『原くくる処女戯曲集 六本木少女地獄』原 くくる (著)、 竹 (著) /講談社
パンク演劇集団、六本木高校演劇部の脚本を書いた18歳の女子高生、原くくるの才能がすごい。その名も「六本木少女地獄」。ライトなネタを武器にしながら見ている人の心に爆弾を置き去る鬱屈テロリスト。表紙は「クビキリサイクル」などのイラストを描いていた竹によるもの。ビビッドで攻撃的な作品群をしかと見よ。

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東京都の高等学校演劇大会で優勝して、その後も賞取りまくったという作品がこの『原くくる処女戯曲集 六本木少女地獄』。
実際に演じていた演劇部の名前は『演劇集団ギロッポンズルヒー美男美女肉食桃源郷』。
あら、パンクね!
本には5本の戯曲が収録されています。
一作目は3人しかいなかった高校演劇部で演じるために描いた、女の子三人が一人の少年を奪い合うドタバタ活劇『うわさのタカシ』。うん、面白い。わかりやすい。
ネギで殴り合うというのは映像的に頭に浮かぶし、ヤンデレっぽい展開も楽しい。
途中少女達が「タカシとヤった」という話題になった瞬間、妙な生々しさを感じてギクッとなりましたが、まあシンプルで面白かったです。

で、問題の受賞作品、『六本木少女地獄』。
ある程度身構えて一読して、驚愕。
わ、わけがわからない……。
かなり重そうでアングラ的な話の割に、腰が抜ける様なライトなギャグも多い。
架空のスポーツのシーンはめちゃくちゃすぎて、笑うところなのか真剣に見るところなのかわからないどっちだ!
(実はこんなスポーツが登場するのにも理由があるのですが。)

本作品集は一度高校中退し、現在は六本木高校(チャレンジスクール)在学中の18歳女子高生の原くくるが自分達で演じるために描いた戯曲集です。
名前からしていいですね。腹くくっちゃいますか。
「パンク集団」を名乗る彼女たちの演劇活動は極めてテロ的。
「公序良俗に反した演劇」と自ら言っているように、『六本木少女地獄』では、高校生演劇大会で演じたら問題になりそうなシーンも多々あります。
やたら生の感覚がこめられていて、見てはいけないものを見ている気持ちにさせられます。このへんアングラ演劇っぽいですよね。
ところが要所要所笑いもありキャッチーで、上から目線ではなく、エンタテインメント性はかなり強め。
軽いところはとことん軽い。いろんな要素が混沌としている作品なんですが、それぞれ観客が目を引くパーツ扱いなんです。
このバランス感覚、すっごい新鮮。

物語は家出した「六本木少女」が、とある家出少年に出会うシーンからスタート。彼は父がいなく、一緒に暮らししている姉から逃げてきた弟。
……と思ったらガラッと場面はかわり、ある少女の一家の話しにチェンジ。湯田さんという男性がやってくるのですが、少女は想像妊娠をしているという。
話が重くなってきた……と思いきや、またもとの姉と弟の話へ。謎の人間が現れ、「ボクケットミントン」という変なスポーツを弟に勧め、チャンピオンを目指します。
この「六本木少女」「姉と弟」「少女と男」が三本同時進行します。コロコロと場面は切り替わるので「彼らはどうなるのか…」と考える余地すら与えてくれません。アングラ風ギャグかと思いました。
 
ところが後半から畳み掛けるように話が展開。それぞれのキャラが最終的に混じり合って一つになります。
女性になっていくことへの拒絶したくなる嫌悪感と、父や神様への強烈な恐怖感。
六本木少女は諦念して最後、一人きりになるのです。
最初一読したときは呆然としたものです。テーマはなんなんだ、と。シーン一つ一つのインパクトが強すぎる。

鍵は原くくるのインタビューにあります。
「唐十郎も寺山修司もゴダールも、いろいろなことをやってたじゃないですか」
そうかなるほど。
人前に出て、高校演劇の生真面目な気質の中で暴れたい。観客の度肝を抜きたい。
スパイスにキャッチーな笑いのラベルも貼っておきたい。
性とか笑いとか宗教とか、それぞれ客を惹きつける要素です。
そういうのをばらまいておいて、ほんとにやりたいのは鬱屈をぶちまけてめちゃめちゃ暴れること、みたいな感じなんですよ。

まさにテロのような作品でした。
生真面目な強襲ではないんです。「バットマン」のジョーカーみたいな作品なんですよ。茶目っ気を武器にしてキャッチーさは忘れない。しっかりした計算で、大暴れした上で思想をぶん投げる。
ここが才能だよなあー。若さのパワーだなー。
「高校演劇界の生真面目さや空虚さをぶっ壊したい」という思いが完成させてしまった戯曲として、記録に残る作品になりそうです。
これを高校生が、目の前で絶叫演技してたら、相当ビビるだろうなあ。まんまと、原くくるの手のひらの上ですよ。

原くくるの新劇団旗揚げは来年2012年の予定とのこと。
新時代の、ハードなのにライトなパンク演劇。気になる方はチェックしてみてください。
(たまごまご)