景気が「底打ち」だとも言われる中、「ユニクロ栄えて国滅ぶ」と題した論文波紋を呼んでいる。快進撃を続けているユニクロなどを例に、「安売りは企業の利益が減り、それが人件費にも跳ね返る。結果、労働者は安いモノしか買えなくなる」などという議論を展開している。もっとも、これにモーレツに反論する経済学者も相次いでいる。

「自分さえ良ければ病」があると指摘

   話題を呼んでいるのは、例えば文藝春秋09年10月号に掲載された、エコノミストの浜矩子氏による「ユニクロ栄えて国滅ぶ」と題した論文。価格が下がることで企業の利益が縮小し、それが人件費の切り下げにつながるなどと論じている。

   確かに、2009年春〜夏にかけての流通業界を振り返ってみると、「値下げラッシュ」が起きている。例えばアパレル業界では、ユニクロが3月に980円のジーンズを発売したのに続いて、イオンが8月には880円のジーンズで追随。ビール類では、イオンとセブン&アイ・ホールディングスが、「第3のビール」を、プライベートブランド(PB)としてナショナルブランド(NB)よりも1〜2割安い価格で投入したことが話題を呼んだ。

   論文では、こうした傾向を受けて(1)09年7月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)の下落幅は前年同月比2.2%で、3か月連続で過去最大の下落率を更新(2)7月の勤労統計調査では、現金給与総額(平均賃金)は前年同月比4.8%減の36万5922円。現金給与総額がマイナスになるのは14か月連続で厳しい状況が続いている、といった事柄につながっていると指摘している。

   浜氏の論文では、これらの背景として、消費者や企業、ひいては各国政府に「自分さえ良ければ病」があると指摘。

「せめて安いモノを買うことが自分と他人の値打ちを互いに下げていることに思い至ってほしい」

とも訴えている。

「安いから売れている」という見方を否定

   一方、この見方に反発する声も多い。代表的なのが、ブロガーとしても知られる経済学者の池田信夫さん。ブログ上で「唖然とした」とし、「ユニクロや弁当の値下げは貨幣的なデフレではなく、相対価格の変化なので、価格が限界費用と均等化すれば止まる。そして価格が下がれば需要は増えるので、ユニクロのように高い利益が上がる場合も多い」

として、浜氏の議論に反論、「これ以上説明するのもバカバカしい」と切り捨てている。

「ユニクロは日本を滅ぼすどころか、日本企業がグローバル化するロールモデル」

とも述べている。コメント欄にも、浜氏の議論の欠陥を指摘するコメントが数多く寄せられている。

   一方、矛先を向けられた形のユニクロだが、業績はきわめて好調で、親会社のファーストリテイリングは連結売上高を当初予想の6600億円から6820億円、営業利益を1010億円から1080億円に上方修正している。ユニクロの月次ベースの売り上げを見ても、6月までは「右肩上がり」だ。

   ユニクロの広報担当者は、好調の背景について

「3〜5月については、全般的に気温が高かったことが、売り上げ増に繋がったようです」

と分析する。一方、前出の論文で「ユニクロ栄えて国滅ぶ」などと指摘されていることについては、直接の反論はしなかったものの、

「価格帯にかかわらず、ポロシャツやTシャツなど、季節の移り変わりにあわせて、細かい計画を立ててキャンペーンを行ったことが奏功した」

   と「安いから売れている」という見方を否定している。

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