「増加する老朽化ダム」の脅威:検査・改修には巨額が必要

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Alexis Madrigal


米国のFolsomダム。Photo:AP/Bob Galbraith。サイトトップの画像は、インドのSrisailamダム

8月17日(現地時間)、ロシアのシベリアにある水力発電ダムで大事故が起きた。多数の死傷者が出ており、6000メガワットの電力供給がストップしている。[事故が起きたのは、1978年に操業開始した同国最大の水力発電所。ダムから発電施設に水を送る管が破裂して大量の水が発電所内に流れ込み、作業員12人死亡、行方不明64人の生存も絶望的と報道されている。修復には4年以上かかるとの指摘もある]

悲劇の根本的な原因は明らかになっていないが、ロシアのメディアでは、ソビエト連邦時代に作られて老朽化したダムの状態が問題視されている。

米国でもダムの老朽化は進んでいる。米国に約8万ヵ所あるダムは、平均すると築51年になる。米国の州政府ダム安全担当者協会(ASDSO)がこの8月に発表した統計によると、人口が集中した地域に近いダムのうち、2000ヵ所以上が改修を必要としている。

2008年には140ヵ所のダムで改修が行なわれたが、検査官によって、修復が必要なダムがさらに368ヵ所見つかった。こうしたことから米国土木学会(ASCE)は、国のインフラに関する2009年の報告書で、米国のダムに「D」の評価を下している。老朽化したダムがたくさんある一方で、安全検査官の数があまりに少なすぎるのだ。

危険度が高いダムをすべて改修するには、ASDSOの見積もりで160億ドルが必要とされている。しかし、すべての州のダム安全予算を合計しても、現在は6000万ドルに満たない。

米国では200年ほど前からダム建設が始まったが、20世紀前半にはダムの建設ブームがあった。大規模ダムは水力発電用、より小規模なダムは産業用や灌漑用だった。その頃は、ダムについて州にも連邦にも規定がほとんどなく、特に小流域の小さなダムの場合はそれが顕著だった。しかし、1970年代に5件の大規模なダム決壊があり、数百名の命が失われ15億ドル近くの損害が出た。[1976年にはアイダホ州でティートンダム決壊事故が起こった。本体建設終了後の試験湛水中に漏水が発生、拡大して決壊。住民11人が溺死、被害総額は10億ドルと、米国で最悪のダム決壊被害とされる。このほかにも、1972年に2件(数百人が死亡)、1977年に2件(80名程度が死亡)のダム事故が起こっている]

これを受けて当時のカーター政権が安全のための方策を開始したが、ダム検査は引き続き州のレベルで行なわれ、十分な検査が行なわれない州も多かった。

さらに現在、危険な地域への人口流入が続いている。米国の人口が増加し、かつてなら決壊しても大きな影響はなかったダムが、都市や開発地区の上流に位置するようになった。こうして危険度の高いダムの数は増加しており、2001年には9000ヵ所に満たなかったが、現在は1万ヵ所を超えている。

米国の大規模な水力発電用ダムはそのほとんどが適切に維持されているとされるが、古い民間所有のダムのなかには、所有者がわからないものもある。築75年〜90年のダムだとその多くは、建設した企業がなくなって長い期間が経っている。所有者の記録がない場合、必要な改修に資金を出す人を探し出すのは難しい。所有者が見つかったとしても、土やコンクリートでできた古いダムの改修費用は持ちあわせていない――あるいはそう主張する――場合がある。

州の担当者は困難な立場にある。ダムを自ら作り直す予算はなく、取り壊させるための資金もない。また、50年間も存在していたダムを取り除くのは簡単なことではない。ダムに適合した形で生息していた動植物に悪い影響が生じる可能性もある。

以上のような事情から、修繕が必要なダムは数千にのぼるが、修繕する資金が無く修繕されないという状況が生まれている。このような状況の中で起こったのが、ハワイのKa Lokoダムの事故だ。同ダムは2006年3月に決壊し、7人が死亡したが、この事故ではダムの所有者が規則を守っておらず、州当局も資金不足で修繕ができていなかった。

米国では、の老朽化が進んでいるという指摘もある。政治が機能せず国のインフラが損傷していくというのはロシアだけの問題とはいえない。

[日本では、日本初のコンクリートダムで1900年から稼働していた神戸市水道局管理の布引五本松ダムが阪神・淡路大震災で亀裂や漏水が発見されて修理を行なった例や、1913年から稼働していた広島県の帝釈川ダムを再開発した例がある]

WIRED NEWS 原文(English)

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