■ 準々決勝

2011年のU-20世界大会の出場権獲得がかかった準々決勝の韓国戦。勝てば世界大会の切符を獲得できるが、敗れると世界大会に出場する可能性がなくなる。10月11日にU-19代表戦、12日にはA代表戦と、韓国代表との戦いが続くが、本当に大事なのはU-19の方の戦いであり、この試合に敗れると日本サッカーに大きな空白が空くことになる。

日本は<4-2-3-1>。GK中村。DF岡本、遠藤、平出、阿部巧。MF藤田、六平、菊池、宇佐美、酒井。FW指宿。FW杉本がベンチスタートでFW指宿がスタメン。UAE戦とベトナム戦に出場したGK川浪ではなくモンテディオ山形のGK中村がスタメン。

■ 2対3で逆転負け

試合は少し昔の日韓戦を思い起こさせる展開。ひたすらロングボールを放り込む韓国に対して、平均身長差で5?ほど劣る日本が全く抵抗できない。日本のCBは176cmの二人で跳ね返すどころが相手のフォワードにプレッシャーすら与えられない。

しかしながら先制したのは日本。前半14分に左サイドからクロスを送ると、裏のスペースに流れたボールをFW指宿がうまいコントロールを見せて右足で強烈なシュートを決める。さらに日本は前半31分にもFW指宿がペナルティエリア内で粘ってPKを獲得。最初のキックはGKに止められたが、やり直しのキックを決めて2対0とリードを奪う。しかし、韓国がすぐに1点を返すと、前半の終了間際に2失点。韓国に逆転されて2対3で前半を終える。

後半も韓国ペースは変わらず。ロングボールに対して何も対応できない日本はゴール前でたびたびピンチを招く。しかし、後半はGK中村が再三にわたってファインセーブを見せてゴールを許さない。

ビハインドの日本はMF加藤、FW永井、FW杉本を投入。後半35分あたりでMF宇佐美のパスからFW永井が左足で強烈なシュートを放つが惜しくもクロスバー。決定的なチャンスを逃した日本は、その後はMF宇佐美が個人技から見せ場を作る程度。中盤でイージーミスが続出して反撃ムードも出せず。結局、2対3で終了。2大会連続で準々決勝で韓国に敗れてU-20世界大会の切符を逃した。

■ まさかの完敗

幸運にも2点リードを奪ったが、内容的に見ると完敗。歴代でも最低レベルの試合だった。2対3という最終スコアだけ見ると「いい勝負」だったかのように思えるが、実際には韓国の一方的な試合であり、もう少し韓国代表に落ち着きがあったならば、「0対5」とか「1対6」とか衝撃的なスコアになっていた可能性も十分にあった。ラッキーな形で2点リードを奪ったまでは良かったが、その直後に1点を返されてしまったのが痛くて、前半のうちに3連続失点を喫して逆転されてしまった。

試合運びも雑であったが、おそらく、この両チームが「このスタメン」と「この監督」で対戦したら、10回中9回は韓国が勝利するだろう。MF宇佐美を筆頭に、タレント力だけを見ると日本も負けていないはずであるが、総合力の差はいかんともしがたいものがあった。選手たちがピッチ上で闘えていればまだ良かったがそれもなし。順当な敗戦だった。

2対1となった段階で、試合を見ていた人のほとんどは、追いつかれたり、逆転されるのは時間の問題だと思ったはず。この段階で何か手を打てなかったのだろうか?この試合は日本を圧倒した韓国であるが、MFキム・ボギョンやMFキム・ミヌ、FW曹永哲といったタレントの宝庫だった前回のチームと比べると小粒なチームであり、ロングボール以外で何か攻撃の手があったかというと疑問である。無策だったのが悔やまれる。

■ 致命的だった高さ不足

これで日本は前回大会に続いてU-20世界大会の出場はならず。致命的だったのは、やはり高さ不足。日本のセンターバックは176?のDF遠藤と176?のDF平出の二人。90分間、ロングボールを蹴り続けてきた韓国だったが、ほとんどの場面で韓国が競り勝って攻撃の主導権を奪った。これではもう試合にならない。

もちろん、イタリア代表のDFカンナバーロや、アルゼンチン代表のDFアジャラのように高さがなくてもロングボールに強い選手は何人もいるので、「身長」だけがすべてではないが、普通に185?のフォワードと176?のセンターバックが競り合ったら、185?のフォワードが競り勝つ可能性が高いのは明らか。また競り合いの場面でもしっかりと競るだけの技術があれば問題なかったが、競り合うことすらできていない場面も多かった。

2009年のU-17世界大会でも同じような問題があって、グループリーグのスイス戦でも2対0から逆転負けを喫した。U-17代表が1992年生まれ以降が対象で、今回のU-19代表は1991年生まれが対象なので、世代もかぶっており、すぐに対応できないのは仕方がないとはいえ、同じような失敗を繰り返すのはいかがなものだろうか?

確かにセンターバックからのビルドアップは大事である。そして、身長があって、かつ、ビルドアップの能力があるセンターバックがほとんどいないという現状はは理解できる。が、それでは、1試合目、2試合目、4試合目と、このセンターバックのコンビが、どれだけ前線に効果的なパスが出せただろうか?中途半端につなごうとしてカットされた場面がほとんどだった。

■ 布監督のチーム作り?

