●弥次喜多にみるライトノベルのルーツ
話は江戸時代に移り、経済的にも豊かになった庶民は読み書きを習えるようになります。日本の識字率は当時の世界最高水準となり、さらに木版印刷の発達で大量出版が可能となっていきます。この高い識字率と印刷技術を背景に、庶民は気軽に本を読めるようになります。本屋には様々な出版物が店頭に並び、その値段も安価でした。色鮮やかな「Ukiyoe prints(浮世絵)」も蕎麦一杯の値段で買うことができたようです。

ここで大ベストセラー『Tokaidochu Hizakurige(東海道中膝栗毛)』が出てきます。弥次さん喜多さんの珍道中を描いたこの本は、文章+挿絵という構成になっていました。これはまさに現代のライトノベル(ラノベ)の原型です。『東海道中膝栗毛』は、1802年に出版開始という、200年以上前の作品であります。涼宮ハルヒシリーズや『ゼロの使い魔』『狼と香辛料』のルーツがまさか「弥次喜多(やじきた)」にあったとは……。

ここでナレーションは「後の漫画雑誌ブームの基礎は、この時代にすでに出来ていたのです」とまとめます。正確には、漫画雑誌ブームの後に来るラノベブームの基礎も出来ていた模様です(ラノベ云々は番組内では一切触れられませんでしたが)。日本人の趣味思考は、ここ200年の間ほとんど変わっていないみたいですね。
2008年1月にTVアニメが放映される『狼と香辛料』の原作本(ラノベ)。不作と評判な来期の新作アニメの中では一応期待されてます。


●近代以降の日本漫画 手塚治虫の出現
近代〜現代の代表的な漫画作品として『Norakuro(のらくろ)』も紹介されていました。同作品の主人公「のらくろ」は野良犬で軍人という設定です。番組内では「犬ののらくろが厳しい訓練を経て、軍隊で活躍する様子を描いています」となんだか爽やかに語られます。漫画の映像はさらりと流れたので一見気にはならなかったのですが、一時停止して画面を凝視すると内容はかなり刺激であることに気付いてしまいました。

のらくろは「(部下に向かって)それ、今こそ命を捨てる時だ。最後の大馬力を出して肉弾となれ」とか「(敵陣に突撃時)弾が恐くて戦争が出来るか」とか、かなり血の気の多いセリフを連発しています。絵柄はほのぼのしているのですが、基本は戦争漫画なので、冷静に見るといろんな意味で凄いです。戦前から描かれていた作品だけに、テラ大日本帝国であります。ちなみに作者の田河水泡は、谷川町子(『サザエさん』の作者)のお師匠さん。なんともファンキーな話です。

そして「日本の漫画の歴史を塗り替えた人物」として手塚治虫が登場し、『Astro Boy(鉄腕アトム)』『Kimba the White Lion(ジャングル大帝)』がアニメ映像と共に語られます。また、漫画雑誌から生まれた大ヒット作品『Dragon Ball(ドラゴンボール)』『Ashita no Joe(あしたのジョー)』『Kacho Shima Kosaku(課長 島耕作)』も紹介されていました。なんだか紹介順が時系列に沿ってないのが気になりましたが、まあこれは細かいことなのでスルーしておきます。

番組終盤は、手塚治虫の偉大さを讃える内容が中心となってたように感じます。番組内での会話のやりとりの一部を以下に書いてみます。

バラカン:「現代の漫画にメッセージ性が込められるようになったのは、やはり手塚治虫の功績なのでしょうか」

伊藤教授:「手塚治虫がいたからこそ、現代社会において漫画がこれだけ大きな影響力を持つことができたのです。日本の漫画を語る時、私はよく手塚以前と手塚以降という言い方をします。『鳥獣人物戯画』の時代には、絵を通して仏教の教えを表現しようとしました。同じように手塚治虫は、彼自身のメッセージを伝えるために漫画を選んだのです」

バラカン:「(手塚治虫は)他の漫画家にも影響を与えたのですね?」

伊藤教授:「例えば藤子不二雄ですね。ドラえもんはご存知ですよね。ドラえもんからエヴァンゲリオンまで、独自の哲学を感じさせる漫画は全て手塚漫画の影響ですね」

なんだかあまりに褒めすぎなような気もしますが、面白い意見だとは思います(一部漫画とアニメが混同して語られている部分はご愛敬)。伊藤教授は手塚信者なんですかね。

●漫画と社会現象
エピローグは社会現象を巻き起こした作品として、小中学生の間に囲碁ブームを広めた『Hikaru no Go(ヒカルの碁)』、クラシックブームの火付け役『Nodame Cantabile(のだめカンタービレ)』を紹介。「そして今、日本の漫画は世界各国の人々に愛され始めました。800年かけて築かれた漫画の魅力は、海を越えて広がります」というナレーションと共に、漫画を読みふける外国の方々の映像を流しながら番組は終了となりました。

全体的に綺麗にまとめすぎな印象もありましたが、海外向けという番組の性格を考えると、あまりリアルな漫画の現状を語るのは場違いな気もするので、これはこれでアリなのでしょう。今後は「ゲーム」とか「コスプレ」あたりのネタが取り上げられることに期待したいです。『Begin Japonology』は、アキバ系以外のネタの回も面白いので一度は観ていただきたいと思う次第であります。
※参考サイト
Begin Japanology

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レッド中尉(れっど・ちゅうい)
プロフィール:東京都在住。アニメ・漫画・アイドル等のアキバ系ネタが大好物な特殊ライター。企画編集の仕事もしている。秋葉原・神保町・新宿・池袋あたりに出没してグッズを買い漁るのが趣味。

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