「ザ・インタビューズ(THE INTERVIEWS)」を開発、運営しているのは、レンタルサーバーのロリポップやJUGEMブログなどでもお馴染みの株式会社paperboy&co.(通称ペパボ)。この会社は新規プロダクト開発のために定期的に「お産合宿」というものを行なっていて、この「ザ・インタビューズ」もそこから生まれたものなんだそうだ。いいもの産んだね。

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自意識過剰な時代。誰もが自分のことをしゃべりたがっている。誰もが自分のことについて聞かれたがっている。そして、誰もが誰かのことを知りたがっている……ってことはないな。どこの誰かもわからない人間のことは、別に知りたくはない。でも、知りたいひとがいるなら、聞くことができる。そんな気持ちに応えるように開発されたのが、新しいネットサービスの「ザ・インタビューズ(THE INTERVIEWS)」だ。

インタビューというのは、著名な作家やタレントなどに対して、雑誌の記者やテレビのレポーターなどがするもの、とこれまでは相場が決まっていた。ところが、誰もが自由に質問したり質問を受けたりできるということで、「ザ・インタビューズ」は登場するなりあっという間に話題になり、どんどこ利用者が増えている。
新しいネットサービスはとりあえず試してみる派のわたしも、さっそくアカウントを登録してみた。質問の回答を見るだけならアカウントを持ってなくてもできるけど、誰かに質問をするためには、アカウントが必要なのだ。

登録に必要なのは、アカウントIDとメールアドレス。それにパスワードを決めるだけ。その後、プロフィール設定で表示用の名前や職業など、より詳細なデータを設定することができる。twitterやfacebookのアカウントをもっていれば、それと連動させることもできる。

自分のページができると、最初に「どんな学生時代でしたか?」とか「座右の銘は?」といった無難な質問が3つ用意されている。これのおかげで、アカウントを登録したはいいけれど誰からも質問されずに虚無空間に放り出される、というようなことにはならない。ただし、そこから先は自分次第だ。twitterでつぶやいたり、質問に答えた項目をtwitterやfacebookに連動させたりして、自分が「ザ・インタビューズ」を始めていることを広く友人知人に知らせよう。
そうして、友達同士で質問したり、されたりを繰り返していくうちに、だんだんインタビューの深みにはまっていく、というわけだ。

いま、ネットでは実名主義という考え方が出てきていて、facebookなんかでも実名じゃないとアカウントを削除されたりするらしい。でも、この「ザ・インタビューズ」では、匿名でもまったく問題なくアカウントを作成することができる。ただ、それでは「ザ・インタビューズ」のおもしろさは半分もわからないだろう。だって、どこの誰だかもわかんないひとに「何かご質問は?」って言われたって、質問のしようがないもんね。
だから実名……とは言わないまでも、ネット上での自分のハンドル名で登録するなどしてアイデンティティを明らかにしておいた方が、「ザ・インタビューズ」は絶対おもしろくなる。

で、そうすると普通は運営側が実名登録を前提にシステムを構築してしまうところなんだけど、そうはなっていないところがエラいな、と感じる。強制的に実名登録させるんじゃなくて、匿名でも登録できるけど、実名の方がおもしろくなる仕組みで参加者の良心を引き出す、というのは、これからのネットのあり方として、とてもエレガントな手法だと思うよ。

さて、ぼーっと待っていても、すぐには質問なんか来るわけもないので、まあ、普通は誰か他の人に質問することになる。知り合いのアカウントを見つけたら、いちど聞いてみたかったけど面と向かっては言えないようなことを質問してみよう。たとえ実名で登録していても、その質問が誰から投げかけられたものかは、相手にはわからないようになっている。

そう、ここが「ザ・インタビューズ」のおもしろい点でもある。質問をするときだけは匿名になるので、本当に聞きたいことをズバッと聞ける自由さがあるのだ。それは裏を返せば、聞かれたくないことを質問されてしまう、ということでもあるのだが、でも、それはツイッターだってブログだってみんな同じだもんね。
質問を受ける側も、すべての質問に答える義務はないから、イヤな質問が来たらスルーすればいいんだ。見たくない質問は削除することだってできるし。

最初、「ザ・インタビューズ」を始めたときには、いくつか質問が出揃ってきたら自分のサイトの自己紹介欄にリンクを張ろう、ぐらいに考えていたんだよね。でも、いろんな質問に答えて、また自分でもいろんな友達に質問をしていくうちに、これは単なる自己紹介ツールじゃないな、というのがわかってきた。

これは読み物としてすごくおもしろいよ。「メンバー」という項目をクリックすると、自分がリストに入れている(twitterで言うところの“フォロー”と同じ)メンバーの最新の回答を読むことができる。これがすんごくおもしろくて、つい時間を忘れて読み込んでしまうんだな。
ただし、それは誰をリストに入れているかによって左右される。このへんのかんじもtwitterと同じだ。twitterも誰をフォローしているかによってタイムラインの様相はがらりと変わるでしょ。つぶやきのつまんないひとばかりフォローしていると、タイムラインはつまらなくなるし、おもしろいつぶやきをしているひとばかりフォローすれば、自分のタイムラインは劇的におもしろくなる。

以前(いまみたいな出版不況で雑誌がどんどん潰れたりする前のことだけど)、新しい雑誌の形態として「バイキング雑誌」っていうのを考えたことがあるんだ。どういうものかというと、書店で雑誌をバラして記事単位で売っていて、お客さんはお好みの記事を組み合わせて購入し、バインダーかなんかに綴じて読むわけ。コストとか考えると全然現実的じゃないんだけど、その基本的な仕組みにtwitterはすごく似ていると思っていて、この「ザ・インタビューズ」もまた似ていると思うのだ。つまり、わたしのとっての理想の雑誌、みたいな。

ところで、「ザ・インタビューズ」における“質問”って2種類あると思うのね。その人自身のことについて知りたい場合と、自分が知りたい事項についてその人がなんて答えるかを知りたい場合。
前者は、まあ、よくあるアーティスト・インタビューみたいなもんで、それをごく普通の一般人でも体験できるというところに、このサービスのいちばんの価値がある。
一方、エキレビ執筆陣でもお馴染み、書評家の杉江松恋さんが「ザ・インタビューズ」上でしつこく展開(笑)している「東方Projectをご存知ですか?」の質問なんかは、明らかに後者。「東方〜」に全然興味ないわたしは「そんなことおれに聞かれても知らんよ!」と思ったけど、でも、そういう使い道もあるのか〜、と目からウロコが落ちたのも事実だ。

自意識過剰キモイ! って言ってる人も、そんなこと言わずにとりあえずやってみたらどうですかね。ネットは自分を映す鏡だと思うんだけど、「ザ・インタビューズ」はその最新型、という気がするよ。

最後に、これを読んでくれるかどうかわからないけど、「ザ・インタビューズ」の中の人に要望を書いておきます。

自分をリストに入れてくれているひとの一覧が見たい
誰かにリスト化されたときにお知らせが来るので、それを遡っていけば見られるんだけど、それは非常にメンドクサイ。しかも、お知らせは削除できてしまうから、うっかり削除したらもうわからなくなっちゃうんだよね(わたしはバンバンお知らせを削除してる)。

アンケートのまとめ機能とキーワード検索が欲しい
と、杉江松恋さんが言ってました。なんのために使うか明白ですね。でも、キーワード検索はたしかに欲しいかも。エゴサーチ的なこともしやすくなるし。どうせ自意識過剰ならそこまでさせろ! とか思う。
(とみさわ昭仁)