移動販売のさおだけ屋に対する注意を呼びかける国民生活センターのHP

写真拡大

   自動車に物干し竿を載せて移動販売する「さおだけ屋」を巡りトラブルが増えている。国民生活センターによると、「2本で1,000円」と言われた女性が、結局48万円を請求された例もある。「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」がミリオンセラーになったのは記憶に新しい。「潰れない」ための実際の「手口」はどうだったのか。

文句をいうとシャツ脱いですごんできた

   センターは2007年7月5日、ホームページ上で「移動販売等での物干し竿購入に関するトラブルに注意」と見出しをつけ、注意を呼びかける情報を発表した。06年度の相談件数は582件(物干し竿の移動販売)で、01年度の2倍以上に増えた。多くの被害者が「2本で1,000円」の呼びかけに応じ、平均で6万5,000円の契約をさせられている。

   ちなみにセンターは「さおだけ屋」の呼び方は使っていない。しかし、7月6日の読売新聞朝刊(東京最終版)は「さおだけ屋だからつぶれない!?」「悪質業者に苦情急増」と見出しをつけ、デザイン画もつけて報道した。ミリオンセラー本を意識したのか、いわゆる「箱物」扱いで目立つ扱いにしている。

   センターによると、次のような相談が寄せられている。「さおだけ1,000円」と言って回っていた業者を呼びとめて2本注文した70歳代の男性は、業者2人から「1本2万4,000円」と言われた。すると業者のうち1人がシャツを脱いで傷を見せ「手術代がいる」と言ってすごんできたので1本2万円で買わされた。

   また、60歳代の女性は「2本で1,000円」と言われ注文した。すると業者は勝手に別の種類の竿を切り始め、1本1万5,800円と請求された。「調節するため切ってしまったので解約できない」と言われ、仕方なく支払った。ほかにも、70歳代の女性が「2本で1,000円」という業者に4本頼むと、「物干し台も腐っているから替えた方がいい」と言われ、48万6,000円を請求された。安めの「さおだけ」は1本「500円から5,000円前後で販売されていることが多い」(センター)という。

   J-CASTニュースの取材に対し、センターは「移動販売のさおだけ屋はトラブルが多く、声をかけるのは慎重に、と注意を呼びかけたい」と話した。

   05年2月に初版が発行された「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」(光文社新書、山田真哉著)は100万部を大きく突破する売れ行きを見せている。公認会計士の山田さんが「会計」について分かりやすい例を挙げながら説明する本だ。利益を出すための大原則「売り上げを増やす」「費用を減らす」の例として、「普通に考えるとニーズもメリットもない」さおだけ屋を挙げている。「売り上げを増やす」の件の説明で、山田さんは「ごくごく一部のあくどい商売」の例を挙げている。センターに寄せられた苦情とそっくりだ。

筆者も悪質業者がかなり多いことは分かっていた

   本では、あるおばあさんの体験談として、業者に「2本で1,000円」と言われたが、おすすめは1本5,000円で長持ちすると説明され、高い方を1本買った例が載っている。土台修理も勧められ、業者の知り合いの別の業者を紹介され10万円を請求された。そして「このように単価を上げるという方法は、会計的に考えるなら実に有効なやり方だ」と記している。「単価を上げずに商売しているさおだけ専門業者も多く存在するので(こちらが本流)、誤解しないでいただきたい」とフォローもしている。「費用を減らす」の項目では、さおだけを仕入れている金物業者が、「副業」として移動販売の「さおだけ屋」を営むため、「(元々仕入れていたので)仕入れの費用がほとんどゼロ」という解説だ。

   国民生活センターが注意を呼びかけた悪質業者は、山田さんが書いているように「ごくごく一部」なのだろうか。J-CASTニュースの取材に対し、筆者の山田さんは「執筆のときは、あくまで会計に関する本だったので、控えめな表現にしました」と答えた。山田さんによると、調査の過程で悪質業者がかなり多い実態や組織的に取り組んでいる団体もあるという情報を得た。山田さんがマスコミ関係者に情報を伝え、取材に取りかかったマスコミもあったが実態を告発するには至っていなかったという。

   センターが注意を呼びかけたことは、良かった。山田さんはそう感じている。むしろ「もっと早く、マスコミを含めて追及すべき問題だったと思う」。公認会計士で「会計のプロ」の山田さんができることは限られ、業界の暗部を取材するのは「取材のプロ」のマスコミにがんばってほしい、という叱咤激励という訳だ。

   「さおだけ屋は〜」の本を読んだという関東地区のあるさおだけ販売業者によると、「昔からそういう悪質業者は多かった」。この業者は、5年ほど前に自動車による移動販売をやめた。以降はインターネットのみで注文を取っている。なぜ移動販売をやめたのかと聞くと、「高額の竿を無理に売りつける同業者が増え、印象が悪くなって市場規模が縮んでいったから」という。多くの業者が移動販売の「さおだけ屋」稼業から離れていったそうだ。センターへの相談件数582件について聞くと、「氷山の一角とは言えるでしょうね」と答えた。最後に「なぜ(あなたの店は)潰れないのか」と質問すると、インターネットでは、量販店で買っても持って帰るのが面倒だし、移動販売で買うのは「高いのを売りつけられそう」と抵抗がある人が注文してくるようだという。関東地区以外からも注文が来る。もっとも、洗剤など扱い品目も増やしているそうだ。