「練習でもやったことのない形だったが、闘莉王がペナのところにいろって言ってきた」と中村俊。フリーキックの直前、遠藤にも何か耳打ちをしていた闘莉王の機転が生んだトリックプレーだった。

 後半開始早々はバーレーンペースが続くが、日本が慌てることはなかった。中盤でボールを繋ぎながら、相手の疲労を促がす。

「前半から僕のサイドにはバーレーンの選手が二人流れてきて、4トップのような形で攻めてきた。本当なら、俊さんや松井さんには前でプレーして欲しかったけど、失点したくはなかったので、(中澤)佑二さんと話して、二人に戻ってきてもらうことにした」と内田。監督の指示ではなく、選手たちで状況を判断し修正したようだ。

 試合開始時の気温は35度を超えていた。バーレーンに来て、最も暑い夜だった。

 そんな中、前からプレスに行く時間と、我慢する時間を考えながら配分し戦った。しかし、3得点を挙げたもののミスもあったし、連携面でも課題は多かった。

 次戦、出場停止となる松井は「前半パスミスが多かったところは、もっと詰めていかなければいけないと思います。その中で一番良かったことは勝てたこと。それが一番大事だった。イタリアが強いのは、守って守ってカウンターで最後に勝てるから。いいサッカーしているチームが勝つ訳ではない。オランダは良くても、勝ちきれない。日本のサッカーを見せられなかったのは悔しいですが・・・」と勝ち点3の重みを語っている。

 そして2分間での2失点。得失点差での争いとなった際に不利にならなければいいが、中村俊は前向きにこう話した。

「3得点も良かったし、2失点したこともよかった。ウズベキスタンとか、オーストラリアは身長の高い選手が多いから、1点差ゲームなどでは、どんどん前線にボールを蹴ってくるはず。そういうときにどんな対処をすればいいのか?という点で、今日はいい教訓になったと思う。ネガティブに考えるのではなく、ポジティブに考えて、修正したほうがいい」

 中村俊と同じ右サイドを担当した内田も「もちろん0−3で勝ちたかったし、失点はしたくなかった。でも、あのまま0−3で終われば、見えなかった課題を見つけることができた」と、続いた。

 初めてのワールドカップ最終予選。この夜、内田が学んだことは大きいだろう。それは内田に限ったことではない。選手、そして指揮官も最終予選の厳しさを肌で感じた夜だったはずだ。

 敗戦で学ぶことも多い。そして、勝利によって見逃してしまうこともある。後味は悪いが、重要なのは、この味の悪さを忘れないことだ。そうして、この2失点を意味のあるものにしなければならない。


text by 寺野典子