アルマ望遠鏡が恒星間彗星「3I/ATLAS」の“半重水”を検出 太陽系と異なる極寒環境が起源か
ミシガン大学の博士課程学生Luis E. Salazar Manzanoさんを筆頭とする研究チームは、チリの電波望遠鏡群「ALMA(アルマ望遠鏡)」を用いた観測により、太陽系外から飛来した恒星間天体「3I/ATLAS(アトラス彗星)」に含まれる「半重水」を検出したとする研究成果を発表しました。
恒星間天体において半重水が測定されたのは今回が初めてであり、3I/ATLASが太陽系とは大きく異なる極低温の環境で誕生したことを示唆しているといいます。研究チームの成果をまとめた論文は、学術誌「Nature Astronomy」に掲載されています。

水の「重水素対水素比(D/H比)」が語る形成環境
私たちにとって身近な物質である「水」には、通常の水分子(H2O)だけでなく、水素原子の一つが重水素(中性子を一つ余分に持つ水素の同位体)に置き換わった「半重水(HDO)」と呼ばれる分子が含まれています。
多くの水を含むことから「汚れた雪だるま」とも呼ばれる彗星にも、同じように半重水が存在します。こうした天体を観測し、そこに含まれている重水素と通常の水素の比率である「重水素対水素比(D/H比)」を調べることで、その水がどのような物理的条件(特に温度)のもとで形成されたのかを推測することができます。
D/H比は太陽系の彗星の30倍以上 極低温環境での誕生を示唆
研究チームは3I/ATLASが太陽に最も接近(近日点通過)した日から6日後の2025年11月4日に、ALMA望遠鏡を用いて観測を行いました。太陽の強烈な光にさまたげられる多くの光学望遠鏡とは異なり、太陽の近くに位置する天体でも観測を行えるのはALMAならではの強力な機能です。
研究チームによると、観測データを分析した結果、3I/ATLASのD/H比は地球の海水の40倍以上であり、太陽系の彗星と比べても30倍以上に達することが判明しました。つまり、3I/ATLASにはそれだけ高い割合の重水素が含まれている、ということになります。

Manzanoさんによれば、重水素が濃縮される化学プロセスは温度に対して非常に敏感であり、通常は30ケルビン(約-243℃)を下回るような極低温の環境が必要になるといいます。この並外れて高いD/H比は、3I/ATLASの故郷が私たちの太陽系が形成された時とは異なる、極めて寒冷な化学環境だったことを示しています。
なお、今回の観測では半重水は直接検出されたものの、通常の水分子の兆候はALMA望遠鏡の検出限界さえも下回っていました。そのため、研究チームは同時に観測されたメタノール(CH3OH)のデータを活用し、高度なモデリングによって間接的に水の総量を推定するという画期的な手法をとっています。
他の星系から飛来した「化石」を読み解く
論文の共同筆頭著者である、ミシガン大学のTeresa Paneque-Carreño助教は、「それぞれの恒星間彗星は、別の場所からの“歴史”や“化石”を少しずつ運んできてくれます」と語っています。ここでいう化石とは、今回検出された高いD/H比のような、天体が形成された環境の化学的な記録を指しています。
太陽系外からやってきた天体の化学組成を直接調べることができる恒星間彗星は、他の惑星系がどのように形成されたのかを知るための非常に貴重なサンプルです。今回の発見は、天の川銀河における惑星系形成のプロセスが多様であることを裏付けており、今後のさらなる観測やデータ解析によって、他の惑星系に関する理解が深まることが期待されます。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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