Google I/O 2026で見えた「エージェント型Gemini」の輪郭--Gemini SparkとAndroid XRグラスが示す方向性
Googleは2026年5月19日、年次開発者会議『Google I/O 2026』を開幕した。基調講演に登壇したSundar Pichai CEOは、過去1年でGoogleの各サービスにおけるAI処理量が前年比7倍、月3200兆トークン超に達したと示したうえで、「Agentic Gemini Era(エージェント型Geminiの時代)」というキーワードを掲げた。先だって開催された『The Android Show | I/O Edition』で示された「OSからインテリジェンスシステムへ」という方向性が、I/O本体ではモデル、サービス、端末を横断する形で具体化された印象だ。
(関連:【画像あり】『Google I/O 2026』で発表されたAndroid XRグラスなど)
本稿では、注目度の高い3つのトピックを軸に、発表内容を整理していきたい。
■新モデル「Gemini 3.5 Flash」と「Gemini Omni」シリーズ
Geminiに関連するトピックスでは、新モデル「Gemini 3.5 Flash」が発表されたことが大きなポイントだ。これまでの上位モデルだった3.1 Proをほぼ全てのベンチマークで上回りつつ、他社のフロンティアモデル(最先端の大規模AIモデル)と比べて出力速度は約4倍、トークン価格は半額以下に収まる。
Pichai氏は「1日に約1兆トークンを処理する大手企業が、既存のフロンティアモデルから8割をFlashに置き換えるだけで、年間10億ドル規模のコスト削減になる」と具体的な試算を提示した。同モデルはGemini App、Antigravity 2.0、Gemini APIで提供開始されており、Searchでの活用は今夏に展開される予定だ。なお「Gemini 3.5 Pro」はGoogle社内で先行利用が進められており、6月に一般公開予定とのことだ。
あわせて新シリーズ「Gemini Omni」も発表された。Geminiの高度なインテリジェンスとGoogleのジェネレーティブメディアモデルを組み合わせたもので、世界理解における大きな飛躍になるとしている。まずはビデオ出力から開始し、将来的には画像やテキスト出力にも対応していく予定とのことだ。
最初のモデルとなる「Gemini Omni Flash」はテキスト、画像、音声、動画を入力として受け取り、「実世界の知識に基づいた動画」を出力できるという。こちらはGemini App、Google Flow、YouTube Shortsで利用可能だ。
■24時間稼働のパーソナルAIが登場 個人向けエージェント「Gemini Spark」
今回のGoogle I/Oの大きなトピックの1つが、新エージェント「Gemini Spark」だ。GoogleはSparkを「ユーザーの代わりに動く、24時間稼働のパーソナルAIエージェント」と位置付ける。Google Cloud上の専用仮想マシンで動作するため、ユーザーがPCを閉じている間もタスクを進められる点が特徴だ。基盤にはGemini 3.5と、Googleのエージェント開発基盤「Antigravity」のハーネスが採用される。
あわせて、エージェントの進捗を画面上部に常時表示するAndroidの新UI「Android Halo」も発表された。こちらも、ユーザーが作業を中断せずに動作状況を把握できる仕組みだ。
連携先はまずGmailやDocs、Slidesなどの自社サービスから始まり、今後数週間でMCP経由のサードパーティ製ツールを利用できるようになる。今夏後半にはChrome上でも稼働し、ウェブ全体を横断するエージェントブラウザとしての利用も予定されている。
Gemini Sparkは、米国のGoogle AI Ultraプラン加入者向けに、来週からベータ提供が始まる。
■Android XRグラス「Intelligent eyewear」が今秋発売
デバイス関連の発表として注目を集めたのが、Android XRベースのスマートグラス「Intelligent eyewear」だ。昨年のI/Oでプロトタイプが示されていたが、今回、改めて今秋の発売がアナウンスされた。年内に登場するのは、音声入出力に特化したオーディオグラスで、ディスプレイ搭載モデルの発売時期は明らかにされていない。
内部ハードウェアはSamsungとQualcommが手掛け、外観デザインはアイウェアブランドのGentle MonsterとWarby Parkerが担当する。Android端末だけでなくiPhoneともペアリングできるとのこと。
機能面では、Geminiによるリアルタイム翻訳、ナビゲーション、通知の要約、おすすめスポット提案などをハンズフリーで利用できる。とはいえ、最初のモデルはレンズ内にディスプレイを持たない構成のため、視覚的な情報提示は別ラインのディスプレイ搭載モデルを待つ必要がある。それでも「画面を見ない時間」にもAIが介在するという発想は、Geminiがスマートフォン以外の接点を取りに行く動きを示していると言えるだろう。
■フルスタックで進むエージェント化と、料金体系の刷新
ここまでの発表群を並べて眺めると、Googleの戦略が「フルスタック」という言葉に集約されつつあるのが分かる。学習向けの「TPU 8t」と推論向けの「TPU 8i」というデュアルチップ構成のシリコン基盤から、Gemini 3.5系の中核モデル、Antigravityの開発基盤、そしてSpark、Search、Workspace、Intelligent eyewearといったプロダクトまで、各レイヤーがエージェントを軸に再設計されつつある。
Search側でも、背景で24時間情報を監視する「Information agents」や、検索クエリに応じた専用ダッシュボードを生成する「mini apps」が登場した。検索結果が「答え」から「使い続けられるツール」へと姿を変える方向性が打ち出された格好だ。
この動きと表裏一体で発表されたのが、料金体系の刷新だ。Google AI Ultraは新たに月100ドル(国内価格1万4500円)の「Google AI Ultra 5x」プランを設け、従来の250ドルプランは「Google AI Ultra 20x」として200ドル(同3万2000円)へと値下げされた。あわせて、従来の「1日のプロンプト回数制限」から、プロンプトの複雑さや使用機能、チャットの長さを加味した「compute-used(計算量ベース)」モデルへと移行する。
■新たに発表されたGoogle AIの料金プラン
この変更は、エージェントによる消費量増を前提とした課金設計への切り替えと言えるが、裏を返せば、ユーザーがエージェントの利便性を本格的に享受しようとするほど、コストが高額化する傾向を意味している。特に、Gemini Sparkの強みである「24時間タスクを回し続ける」という利便性を引き出そうとするほど、ユーザー側のコスト負担がダイレクトに膨らむ構造だ。
現在もOpenAIのAgent ModeやAnthropicのClaude Coworkなど、エージェント機能の利便性が広く伝えられてはいるものの、こうした先進機能に伴う高額なコスト負担は、先端技術に関心の高い層ならまだしも、一般ユーザーにまで価値が広く普及しているとは言い難い。
このため、Pixel、Android、Search、Chrome、Workspace、Intelligent eyewearまでを束ねられるGoogleの優位性を、一般層が納得できるコスト感に落とし込みつつどう収益化していくかが、次の焦点となるだろう。
『The Android Show | I/O Edition』で示された「Gemini Intelligence」「Googlebook」と合わせて見れば、Googleは「スマホ、PC、グラス、クラウド」を横断する“常時稼働するAI”という地平に駒を進めている。Spark、Search、Halo、Intelligent eyewearがそろって動き出す今秋以降が、Geminiが「エージェント」として真に日常に根付くかを測る試金石になりそうだ。
(文=山本竜也)
