脱石油、CO2削減の流れが加速する中、脚光を浴びているのがクルマにおける電気エネルギー利用技術。燃料電池車、純電気自動車など、かつては未来カーと思われていたクルマが次々に目の前に登場している。それら次世代エコカーの開発最前線をレポート。 

■Part1 ホンダのチャレンジ精神が生んだ燃料電池車『FCXクラリティ』
 ホンダFCXクラリティは、水素を使って発電する燃料電池を主電源とする次世代のサルーンカー。燃料電池車(FCEV)は通常の充電式バッテリーに比べて重量出力密度、すなわちユニット重量あたりの発生可能パワーが格段に高く、電気自動車(PEV)に比べて大型のモデルを作りやすいというメリットがある。
 航続距離もPEVと比べると格段に長く、FCXクラリティの場合、10・15モード走行時で実に620kmを達成してる。デメリットはコストがきわめて高いこと。ホンダはFCEVを量産してコストを下げるにはどうしたらいいかを探るため、FCXクラリティを3年間で200台生産する“量産ライン”を構築し、さらに研究中。

■目標を達成していく楽しみしか思い出せない
「燃料電池車(FCEV)を作るからお前、開発をやれ、と突然言われてから今年で10年。技術者としては本当に充実した日々でした。開発過程では様々な困難がつきまといましたが、世界初のクルマ作りなのだから、苦労もなしにできるわけがない。振り返ってみると、新しいことにチャレンジし、目標を達成していく楽しみばかりが思い起こされて、何が大変だったかなんてどうでもよくなっている」

 次世代のクリーンエネルギーの本命といわれる水素を使って発電しながら走るFCEV。ホンダが世界に先んじて本格的にリース販売を開始した量産型FCEV「FCXクラリティ」の開発責任者、藤本幸人氏は、クリーンカー開発の楽しさを語る。

 FCEVを担当する前は、レシプロエンジンのシステム制御系の開発に携わってきた。若い頃から一貫してスポーティモデルを好み、現在の愛車も超高回転型エンジンを搭載するスポーツセダン「アコード・ユーロR」だ。走って楽しくなければホンダ車ではないというのが信念だ。「その頃はもちろん燃料電池の事なんか何も知りませんでした。当時の上司からやれと言われたとき、『それ、本当に俺に言ってるの?』とさえ思った」(藤本氏) 

■絶対に格好良くなきゃイヤだ
 最初に作ったFCEVの試作車「FCX-V1」は、当時ホンダがリース販売を行っていた電気自動車「EVプラス」の床下に、他社製の燃料電池スタックを搭載。「とりあえず走らせてみるという目的で作った」(藤本氏)。が、そのスタックの重量は約200kgもあり、サイズも巨大。積む場所は、ボディを新しく作るにしても必然的に床下となり、クルマとしては腰高になってしまう。

 その試作車をさらに進化させた「FCX」は02年、日本の首相官邸やカリフォルニアのフリートユーザーなどにリースされ、公道を走りはじめた。FCEV を走らせるという最初の目標を達成すると、藤本氏がもともと志向していた「走って楽しいクルマ作り」へのこだわりがふたたび頭をもたげてきた。
「ドライビングが楽しい、乗っていて心地よい、走っている姿が見た目に美しいFCEVを作ったら、世界がもっとFCEVに未来を感じてくれると思った。それでSUVルックではなく、セダンスタイルにしたい、絶対に格好良くなきゃイヤだと」(藤本氏)
 セダンスタイルのFCEVと口で言うのは易しいが、実際には様々な難題がつきまとう。最も難しいのは、大きなスペースを必要とする燃料電池スタックと高圧水素タンクの置き場だ。 

■命題をやってのけるのが技術者の使命である
 高圧水素タンクについては、シャーシ設計チームの創意工夫によって、タンクを抱え込むように構造材を配しながらボディ剛性を出すしくみを考案して問題を解決した。が、燃料電池スタックのほうはさらに置き場が限られる。スペース確保が可能な場所を検証した結果、運転席と助手席の間のセンターコンソールに置くことに決めた。