もちろん、それも容易なことではなかった。まず容積を大幅に小さくする必要があるうえ、形もそれまでの横広がりから縦置きに変えなければはまらない。
「もちろん簡単ではありませんでしたが、面白いことに、技術者というのは目の前に具体的な目標があったほうが解決能力を発揮できるんですね。単純に小さくしろ、出力密度を上げろと言ってもうまくいかない。ところが、FCXクラリティのセンターコンソールに入るように作れという命題になると、それをやってのけるのが技術者なんだと、あらためて感じられた」(藤本氏)

 工夫のすえ、水素や空気をそれまでの横方向ではなく、縦方向に流す「Vフロー方式」を考案。さらに燃料電池内部のセパレーターに刻まれた流路を波形にすることで、軽量・コンパクト化も達成した。 

■燃料電池や、自動車工学の知識なんて関係ない
 FCXクラリティに搭載されるVフロースタックは、標準的な旅行用トランクと同程度の大きさにもかかわらず、最大出力は100kW。これ1台で一般家庭 25軒分の電力を余裕でまかなうことができるのだ。そのパワーを背景に、FCXクラリティはアクセルペダルを踏み込むと、実に力強く加速する。「もちろんFCXクラリティの開発では、いろいろな技術を確立することができた。3年で200台を生産することで、量産を本格的に行うためのノウハウも蓄積できると思う。しかし、FCXクラリティは5年も10年もトップランナーでい続けることができるわけではない。もっともっと他メーカーも含め、切磋琢磨してFCEVをさらに進化させていきたいと考えています」(藤本氏)

 今日、自動車メーカーはFCEVを先端技術から普及技術へ落とし込むための取り組みを進めている。そのためにはより多くのエンジニアが必要となるが、どういう人材が求められているのだろうか。「正直、燃料電池を知っているか、あるいは自動車工学を熟知しているかどうかは、あまり関係がないと思う。私自身、燃料電池については門外漢でしたが、それでも開発責任者を務められていますし。一番大事なのは、FCEVが好きであるということ。臭い言い方をすれば、愛があればいくらでも創造性を発揮できるんですよ。あとは、全く他分野でもいいので、ある程度の規模のプロジェクトをきちんと完遂し、そこから自分なりの収穫を得られたという経験。FCEVはこれからも進化していかなければなりませんが、そこには他分野のエンジニアのイマジネーションが役立つ局面も多々あると思います」(藤本氏)

 技術的メドが立ち、公道を走り始めたFCEVだが、クルマという商品としてはまだ地平に立ったばかりという段階。これから本格的な発展が始まるなか、開発に携わる楽しみもまた大きなものと言えそうだ。

■Part2 2009年までに年間2000台ペースの“量販”へ!三菱自動車「i MiEV」
 三菱i MiEV(アイミーブ)は、軽自動車の「i」をベースに、エンジンとトランスミッションをまるごとモーターとインバーターに換装。さらに床下に大型のリチウムイオン電池モジュールを搭載するという手法で作られた次世代電気自動車(PEV)だ。燃料電池車に比べて航続距離は短いが、コストが圧倒的に安く、また量産効果によるさらなるコストダウンも進むとみられるなど、実用性の高さが魅力である。
 また、モーターとインバーターの騒音はきわめて低く、走行時や停車時の静粛性が高いのも特徴。都市部において、同社の益子修社長がすでに実証実験車両と同じタイプのモデルを社用車として使っているほどだ。 

■年間2000台ペースの“量販”を目指して
 昨今の石油高騰でにわかに脚光を浴びたのが、バッテリーを主電源として走る純電気自動車(PEV)。金融危機の流れの中で原油価格はその後下落したが、次世代環境ソリューションのひとつと言われていたPEVが、技術的にもコスト的にも実用化にぐっと近づいていることを、世界に強烈に印象づけた。