「老人ホームで幸せに暮らす人」「孤独の中で老いて死んでいく人」の決定的な差
期待外れの老人ホーム生活
長年、自営業を営んできた林義雄さん(79歳、仮名)が老人ホームへの入居を決めたのは、妻を病気で亡くして間もなくのことだ。足が悪くなっていたこともあり、住み慣れた名古屋市内の一軒家を売り、息子家族が暮らす京都から近い大阪市内の施設を選んだという。
仕事一筋で生きてきた林さんにはそれなりに蓄えがあり、老人ホームでの暮らしに期待を抱いていたと振り返る。
「入居当初は、妻の死に落ち込んでいましたが、『自分の時間ができた』と楽しみにもしていました。ただ、新しく住む街で周りには知らない人ばかり。友だちもおらず、だんだん孤独を感じるようになったんです。
それに追い打ちをかけるように、入居当初は2ヵ月に1回は顔を見せに来てくれた息子夫婦もほとんど来てくれなくなった。最近は施設の食堂に行くのも億劫で、部屋で一人で食事を済ませることが増えました」
林さんが老人ホームに移って4年が経つが、いまでは一日のなかで言葉を交わすのは、ほんの数人。週1回の回診で訪れる医師と、1日3回食事を部屋まで届けてくれる施設職員だけだという―。
「人生100年時代」と言われて久しいが、平均寿命は延び続け、介護が必要になることは誰にとっても他人事ではなくなった。老後の住まいの選択肢はさまざまあるが、食事や生活面のサポートが受けやすい、人と触れ合いやすい環境として、老人ホームを選ぶ人も少なくない。
老人ホームで幸せに暮らす方法
だが、同じ施設に暮らしながら、生き生きと毎日を送る人もいれば、林さんのように孤独の中で老いていく人もいる。その差はいったいどこにあるのか。
日本最大級の老人ホーム・介護施設検索サイト「LIFULL 介護」の編集長、小菅秀樹氏が解説する。
「老人ホームで幸せに暮らすには、施設選びから入居後の過ごし方まで、さまざまな要素があります。ただ、充実した生活を送っている人、反対に孤独な人はどの施設にもいる。誰でも幸せになれる「いい老人ホーム」はありません。おカネをかけていい施設に入ろうが、どんなに条件が整っていない施設に入ろうが、最後はその人がどう過ごすかにかかっているんです」
施設によっては、卓球台やカラオケルームなど身体を動かせる設備やレクリエーションが充実している。林さんの住む老人ホームにも、ジムや麻雀、ビリヤードができるスペースがあるが、林さんがそこへ足を運んだことは、一度もないという。
「最初の頃は1階の食堂に通っていたんですが、部屋が5階でエレベーターに乗るのも面倒になってきて……。部屋まで食事を届けてもらえるサービスを使うようになりました。そうしたら今度は筋力が落ちちゃって、歩くと膝が痛くなってますます部屋から出なくなりました。
うちの老人ホームでは月に一度、1階のホールでイベントをやっているのですが、今さら知らない人たちの輪の中に入って行けないですよ。でも、仕事していたときは趣味なんて何もなかったから、一人で楽しむこともできません」(林さん)
いつまでこの孤独は続くのか―林さんは肩を落として、遠くを見つめた。
【後編を読む】「とにかく歩く力を維持する」「サークル活動で役割を見つける」老人ホームで幸せに暮らす人の最大特徴
「週刊現代」2026年5月11日号より
