この横断幕が見られるのも今季限り

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スタジアムDJによる演出、試合前のファン&選手交流イベントなど、湘南シーレックスの横須賀スタジアムにおけるファンサービスは一軍の各球団と比べても遜色ないレベルにある。去る8月2日、その湘南シーレックスを今季限りで廃止することが横浜ベイスターズから発表された。これでプロ野球の12球団すべてにおいて一軍と二軍の名称が統一されることになる。

一軍と二軍を切り離し二軍の独立採算制を目指す試みというのが2000年代に入って始まり、サーパス神戸(オリックス二軍)、インボイス(西武二軍)など、いくつかの球団で一軍とは別の企業体の支援を受けて運営された時期があった。サーパスは2008年に、インボイスは2006年に命名権の契約が終了し、もとのオリックス、西武に名称を戻している。
シーレックスの場合はいささか趣旨が異なり、収益性の向上というよりも若手選手の動機付けや二軍単体でのファン獲得が目的とされていたが、二軍の独立性を高めるという一連の動きがこれで終息してしまうと思うと、率直に言って落胆を禁じえない。

プロ野球における育成基盤の整備・充実化というのはずいぶん前から言われており、比較対照として持ち出されるのはアメリカのファーム組織である。そこではそれぞれ球団ごとの系列はあるものの、メジャーの親球団とは異なる地域に本拠地を置き完全な独立採算制を敷くことで、各球団がファンサービスやプロモーションに注力する力学が生まれている。観客動員数をみても、さすがにメジャー球団には及ばないものの、多くの球団で試合あたりの平均観客動員数が5000人を超え黒字経営が行われているのである。その結果、ルーキーリーグから3Aまで各球団が複数のファーム球団をもつことが出来、多くの選手の成長機会を創出することとなっている。日本のファーム組織においても、上述の動きが始まった当初、目指すところは米国のように下部組織を充実させていくことだった。

今回、シーレックスの名称を廃止することの理由として発表されているのは以下の二点である。
1.維持費の問題。ベイスターズとユニフォームが異なることで、一選手に別々のユニフォームを用意する必要があり、コストが嵩む。
2.球団名称の認知の問題。「湘南シーレックス」ではどこに存在する球団なのかが分かりづらい。
個人的にそれぞれ疑問に思う部分があり、まず1.についてはベイスターズと全く別デザインのユニフォームを準備することが問題であり、帽子だけを異なるものにするなど共通化できる部分と差別化するところを分ければ問題がないのではないか。実際にヤンキース3Aに所属する井川慶のユニフォームなどをみていると、基本デザインはヤンキースと共通のものである。2.についてはさらに疑問で、「湘南」に問題があるなら「横須賀」の名称ではダメなのか、あるいは本拠地の知名度を疑問視するのならば、鹿島アントラーズもジュビロ磐田も名称を変えなければならなくなるだろう。

ともあれ、来季イースタンリーグにおいて「湘南シーレックス」は消滅し、「横浜ベイスターズ」として運営されていくというのは既に決定されたことである。ファーム12球団で唯一毎年ファン感謝祭を実施し、試合中の場内イベントなどでもおそらく最もファンサービスに力を入れてきた「湘南シーレックス」としての挑戦には、ここで一つの幕が引かれることになる。改めて球団経営というものの困難さに思いを致すところではあるが、今はこれが日本プロ野球の下部組織の退潮につながらないこと、そして来季も横須賀スタジアムに変わらぬ盛り上がりがあることを願うばかりだ。

■筆者紹介
松元 たけし
野球観戦が生きがいで、二軍戦を中心に毎週末球場に足を運ぶ。
熱中症対策にはビールで水分補給。

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