ベストセラー『がんばらない』著者の鎌田實氏は、長野県の諏訪中央病院の名誉院長でもある。チェルノブイリの子供たちへの医療支援に取り組む傍ら、東日本大震災の被災地にも足繁く通っている。以下は、鎌田氏の報告である。

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 心配していた統計が警察庁から発表された。全国の自殺者の数である。今年5月の自殺者は、3329人(暫定値)で、昨年の2割増だという。福島県では、5月の自殺者が実に4割も増えている。地震、津波、見えない放射能、風評被害。いくつもの困難が重なって、自殺者を増やしていると思われる。

 何度も被災地の応援に入っている僕は、あちこちで心のケアチームの活動を目にしてきた。実によくやっている。まずは、阪神淡路大震災や新潟県中越沖地震のときに比べて、ケアに関わっている人たちの数が多い。全国から精神科医や心理療法士、精神医療に詳しい看護師たちが、うつ病や自殺を予防しようと、心のケアチームをつくって避難所を巡回していた。地元の精神科のクリニックにも出向き、診療を手伝っているチームもいた。それでも自殺は増え始めているのだ。

 もともと自殺は3月がピークで、8月までは減少傾向で推移する。そして10月になると2度目のピークを迎える。例年のように推移するなら、これからできるだけ問題を解決していかないと、今年の10月は大変なことになるだろう。

 20世紀を代表する精神医学者、フロイトは、困難の中で生き抜くためには、ふたつのことが必要だといっている。ひとつは、働く場があること、もうひとつは愛する人がいることだという。

 今回の東日本大震災では、この両方を失ってしまった人が多い。「頑張れ!」と肩をたたくだけでは、なかなか問題は解決しないのだ。

※週刊ポスト2011年7月15日号




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