以前、うっかり娘のおみやげに古本市で絵本を買ってきたら、中に落書きがしてあって、娘(当時6歳)に「おとうさん、あたしに古い本はかってこないで!」って、すげえ怒られたことがある。それ以来、古本を買うのは自分のためだけ、と肝に銘じております。

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電子書籍というものが次第に普及しつつあるいまでも、古本屋めぐりを趣味にしている人はまだまだ多い。かくいうわたしも、その一人だ。
ここエキレビで、そうした古本趣味の楽しさを紹介できるようなレビューを書いてみようと思ったのだが、ごく当たり前に古本屋さんや古書市の情報を紹介したところで、そのたのしさの神髄みたいなものは半分も伝わらないだろう。そこで、ちょっと趣向を変えて、いつもわたしが古本仲間とやっている「せんべろ古本ツアー」のレポートという形で、古本探しの楽しさを紹介してみたい。

所沢 彩の国古本まつり
8月の末。埼玉県は所沢市。
西武池袋線の所沢駅前に、3人の男が集合した。アダルト系ライターの安田理央、特殊翻訳家の柳下毅一郎、そしてワタクシとみさわ昭仁だ。今日は、所沢駅前にででーんとそびえるくすのきホールで「彩の国古本まつり」がひらかれるのだ。
いつもは、古本屋さんが集中している沿線に狙いを定め、駅ごとに乗り降りを繰り返しながら、名もなき古本屋さんを訪ねて歩くのが基本フォーマットとなっているが、今回は、この巨大な古本市をスタート地点に選んだ。

とにかくデカイんだ。まずビルの1階に入ると、古本が詰め込まれたワゴンが10台ばかし並んでいて「なんだ、案外せまいじゃん」とか思うのだけど、これは居酒屋のお通しみたいなもので、エレベーターで8階のメイン会場へ行ってみると、そこには豪華舟盛り(のような古本の大海原)がひろがっている。ワゴン約300台、陳列されている古本の総数はおよそ50万冊というから、ただごとじゃない。

ところで、こうした古書市には単独で行った方がいいと、一般的には言われている。同好の仲間と一緒に行くのは本当はよくないんだ。だってレアな本をみつけたら奪い合いになっちゃうもんね。
ところが、この3人(トリオ・ザ・古本っていいます)は、安田さんがエロ関係、柳下さんが犯罪関係、わたしがモンド関係というように、収集対象が3人とも異なるので、奪い合いになったりせずに済んでいるのだ。そういう意味では、非常にバランスのいいトリオだともいえる。

だだっ広い会場に入ると、3人それぞれに別れて、目当ての本を探しはじめる。わたしは、年に4回開催されるこの古本まつりには毎回参加しているので、見覚えのある本が多く、そんなに買うものはない。それでも1冊、2冊と欲しい本を拾いあげていたところ、柳下さんが呼びにきた。なんかおもしろい本でもあったのかな〜と、あとをついていくと、漫画家の喜国雅彦さんがニコニコして立っているではないか。

喜国さんは、先頃『本棚探偵の生還』という古書蒐集エッセイの第3巻を出したほどのマニアだ。とはいえ、収集対象が戦前の探偵小説ばかりなので、こういう古本まつりに彼の探しているような本が出ることはあんまりない。それでも、ツイッターで我々が今日ここに来ていることを知って、わざわざクルマを飛ばして会いに来てくれたのだから、なんともうれしい古本野郎じゃないか。

小手指 ほんだらけ
それなりの収穫を抱えて、次の店へ向かう。予定では「ほんだらけ所沢店」という大型古書店に行くつもりだった。ネットで調べた感じだと、小手指の駅からそんなに遠くなさそうだった。
ところが、ここいらの地理に詳しい喜国さんによると、「ほんだらけ」はとても駅から歩いて行ける距離ではないという。そこで、我々をクルマに乗せていってくれるというのだ。なんてお優しい! ていうか本当は自分も行きたかったんじゃないのか!

喜国さんのクルマ、乗り心地よくてすぐに着いちゃったよ〜。
さて、初めて足を踏み入れた「ほんだらけ」は、典型的な郊外型の倉庫改造古書店で、かなりの在庫量を誇る魔窟のような店だった。入り口には「店内在庫100トン、50万冊!」なんて珍しく目方が表示されている。いいぞいいぞ! しかも、この日は午前中にちょっと雨が降っただけなのに、雨天割引で店内の商品すべて一割引という太っ腹なところも見せてくれている。
まあ、結局わたしはゲームの古い攻略本を1冊買っただけで、これといった収穫はなかったのだけど、柳下さんが「犯罪本コーナー」を見つけてうれしそうにしてた。

このあと、まだ仕事があるという喜国さんとは新所沢の駅前で別れ、テキトウに見つけた中華料理屋で昼ビールをいただくことにする。我々の古本探索ツアーは、「せんべろ」とつくぐらいだから、これがもうひとつの楽しみでもあるのよねー。
餃子に棒棒鶏に青菜の炒め物とかで軽くのどをうるおしたら、つぎの店に出発だ。

