『節電女子』(ワタナベ・コウ/日本文芸社)本書中で紹介されている節電レシピは全部で51品。しかしなんだな、コウ先生の絵は料理はそんなにおいしそうに見えないんだよね(問題発言)。いくつかは写真も載っているので、それを見てヨダレを流してください。

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ワタナベコウ先生にはいくつもの顔がある。

漫画家でありながら裁縫教室の講師という顔を持つコウ先生は、夫のシャツを巧みに縫い上げる「裁縫女子」であり、そうかと思えば、炊飯ジャーを使わずに土鍋でふっくらゴハンを炊き上げる「調理女子」でもある。

前著となる『裁縫女子』は“服飾”というものを軸にして、無駄を省いた暮らしの愉しみを変なテンションで描いた良書だった。そして、この度刊行された本書『節電女子』では、テーマを“食”に移し、やはり無理と無駄を省いた暮らしの快楽を、やはり変なテンションで描いてみせている。

でも、食がテーマなのに、なんで『調理女子』とか『台所女子』とかじゃないんだろう?

それにはワケがある。

料理というのは、スピードが大事だ。もたもたしていたら、新鮮な材料もヘナってしまう。
料理というのは、効率が大事だ。切って、下ごしらえして、煮て、焼いて、蒸かして、炒めて、混ぜて……というようなことを、ほぼ同時進行で手早く処理していかなければならない。

となると、必然的に節電効果も高まる。とくに主食のゴハンを電気釜でなく、ガスコンロ+土鍋で炊くツルシ家(コウ先生の旦那様は元週刊SPA!編集長のツルシカズヒコ氏なのだ)の電力消費量はとても少ない。であるがゆえの『節電女子』なのだ。

びっくりするのは、コウ先生って電子レンジも冷凍庫も使わないのね(冷蔵庫はあるが、冷凍庫のスイッチを切っている)。あと、掃除機も使わずに昔ながらの箒(ほうき)で部屋を掃いているという。うっとりするような「昭和女子」でもあったのだ。

原発の事故があったから、ということばかりが理由でもなく、人間は電気を使いすぎるんだよね。電気によって暮らしが便利で豊かになったのはもちろんいいことだけど、都市で生活していると、本当にそこまで電化する必要ってあるの? と言いたくなるような場面にたびたび出会う。5段ぐらいしかないエスカレーターとかさ。

電気の便利さに麻痺してしまうと、日々の暮らしの中で工夫するということを忘れてしまいがちになる。でも、工夫するのって本来は楽しいことなんだよ。その楽しさが、この『節電女子』にはいっぱい詰まってるんだな。ただ、作中に主人公として登場するコウ先生自身がとにかくハイテンションなので、必要以上に楽しそうに見える、というきらいはある。

コウ先生のこの変なテンションって、いったいなんなんだろう。熱くなるとすぐにいろんなものを投げつけたり、北島マヤ的に白目を剥いたり、草原を走ったりする。49ページで明らかにキンドーちゃん化した自画像があるので、一瞬「マカロニほうれん荘」の影響かと思ったんだけど、たぶんそれだけじゃない。

で、もう一度よく見返していてわかった。米俵を背負い(コウ先生はなんでもすぐにタスキ掛けするクセがある)、コマとコマにまたがるようにしてページ全体を躍動する姿は、『風のフジ丸』とか『忍法十番勝負』といった昔の忍者漫画とオーバーラップするんだ。つまり、コウ先生は「忍術女子」でもあったのだ。夫のシャツを手作りしたり、節電レシピを編み出したり、道理でいろんな忍術を習得していると思った。
(とみさわ昭仁)