■ジュニア年代の指導者は子供の将来を見据えた指導を

先日、関東少年サッカー大会の取材に行ったときのこと。

「もっと広がるんだよ!」「そこじゃない! もっと後ろだよ!」「何やってんだよ!」。ある町クラブの指導者が子供をロボットのように扱って指示を出し、怒鳴り散らしているのだ。この関東少年サッカー大会には、鹿島アントラーズジュニアや東京ヴェルディジュニア、横浜FマリノスプライマリーなどJクラブ勢も参加。8月上旬に開催された全日本少年サッカー大会よりもレベルが高い大会として知られているだけに冒頭の光景に遭遇したときは正直驚いたが、ジュニアサッカーの現場には今でも残念ながらこの手の指導者がいる。

子供に判断させる猶予を与えず、我慢できずに勝ちたいというエゴを丸出しにしてしまう指導者だ。もっとも、Jクラブにも町クラブにも“怒鳴る指導者”ならいる。だが、彼らが怒鳴るのは、子供がやろうとすればできるのに頑張らないときに鼓舞するため。

冒頭の“怒鳴るだけの指導者”は、教えてもいないことを子供に無理強いし、己の指導力不足の責任を、あろうことか子供に転嫁してしまう、日本サッカー界では時代遅れの、しぶとい生き残りだ。

当然、プレーするのは子供、ピッチで判断するのも子供だ。

■プレイヤーズファーストの徹底を

日本サッカー協会もプレイヤーズファーストを掲げているが、海外サッカーの情報流入を転機に、ジュニアの現場で“怒鳴るだけの指導者”はすっかり駆逐されてきた。二種や三種に比べれば、四種ジュニアの指導者は完全ボランティアのお父さんコーチが圧倒的に多く、不甲斐ない結果に不平不満を並べるのは子供の父母くらい。結果如何でクビを切られる心配がない分、子供を長い目でみた、将来を見据えた指導をしやすい側面はある。あとは指導者がそのモラルを持てるかどうか。

取材で接するジュニア年代のお父さんコーチは、子供を思う親の本能も相まって、本当に勉強熱心な方が多い。多くのお父さんコーチは、子供を指導者の言いなりにプレーさせることが、いかに教育的にマイナスか、いかに子供の将来の伸び代を奪い取るか、そこまで理解が及んでいて、すでにジュニア年代でやるべき指導を実践している。

「ジュニアサッカーを応援しよう!」の仕事で、今年8月の全日本少年サッカー大会を取材したとき、あるJクラブがこんな取り組みをしていた。前半を終えて子供たちがベンチに戻ってくると、まず子供たちだけで修正点を話し合い、片隅で聞いていた監督が最後に一言二言留意点を伝えて意見をまとめるのだ。
「はじめ子供たちは全然話しませんでしたが、少しずつみんなが意見を言えるようになると、今度はピッチ上でも意見を言い合えるようになったんです」(そのJクラブの監督)

人の陰に隠れる、言葉を発しない、自己主張しない……というのが現代の子供なのだと、ジュニア年代の多くの指導者が口にする。それはJクラブの子供ですら例外ではなく、放っておけば、彼らも将来ベンチを覗いながらプレーする選手になりかねない。

■自分で判断する力が求められる

今のJリーグを見ても、試合の流れに沿って選手が意志統一できず、勝利を掴み損ねてしまう試合が少なからずある。“ゲームを読む力”とは、元を正せば、自分で判断する力から生まれるものだろう。
現在、日本には約8,500もの町クラブがあるが、それぞれの指導者たちが漏れることなく、子供が自分で判断する力をもっと高めようと総力を挙げれば、日本サッカーはどれだけ底上げができるだろうか。

かつてある専門誌でも冒頭のような指導者の特集を組んだそうだが、その編集者は「(冒頭のような指導者に)特集の意図するものが届いたという手応えは得られませんでした……」と肩を落とす。