「お金なんか気にしちょし」父が亡くなり年金6万円になった70歳母…心配して半年ぶりに実家へ帰った44歳長男を圧倒する、最新家電と“想定外のゆとり”の正体
二階建て部分の年金「厚生年金」が受け取れず、国民年金だけの受給の高齢者は、年金月額が一桁というケースも少なくありません。そう聞くと、多くの人は生活に困窮しているイメージを抱くでしょう。しかし、そんな金額でも十分に豊かに暮らしている高齢者も。お金に頼らない豊かさとは? みていきましょう。
築40年の平屋を颯爽と走る「ロボット掃除機」
「フミヤ、半年も帰ってこんだねえ、元気にしてたけ?」
迎えてくれたトシ子さんは相変わらず元気そうでしたが、フミヤさんの目は彼女の足元に釘付けになりました。築40年の古い畳の上を、最新型のロボット掃除機が走っていたからです。
「母さん……これ、どうしたの? まさか変な訪問販売にでも騙されたんじゃ……」
不安になったフミヤさんは、台所で料理を作ってくれている母に向かって切り出しました。
「あのさ、母さんの年金だけじゃ生活キツいだろ? 俺、少しだけど毎月仕送りをしようと思ってさ」
すると、トシ子さんは焼きそばを作りながら、呆れたように笑いました。
「仕送りなんか気にしちょし。あんた、大阪の生活だって大変ずら」
余裕のないはずの家計に漂うゆとり
フミヤさんが仕送りを申し出たのには、自営業者だった父が亡くなり、母が暮らしに困っているのではと心配になったからです。
総務省「家計調査 家計収支編 2024年平均」によれば、高齢単身無職世帯(65歳以上の一人暮らし)の1ヵ月の平均消費支出は14万5,335円。地方の持ち家で家賃がかからないとはいえ、トシ子さんの年金額月6万円だけでは、毎月確実に数万円の赤字が出るはずです。
また、厚生労働省『令和7年 国民生活基礎調査』でも、高齢者世帯の約5割が生活について「苦しい(大変苦しい・やや苦しい)」と回答しており、年金頼みの生活がいかに厳しい状況であるかが示されています。
本来なら生活に困窮していてもおかしくないトシ子さんが、なぜ最新家電を買い、笑顔で仕送りを断れるほどのゆとりをみせているのか。フミヤさんはその理由を知ることになります。
月5万円の「現実的な仕事」
夕食のテーブルに並んだのは、ツヤツヤの炊きたてご飯と、みずみずしい朝採れ野菜の天ぷら。トシ子さんは「これ、全部もらいもんだよ」と笑います。実はトシ子さん、近所にある地元の特産品(果物やワイン)の加工場で、週に3日、箱詰めやラベル貼りのパートタイマーとして働いていました。
70代の「無理のない就業」
内閣府「令和7年版 高齢社会白書」によれば、日本の高齢者の就業率は年々増加傾向にあります。特に70〜74歳の就業率は34.3%となっており、いまや「70代前半の3人に1人」がなんらかの形で働いている時代です。
トシ子さんのパート収入は、月に約5万円。1日4時間、近所の世間話をしながら無理なくこなせる作業です。これが年金6万円に上乗せされることで、月の自由になるお金は11万円となり、一人暮らしの地方生活としては十分な防衛資金になっていました。
近所付き合いが生む「食費ゼロ」の防衛策
さらにトシ子さんの生活を豊かにしているのが、地域での繋がりです。内閣府『令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査』では、近隣住民との親しい付き合いや地域活動への参加がある高齢者ほど、生活の満足度が高く、孤独感も低いというデータが出ています。
トシ子さんはパート先やご近所の農家さんと日ごろからお裾分けをし合う関係を築いていました。「これ、形が悪いから持っていけし」と、野菜や米が日常的に届くため、トシ子さんの「実際の食費」は驚くほど低く抑えられていたのです。
最新家電を買った理由
「あの掃除機もね、自分で稼いだお金で買ったじゃんね」と、トシ子さんは誇らしげにロボット掃除機を見つめました。
「この年齢で長く元気に働くコツはね、楽できるところは機械に任せて、体力を残しちょくこと。毎日掃除機をかけるのは腰にくるずら? 浮いた時間でパートに行って、また楽しく稼げばいいじゃん」
フミヤさんは、母の圧倒的なバイタリティと、時代の変化に無理なくアジャストしたスマートな生活知恵に、ただただ脱帽するしかありませんでした。トシ子さんにとってロボット掃除機は、贅沢品ではなく、「生涯現役」で上機嫌に生き続けるための、合理的な自己投資だったようです。
親孝行の形が変わる時代
大阪へ戻る間際、フミヤさんは用意していた仕送り用の封筒を鞄にしまいました。代わりに、トシ子さんが「一度行ってみたかった」といっていた温泉旅館を予約しました。
「わりいじゃんね、フミヤ」
嬉しそうに微笑む母の顔をみて、フミヤさんは気づきました。これからの親孝行とは、無理をして毎月のお金を送ることだけではないのかもしれません。親が地域と繋がり、健康に自立して生きる姿を尊重し、その元気な背中を後ろからそっと応援すること。
「仕送りなんか気にしちょし」と言い放った70歳の母の背中は、息子が心配していたよりも、ずっと頼もしく、そして温かいものでした。