1993年のJリーグ発足以降、U-20世代、U-23世代、フル代表のうち、日本代表が世界大会の切符を逃したのは史上3度目。1回目がドーハの悲劇(1993年)であり、2回目が前回のU-19チーム(2008年)、3回目が今回のU-19チーム(2010年)。若い世代から世界大会を経験することで実力をつけてきた日本サッカーにとっては大きな痛手であり、明らかに異常事態である。この状況となれば布監督に批判の声が集まっても仕方がない。

今大会は4試合目であるが、UAE戦、ベトナム戦もひどい内容であり、スタメンを大幅に入れ替えたヨルダン戦こそ3対0で快勝だしたが、結局、GK中村以外を元のメンバーに戻して惨敗となった。スタメン選びに間違いはなかっただろうか?確かに後半のGK中村のプレーは良かったが、3失点目のフリーキックはセーブしなければならないシュートであり、スタメン組と連携の取れていたはずの192?のGk川浪を外して、183?のGK中村を起用した意図はなんだったのか?前半はGK中村の飛び出すタイミングが悪くてピンチになっていた。

また、キャプテンマークをつけていたボランチのMF六平にこだわった理由も理解できない。この試合で何度、MF六平が軽率なミスでボールを奪われただろうか?ボランチの位置でボールを失うと、即、ピンチになってしまうが、少なくとも5回・6回は軽率なプレーでボールを奪われた。確かにキャプテンを任しているので代えにくかったと思うが、大学生のMF六平にこだわる必要はあったのだろうか。味方のサポートが少なかったという気の毒な面もあるが、これだけボランチの位置で体を張れない選手がいると、中盤で主導権を握るのは難しい。3戦目で好プレーを見せていたMF風間やMF加藤を先発で起用するアイディアはなかったのだろうか。

■ 布監督のチーム作り? 

布監督は市立船橋での十分な実績を残していてアマチュアで最高レベルの指導者かもしれないが、やはりプロの選手と高校生では全く異なる。本当に布監督に任せてよかったのだろうか?南アフリカ大会で岡田監督が退任した後、協会はザッケローニ監督と契約するまで、原博美さんを中心に懸命になって監督選びを行ったが、この世代の監督をこれまで安易に決めすぎていなかったか?若年層の監督こそ、真剣になって探さなければならなかったのではないだろうか?

ピッチコンディションの問題や本当に招集したい選手を召集できなかったという幾つかの不運もあったとは思うが、これだけ流動性もなく、ピッチ上で戦っていない日本代表を見るのは初めてといっていいくらいであり、結果は残念であったが、このチームは世界大会に出場するレベルにはなかったし、その資格もなかったといわざる得ない。

明らかにタレントが不足していたのならば諦めもつくが、むしろタレントは史上最高レベルのものがあった。全力で戦って敗れたわけではなくて、余力を残したままの、何とも言えない悔しさが残る試合となった。これでロンドン世代となる1989年-1992年組は飛び級で2007年のカナダ大会に出場しているMF香川を除くと、ワールドユースの経験者なしでロンドン五輪を目指すことになる。異常事態である。

■ 考えなくてはならない協力体制 

ただ、擁護しなければならないのはベストメンバーで大会に挑戦できなかったこと。幸いにも、MF宇佐美は召集できたが、高木兄弟、原口、小野といったJリーグでも出場機会を得ている選手は召集されず、MF宇佐美も直前までチームに合流できるかどうかもわからなかった。よって、確実に招集できそうなメンバーを軸にするしかなかった。

そもそもとして、アジアユースがリーグ戦の日程とかぶっていることが問題であるが、今後、ユース世代で世界を目指すのであれば、協会側で何か召集に関するルールを決めていかないといけない。前回大会では、C大阪のMF香川は予選リーグだけの参加で準々決勝の前に帰国してしまったし、ナビスコカップがあったMF金崎はナビスコ優先で召集されなかった。

今回は、G大阪側の配慮もあってMF宇佐美が招集できたが、チームで主力のMF宇佐美が招集されて、他のチームは選手の召集を拒否できたとするならば、少し不公平な感じも受ける。タレント力だけでアジアを勝ち抜けるのであれば問題ないが、そうでないなら、何か対策を打たなければ、今後も同じ失敗を繰り返しかねない。この敗戦のダメージは2014年まではそれほど効いてこないだろうが、2014年からの4年間の強化を考えると致命的なものになりうる。


日本代表 (採点)

GK 中村隼 5.0 
 → 前半は最悪の出来だった。ただし後半のパフォーマンスは見事だった。
DF 岡本拓也 5.5 
 → DFラインの4人の中では唯一の及第点。 
DF 平出涼 4.5 
 → 初戦からつなぎでのミスが多すぎた。
DF 遠藤航 5.0 
 → UAE戦とベトナム戦は悪くなかったが、この日は相手の高さに苦しんだ。
DF 阿部巧 5.0 
 → 攻撃は悪くはなかったが、ハイボールで相手に狙われた。
MF 藤田息吹 5.5 
 → 後半はよかった。中盤では唯一、闘っていた。上を目指すならばパスミスは減らしたい。
MF 六平光成 3.5 
 → ほとんどのシーンでミス。厳しい評価をせざる得ない。
MF 菊池大介 5.0 
 → 何度かチャンスは作ったが、トラップが不正確だった。
MF 酒井高徳 4.5 
 → ほとんどの時間で消えていた。 
MF 宇佐美貴史 5.5 
 → 5年前から期待していた宇佐美貴史の世界大会への挑戦がこんな形で終わるとは・・・。あとは五輪とW杯だけか。(クラブレベルを除くと。)
FW 指宿洋史 6.5 
 → 雑な部分はあるが2ゴールと結果を残した。今後に期待したい。

MF 加藤大 5.5 
 → 後半19分から出場。惜しいシュートもあった。
FW 永井龍 6.0
 → 後半29分から出場。もっともゴールの可能性を感じさせたが、出場時間が短すぎた。
FW 杉本健勇 なし 
 → 後半34分から出場。見せ場は作れず。

布啓一郎 3.5
 → なし。


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