両手両足がない状態で生まれた僕が、はじめて抱いた将来の夢。それは、「プロ野球選手になること」だった。もちろん、障害のある僕にはホームランが打てるわけでもないし、時速150kmの剛速球が投げられるわけでもない。

 でも、僕が車いすから降りた状態でバッターボックスに立ち、小さくかがみこんだら、ストライクゾーンは極端に狭くなる。そんな僕を相手にしたら、投手は投げにくいだろう。うまく行けば、四球を誘発できるのではないか。

 たとえば、九回裏。一点ビハインドの場面で、どうしても先頭打者を出塁させたい。そこで、「代打、乙武!」。選びに選んで、フォアボール。見事、出塁することができたら、代走を出してもらえば良い。なんと「打率0割、出塁率10割」というユニークな選手になれるのではないか!

 そんな夢を思い描いていたあの頃から、25年の月日が流れた。まさか、僕がプロ野球の試合でマウンドに立つ日が来ようとは思ってもみなかった。今年5月6日、そんな「まさか」が実現することになった。

「ゴールデンウィークに、始球式をやっていただけませんか?」

 東北楽天ゴールデンイーグルスからそんな依頼をいただいたのは、四月中旬のことだった。手足のない人間に、はたしてそんな大役が務まるだろうか――そんな迷いを吹き飛ばしてくれたのは、そのあとに続く言葉だった。

「乙武さんがマウンドで始球式を務める姿は、東北のみなさんにきっと大きな勇気を与えてくださると思うんです」

 震災以来、ずっと大きな葛藤を抱いていた。炊き出しや瓦礫の撤去など、物理的なボランティアのできない僕が被災地を訪れても、何も役に立てることはない。それどころか、かえって迷惑をかけてしまうのではないか。

 でも、被災地の人々が「もう一度、頑張ろう」と元気を取り戻すためのお手伝いなら、僕にもできるかもしれない。それが、楽天のホームスタジアムであるKスタ宮城でなら、より意味があるのではないだろうか。

 多少の不安や迷いはあったものの、僕はご依頼をお受けし、東北へと向かう決意を固めた――。(次回に続く)

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