キオクシアはまだまだ上がると見る理由

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キオクシアはここから倍になる余地じゅうぶん

過(あやま)ちを改(あらた)めざるこれを過(あやま)ちという

先週のレポート(5月14日付「ハイパースケーラーのAI過剰投資問題」)で、キオクシアホールディングス(285A)について、ここからは「一旦の天井」を意識し始める頃合いではないかと述べたが、僕が間違っていた。あの決算を見せられては素直に謝るしかない。2026年4-6月期の連結純利益の予想は前年同期比48倍の8690億円。事前の市場予想コンセンサスの2倍を超える水準だ。今期の予想EPS(1株あたり利益)も急伸、すなわちPER(株価収益率)は急低下。これだけ株価が急騰してPERはまだ10倍そこそこだ。これなら、ここから株価が2倍、3倍になってもおかしくない。いまからでも全然、買っていける。

出所:(QuickよりFI部作成)

半導体相場はAI産業のインフラ&サプライチェーン全体を買う相場に

キオクシアについてもう少し述べる前に、5月20日のNY市場引け後に発表されたエヌビディア[NVDA]の決算に触れておこう。エヌビディアが20日発表した決算は、今回もまた非の打ち所がない、素晴らしいものだった。売上高、純利益とも四半期として過去最高を更新。市場の予想も上回った。次期も市場予想を超える良好な見通しを提示した。しかし、株価の反応はいまひとつ。上述した「今回もまた」というのがポイントなのだろう。エヌビディアの決算が良いのは、毎度のことで市場はそれに慣れっこになってしまっている。エヌビディアは今回、追加で800億ドルの自社株買い枠を決め、配当を1株当たり0.01ドルから0.25ドルに引き上げる還元策を打ち出したが、それも僕は「成長株」としてのピークは過ぎたとの印象を持った。少なくともAI半導体相場の主役の座は降りたと言っても過言ではないだろう。

このことは既に1ヶ月前のレポートで書いたことだ。(4月17日付「半導体株相場における物色の拡散」)

フィラデルフィア半導体株指数(SOX)構成銘柄の年初来リターン(20日まで)のランキングで見ると、エヌビディアは下から4番目。SOX自体が66%上昇し、トップのインテル[INTC]が200%、2位のマイクロン・テクノロジー[MU]が150%をそれぞれ上回る驚異的な上昇率に比べ、エヌビディアは2割弱とかなり見劣りがする。これはAI半導体相場の物色傾向が明らかに変化していることの象徴である。

何度も言うが、AI半導体のど真ん中=GPU=エヌビディアを買う相場から、AI産業のインフラ&サプライチェーン全体を買う相場に移行しているのだ。

その象徴が古河電気工業(5801)やフジクラ(5803)などの電線株であり、もう一方がメモリ株である。AI向け半導体GPUの周辺には膨大なメモリを必要とする。よっていま起きている半導体株ブームというのはメモリ株ブームである。

上述したマイクロン・テクノロジーはSOXの中ではダントツの上昇率を誇るが、SOXの外に目を向けるとさらに急騰している銘柄がある。サンディスク[SNDK]である。サンディスクはいまAIメモリ・NAND相場の主役級なのに、SOXの構成銘柄には入っていない。サンディスクはキオクシアの協業相手であり、ざっくり言って、ほぼ同じ企業と思っていいだろう。だから株価もまったく同じ値動きをしている。その両者に並ぶ急騰を見せているのが韓国のSKハイニックスだ。SKハイニックスはHMB(広帯域幅メモリ)のトップ企業で、その差はマイクロンとの株価の差が証明している。

出所:Bloomberg

そしてグラフの一番下がサムスンだ。断っておくが、サムスンの株価も過去1年で5倍になっているのだが、他が凄すぎて見劣りがするだけである。なにしろキオクシアの株価はもうすぐ過去1年で30倍になろうとしているところなのだから。

しかし、この株価の差も半導体の実力の差を表している。

キオクシアはNANDフラッシュで王者の座に躍り出るか

AI半導体のGPUの周りには膨大なメモリが必要と述べたが、基礎知識のおさらいをしておくとメモリには大きく2つあって、ひとつがDRAM、もうひとつがNANDフラッシュメモリだ。DRAMの中でもいまの話題の中心はPC向けなど汎用品ではなくてAI向けのHMB(High Bandwidth Memory、広帯域メモリ)である。

なんと言ってもメモリのトップ企業はサムスンなのだが、近年ではHMBの分野ではSKハイニックスの後塵を拝する格好になってきた。グラフからも分かる通り、HMBではSKハイニックスが王者であり、マイクロン・テクノロジー、サムスンを凌駕しているのである。

ではNANDフラッシュではどうか。ここでも現在のトップはサムスンなのだが、この株価の勢いからすれば市場はキオクシアが早晩、トップの座をサムスンから奪うことを織り込んでいるように見える。詳しい話は半導体の専門家から聞いてほしいが、キオクシアが開発したNANDフラッシュは推論までできるという高性能で、まさにAI半導体のためのメモリなのだ。

メモリは保存するだけなのに、なぜ推論(AI計算)ができるのか?と思われるだろう。結論から言うと、NANDそのものがGPUのように推論するわけではなく、「メモリ内部で計算の一部を行う(Compute-in-Memory)」ことで、AI推論を高速・省電力化する技術をキオクシアは開発している。

問題は、AIでは計算そのものよりデータ移動の電力・時間が巨大になってきたことだった。そこで出てきた発想が、「データをGPUへ持っていくのではなく、データがある場所(メモリ)で計算してしまえ」ということだ。これがPIM(Processing in Memory)とかCIM(Compute in Memory)と言われているものだ。推論は学習と違い、「大量データから似たものを探す」処理が多いため、ストレージ近傍計算(Near-memory computing)と相性が良い。この技術によってキオクシアはNANDフラッシュの分野で圧倒的な王者の座に躍り出ることができると市場は確信しているように見える。

整理すると、HMBのSKハイニックス、NANDのキオクシア、サンディスク、これら3社が現在のメモリ相場の主役である。キオクシアの株価は驚異的な上昇となったが、キオクシアだけでなく、他の2社もまったく同様の評価を市場から受けている。韓国市場で取引されるハイニックスも米国市場に上場するサンディスクも東京市場のキオクシアもまったく同じ上昇率だ。グローバル投資家の目線は同じということである。

広木 隆 マネックス証券 チーフ・ストラテジスト