間味あふれるキャラクターがたくさん見つかるのがラグビーの何よりの魅力なのだ。
今、ニュージーランドではラグビーのW杯が開かれ、日本代表も戦っている。なでしこJAPANがW杯を勝ち上がったことで一気に世間の注目を集めたように、ラグビーもいつお茶の間の話題になるかわからない。さらには2019年にはここ日本でラグビーW杯が開催される。私たちにはホスト国としての責任が生じてくるのだ。ラグビーのルールは分からないまでも、ラグビーに興味を持ち、選手をリスペクトすることができるように、この夏出版された2冊の本からラグビーの魅力に迫ってみたい。


日本代表を支える熱い男たち

ラグビーにはサッカーや五輪とは異なる独特な代表規定があり、今回の日本代表メンバー30人のうち、外国出身選手(日本国籍取得5選手を含む)が過去最多の10人選出されている。一部ではこのことに「日本代表?」といぶかしむ人がいるが、だからこそ選ばれた日本人選手には個性的な面々が多い。選手の個性やキャラクターを知れば、観戦ももっと楽しくなる。そこでオススメしたい本が『ジャパンのために―日本代表9人の肖像』。日本ラグビー界の中でも特に人気の高い、9人の代表候補選手にスポットをあてた作品だ。
試合中に4キロ体重を落とし試合後に4リットル酒を飲む豪快なベテラン、バスケで鍛えたパスセンスでチームをリードする2010年のリーグMVP、モンハン好きのキャプテン etc. 本当に多種多様なキャラクターが揃っている。キャプテン・菊谷選手自身が<ぶれてはいけない価値観を共有できれば、色んな考え方を持ってる人が集まって、色んな角度から上っていく。そういう粋な部分があってもいいと思うんですよ>と語るように、このキャラクターの濃さと豊かさこそ、今回の日本代表の特色だろう。
そんな中でも私が特に押したいのが、身長166cm、小さな代表田中史朗選手だ。その小ささ、そして出身高校が『スクール☆ウォーズ』のモデル・京都市立伏見工業高校ということもあってなんとなく「イソップ」を連想して応援していた。だが、そんな見た目のイメージとは裏腹に、海外の選手から「Baby assassin(小さな暗殺者)」と呼ばれるほどの鋭いプレーで、チームの連結役となるスクラムハーフというポジションをこなす。そんな彼が何のためにラグビーをするのか、という問いかけへの答えが魅力的だ。
<子どもたちのためにです。試合をしていると、まだ言葉も上手く話せないような子が頑張れって叫んでくれる。僕はこんな顔のせいか子どもたちが寄ってくる。僕も、子どもが好きなんで>
子どものような体格にもかかわらず格上の相手になるほど闘志を燃やし、練習でも遊びでも誰よりも勝ちにこだわるという姿勢がまた頼もしい。モットーは「しんどいことを楽しく」。その精神で、格上ばかりと言われるW杯の舞台でも最後まであきらめずに戦い抜いてほしい。
『スクール☆ウォーズ』のイソップのセリフにこんな言葉がある。「小さな一つ一つのプレーが大事なんだよ。先生がいつも言ってるじゃないか。どんなことがあっても諦めない心。それが大きな勝利に繋がるんだって。例え負けると解っている戦いでも、最後の最後まで戦い抜く。それが男だろ!ラガーマンだろ!」

世界中が日本の苦戦を予想している。だからこそ、最後の最後まで戦い抜いてもらいたい!



開催国で対戦国な相手を知れば、もっと面白くなる

「ガンバッテーガンバッテーゴール」
どうしても私にはこう聞こえるのだが(意味的にもあっている気がするし)、この「ハカ」ダンスを試合開始前に行い、相手チームを威嚇するのが、世界ランキング1位、今回のW杯開催地でもあるニュージーランドだ。ラグビーに詳しくなくても「オールブラックス」という言葉を聞いたことはないだろうか。日本代表が今回戦う中でも最大の強敵にして、世界中のラガーマン、ラグビーファンが畏敬の念を抱く黒衣の集団・ニュージーランドの強さの秘密に迫ったのが『オールブラックスが強い理由 ラグビー世界最強組織の常勝スピリット』だ。
歴代のオールブラックスのメンバーやニュージーランドに留学した経験をもつ日本人選手へのインタビューなどを交え、ラグビー王国ニュージーランドを文化的・歴史的に考察した、海外文化論としても非常に面白い一冊になっている。

この中で、ニュージーランドに挑んだ日本人選手のパイオニア・坂田好弘さんは次のように語る。
<ラグビーは、ニュージーランドの独立性を示せる唯一のものなんです。だから、国民をあげて応援するし、みんなで誇りに思うし、みんなで大切にする。逆に言うと、伝統的に強いスポーツはラグビー以外にはない。『ニュージーランドが世界一』と言えるスポーツは、他にはない。だからこそ国民全体が誇りに思う。プレッシャーは重いと思うけれど、そのプレッシャーを背負って戦うからこそ、あの強さが育つんだと思います。>
日本における野球や相撲のように、その国で盛んなスポーツを探ることで国民性が見えてくることがある。なぜニュージーランドのような島国でラグビーが突出して人気競技になり、世界一の実力をつけていったのか。日本と時差もなく、島国で、温暖な気候。しかもルーツは農耕民族。意外と共通点のある外国を知ることは、あわせ鏡のように自分たちを知ることにもつながってくる。そして今年、ニュージーランドも日本も未曾有の大震災に見舞われた。その二カ国が戦うということは、何か運命的なものを感じずにはいられない。選手自身は戦っているときにはそんなことを考える余裕はないだろうけど、見ている僕らはそこも含めて見てしまう。でも、それがスポーツの良さでもありドラマ性だと思うのだ。

実は日本代表がW杯でオールブラックスと戦うのが今大会が初めてではない。今から17年前、1995年に17対145という世界的な大敗を喫しているのだ。今回もオールブラックスが勝つというのが大方の予想だが、私はこんなことも考えてしまう。『スクール☆ウォーズ』でも、109対0という大差をつけられて惨敗し、あの有名な「悔しいですっ!」という名シーンが生まれた敗戦があったからこそ、その後の全国制覇までの道筋が見えたのだ。ドラマと比べるのは失礼な話かもしれないし馬鹿げているかもしれないが、前回の敗戦を糧にリベンジしてくれないだろうか、と勝手な期待を抱いている。そんな楽しみ方だってアリなのだ。

最後に、元オールブラックスの世界的プレイヤーであり、今回の日本代表を率いるジョン・カーワンが語る頼もしい言葉をこの本から引用したい。
<私自身は、日本はラグビーに置いて世界のベストチームを作ることも可能だと思っています。まして、トップ8に入ることは現実的な目標です。しかも、ニュージーランドやイングランドが8強に入ることとは異なり、新しい国が初めて8強に入ることはもの凄く意義がある。世界のラグビー界、スポーツ界に強烈な衝撃を与えることができる。それはすばらしい、本当に価値のあるチャレンジだと思う。>
(オグマナオト)