PK戦を制して喜ぶ日本代表(Photo by Tsutomu KISHIMOTO)

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カタールとの準々決勝で味わったスリルは、序章に過ぎなかったようである。延長前半終了間際にリードを奪った瞬間は、これで勝てる、と思った。しかし、勝利の予感にはすぐに陰りが生じる。

韓国がロングボールを使ってくることを想定した日本は、競り合いのあとのセカンドボールに注意を割いてきた。自陣で直接FKを与えてしまうことは多かったが、二次、三次と連なる波状攻撃はほぼ回避できていた。細貝の代表初ゴールで、97分にリードを奪うことができたひとつの要因である。今大会の韓国は準々決勝までに8ゴールをあげているが、ペナルティエリア外からはイラン戦の1点のみである。彼らのシュートレンジを考えれば、悪くない対応ができていた。

延長後半は違った。2−1となった直後に韓国が196センチの大型FWを投入し、力ずくのパワープレーを仕掛けてくると、最終ラインが後退を余儀なくされる。相手の布陣に呼応して5バックへ変更した日本のバランスが、極端に乱れたわけではない。ただ、ロングボールの出どころへのプレッシャーが緩くなったのは否めず、ペナルティエリア内で跳ね返すシーンが増えていく。セカンドボールも韓国に譲ってしまう。ハーフコートマッチのような展開となった。

ザックことザッケローニ監督は、延長後半に李を投入するつもりだった。ベンチ裏でアップをしていた李は、一度はウォームアップスーツを脱いでいる。

ここで日本に、アクシデントが発生した。長谷部が両足を痙攣させ、交代のカードをボランチに充てなければならなくなる。李ではなく本田拓である。ザックの予定どおりに李が起用されていれば、前線からのチェイシングが機能したかもしれない。

偶然という要素が、じわじわと入り込んできた。119分に喫した同点弾は、日本のゴール前で行き先を決めかねていたボールが、ファン・ジェウォンの足元へ転がったことで生まれている。右スミへ突き刺さった一撃は鮮やかだったが、そもそもはパワープレーの圧力を食い止めきれなかったことがきっかけである。つまりは、必然と偶然の狭間で生まれたと言っていいものだった。

延長後半終了のホイッスルは、スコアが2−2となった直後に鳴り響いた。ピッチ上には陰影が滲んでいた。逃げ切れなかった日本と、死地から生還した韓国──どちらが活力に漲っているのかは、あえて説明するまでもないだろう。そして、同じような展開で、どちらが勝利をつかむ可能性が高いのかも。僕自身は敗戦の足音を聞いた。

しかし、日本の選手たちは冷静なのである。

「PK戦のときは、ヤットさんがずっと声を出してくれていた」と本田拓は振り返る。「追いつかれたけど、まだ負けたわけじゃない。引きずってもしょうがないし、みんな、PK戦に集中することができていた」と遠藤は補足する。

流れを変えたのは川島だ。「最後の失点の流れが良くなかったので、こっちが1本目を決めたあとに止めれば、と思っていた」

ク・ジャチョルのシュートをドンピシャリのセーブで阻止した川島の姿に、02年10月の光景が重なる。ウズベキスタンとのU−19アジア選手権準決勝だ。1−1のままPK戦へもつれたサバイバルで、彼は相手のシュートを立て続けに2本止めている。それも、今回と同じカタールで。背番号1はチームを蘇生させ、今回もまた決勝進出の立役者となったのだった。

ドラマティックな結末は、ゲームのディティールをぼんやりとさせてしまうことが多い。心地良い勝利の余韻が、負の要素を記憶の片隅へ追いやるのだ。本来であれば、PK戦へもつれる前に決着をつけなければいけないゲームである。

韓国の動きが鈍かった前半を、1−1のタイスコアで折り返したのはいただけない。決定機を確実に得点へ結びつけていれば、後半の韓国が息を吹き返してくることもなかっただろう。先制されたあとの反発力はあるが、攻撃に持続力がないのはグループリーグから持ち越されている課題のひとつだ。また、偶然に左右されたものだとしても、延長後半終了間際の失点を見過ごすことはできない。