『なぜ分数の割り算はひっくり返すのか?』板橋悟/主婦の友社
※註 本書はダイエット本ではありません。

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質問「なぜ分数の割り算はひっくり返すのか?」
解答「わかりません」

解答がわからないのではありません。いや、解答もわかりませんが「なぜひっくり返す?」って聞かれることの意味自体がわからない。小学校の頃から「分数の割り算」なんてものは、機械的に「ひっくり返す」ものだと思い込んでいて、その理由なんて考えもしませんでした。でもきっとその頃、「なぜ」をこじらせてしまったのです。

小学生の頃の算数は「どうも腑に落ちないけど、公式に当てはめれば解けるからいいか」と丸暗記でもなんとかなりました。でもそのまま放っておいたら、公式なしには問題を解くことができなくなりました。あとは、できないから面白くない→公式を覚える気もなくなる→当然、計算ができなくなる。絵に描いたような数学転落人生です。しまいには、とっかかりがどこにあるかもわからなくなりました。さようなら、数学。消去法による超文系人間、一丁上がりです。

そんな超文系が大人になってから、数学が理解できるようになるんでしょうか。最近「大人のための数学本」とでも言うべき本が書店に並んでいるので、『なぜ分数の割り算はひっくり返すのか?』という一冊を読んでみました。見出しには「因数分解は人生の役に立つ!」とか「因数分解で、やせる!」なんて、一瞬「ないわー」と思ってしまいそうな見出しが並んでいますが、さてその中身は……。

読んでみると、意外と言ってはナンですが、かなりまっとうに順序立てて説明してくれるタイプの本でした。まず冒頭で「数学が苦手だとしたら、何か理由があるはず」と原因を想像させ、次に「こう考えれば、意外と難しくないでしょ?」と提案。その上で因数分解などの数学的思考を活用・応用事例を紹介するという構成になっています。

抱える課題やテーマとなる要素を分類して洗い出す。そしてその要素をいくつにも「分解」してカテゴライズしながら階層化していく。つまり「因数分解のような思考を日常に持ち込もう」というわけです。

例えば前出の見出し「因数分解で、やせる!」ならば「何のためにやせたいか」「その目的を満たす解は何か」と階層化して考えていく。目的が「美容のため」なのか「健康のため」なのか。例えば美容のためだとしたら、理由は「モテたい」なのか「誰かを見返したい」なのか。そしてその対象は誰で、そのためにどうすべきか。目的がより具体的になれば、目標が達成しやすい。そんな思考法を身につけるためのメソッドが載っている一冊というわけです。

それにしても「因数分解で、やせる!」という女心をくすぐる見出しは、さすが数々の女性誌を手がけてきた主婦の友社! これまで「大人の数学本」は男性向けのビジネス・自己啓発書といった趣のものが多かったところに、隙間を見つけて果敢に切り込んでいらっしゃいました。ほかにも「因数分解ができると、わが子のトラブルをおさめる」、「因数分解で、手作り雑貨を売る」という、数学本としては相当斬新な切り口も見受けられるので、これまでの「数学本」が苦手だった人も一度手に取ってみてもいいかもしれません。

そういえば私事でございますが、ワタクシこの夏2か月で約7kgのダイエットに成功いたしました。闇雲に絶食、炭水化物抜き、断酒、サプリメント、呼吸法、(軽い)筋トレなどあらゆる手段を講じてしまったため、いまとなっては何が減量に効いたのかわかりません。この本をもう一度読み返しながら、「なぜやせようとしたのか」「何が効いたのか」もう一度因数分解しておくことにします。それができないと、リバウンドしてしまいそうですから。
(松浦達也)