新所沢 やよい書房→祥文堂
iPhoneのマップに表示させた地図を頼りに、「やよい書房」という店までテクテク歩く。遠いというほどではないけど、何もない住宅街を歩いていくのは退屈だ。ひとりならね。でも、我々はバカが3人なので、ぜんぜん退屈しない。途中で「釜飯とダーツの店」なんてのを見つけては、ゲラゲラ笑いながら看板を写真に撮ってツイートしたりする。

やがて「やよい書房」が見えてきた……けど、シャッターが閉まってる。行灯看板もブチ割れたままになったりしてるので、これは定休日というより、すでに閉店しているのかもしれないなあ。店構えがいい感じなので残念な気もするけど、仕方ない。

ここからさらに歩いて、次は「祥文堂本店」へ。ここで、わたし宛てにある人からメールが来たので、「祥文堂本店」に向かっていることを伝えたのだけど、おもしろいから相棒2人には内緒にしておく。
で、ほどなく到着した「祥文堂本店」は、ニッポンの正しい古本屋という感じの素晴らしい店だった。3人でウヒウヒいいながら店内を物色していると、先ほどのある人物が登場。
元たま、現パスカルズのパーカッショニスト、石川浩司さんだ。彼とは「蒐集原人の夜」というトークライブを一緒にやってる仲でもあるけど、やっぱりコレクター気質のある人はこのツアーに引き寄せられて来るんだよねえ。

新所沢 DORAMA→BOOK OFF
ここからは石川さんも交えての行動となる。続いて向かうのは、笹塚から発祥して西東京、埼玉、神奈川に支店網をひろげるDORAMAグループの新所沢店だ。DORAMAっていうと黄色と青の看板のイメージがあるけど、ここはなぜか看板が赤かったので、勝手に「赤DORAMA」って呼ぶことにした。

が、ここでもわたしは何も買うものナシ。せっかく古本ツアーに来て、ロクに収穫がないのは寂しいんじゃないか思われるかもしれないが、そんなことはないんだよ。古本の山を見て歩くだけで十分に楽しめるし、ましてや気の合う仲間と一緒だったら、その楽しさは倍増だ。おまけに古本と古本の合間に生ビールなんかも入れちゃったりするわけだから、むしろ幸せすぎてコワイぐらいだ!

ふたたびテクテク歩いて「BOOK OFF新所沢店」。じつはわたしはBOOK OFFが大好きなので、ツアーの途中には最低でも1軒は混ぜるようにしているのだ。逆に言えば、BOOK OFFのある街にしかツアーに行ってない、ってことになる。貧乏くせえツアーだなあ。
でも、そのおかげで探していたゲームの攻略本(スーファミ時代にAPEが作っていた公式ガイドブック・シリーズを集めてます)を1冊105円で見つけて、ホクホクなのだった。

その後、線路の反対側にある「祥文堂」の支店もチェックして、古本ツアーは無事に終了。彩の国古本まつりも含めれば6箇所をまわれたんだから、いいツアーだったと言えるだろう。
最後は仕事を終えた喜国雅彦さんと国樹由香さんご夫妻もふたたび合流して、狭っこいもつ焼き屋で乾杯したのだった──。

君もカビ臭い旅に出てみよう!
古本ツアーは、町の小さな古本屋さんを一軒一軒調べてまわっていくのもいいけれど、慣れない人にはそれも面倒くさい。そこで、今回、我々がやったように、どこかの古書市を中心にしてルートを組み立てると、効率がいいのではないだろうか。
とりあえず、間近に都内近郊で開催が予定されている古書市だけでも紹介しておこう。

まずは、9/1〜9/30まで新宿サブナード2丁目広場で「古本浪漫洲」というのが開催されている。新宿のあの広い地下商店街の一角ね。以前見に行ったときはそれほど本の数は多くなかったが、新宿を起点にすれば、古本屋さんの多い中央線沿線にルートを延ばせる。

そして、9/9〜9/10には神田の東京古書会館で「趣味の古書展」が、9/10〜9/11には高円寺の西部古書会館で「大均一祭」がひらかれる。古書会館というのは、普段は業者向けの市場をやっているところで、週末はこのように一般に開放した古書市をやってくれるのだ。値段は非常に安いが、そのぶんカビ臭さも横綱級だ。

9/17には、白楽の六角橋にて「一箱古本市」が開催される。これは一般参加者が商店街の軒先を借りて古本を並べる青空古本市だけど、開始時刻が夜8時からなので、別名「夜のフリーマーケット」と呼ばれている。

また、9/18には雑司が谷・鬼子母神通りで「みちくさ市」もある。こちらは文字通りの青空古本市で、天気がよければ最高の古本めぐりが楽しめるだろう。ここなら、家族連れで行ってもたぶん嫌がられない。
(とみさわ昭仁)