NISAだけでは足りない?「増やす・守る・使う」お金の三分類整理術
老後資金から考える「増やす」と「守る」
2019年の金融庁報告書が端緒となった「老後2000万円問題」をきっかけに、将来のお金を自分で考える女性が急増しました。なかでも近年際立っているのが、NISAやiDeCoの活用です。
楽天証券の調査によると、積立NISAの口座保有者における男女比は、2022年2月時点では6対4だったものが、同年末にはほぼ半々まで女性比率が上昇しました。大和証券のデータでも、この10年でiDeCo加入者に占める女性の割合が明らかに増加しています。金融庁の調査では、2025年3月末時点のNISA口座数は約2647万口座に達しており、制度開始から1年強で政府の目標買付額56兆円を前倒し達成するという驚異的な広がりを見せています。
こうした流れ自体は、とても良いことだと思います。
一方で、「増やす」ことへの関心が高まった分、「守る」という視点がおざなりになっているケースも目立ちます。生命保険文化センターの2024年度調査によれば、老後や介護への経済的な備えで「充足感なし」と答えた人は6割を超えています。増やすことに目が向くほど、守る仕組みが後回しになりがちな現実があるのです。
「老後2000万円問題」は今や過去の話になりつつあります。
物価の上昇や生活費の変化、介護・医療リスクを加味した試算では、老後の必要資金は大きく膨らんでいます。
また、生命保険文化センターの調査によると、夫婦でゆとりある老後を送るために必要な生活費は月39.1万円(2025年調査)とされています。公的年金の受給額との差を20~30年にわたって自前で補填することを考えれば、その準備は早いに越したことはありません。
制度の「期限」を確認する
お金を守る・増やす仕組みとして、非課税制度の活用も欠かせません。ただし、これらは永続的な制度ではないことを理解しておく必要があります。
■教育資金の一括贈与(最大1500万円非課税)
祖父母や、父母から30歳未満の子・孫へ教育資金を一括贈与する場合、1500万円(学校外教育費は500万円)まで贈与税が非課税となる制度です。2013年に創設され、延長を繰り返してきましたが、富裕層への偏りや格差固定化への懸念、教育無償化の進展などを理由に、2026年3月31日をもって終了することが決定しており、期限の検討が必要です。
■暦年贈与(年間110万円の基礎控除)
年間110万円以内の贈与は贈与税がかかりません。ただし2024年以降、相続開始前の贈与が加算される期間が段階的に延長(最大7年)されました。早期・計画的な贈与がより重要になっています。
■相続時精算課税
2024年以降、年110万円の基礎控除が新設されたことで使いやすくなりました。まとまった生前贈与を検討する場合に有効な選択肢です。
■生命保険の非課税枠
死亡保険金には「500万円×法定相続人数」の非課税枠があります。相続対策として終身保険を活用する方法は、現在も合理的な手段として機能しています。
こうした情報を目にすると、「いまのやり方で大丈夫なのか」と不安になる方もいるかもしれません。でも、必要以上に焦ることはありません。大切なのは、正しい知識のもとで、自分のお金の役割を整理しておくことです。
お金の3つの役割
資産を上手に築いている人ほど、お金の役割をきちんと分けて考えています。
1)使うお金
日々の生活費や突発的な出費に備える、手元に置いておくお金です。一般的に生活費の3~6か月分が目安とされています。すぐに引き出せる流動性が最優先なので、普通預金や利率の良い決済口座で管理するのが基本です。ただし、金利がほぼゼロの口座に大量の現金を眠らせることにはメリットはありません。
2)守るお金
万一のとき、家族や自分の人生を支えるためのお金です。ここで重要な役割を担うのが保険です。
3)増やすお金
将来に向けて、資産運用で育てていくお金です。NISAやiDeCo、証券投資などがここに当たります。
この3つを意識して分けるだけで、お金の管理はずいぶんとシンプルになります。
「守るお金」を担う商品の役割と注意点
■預貯金
流動性が高く安全性は高いですが、インフレ局面では実質的な購買力が目減りします。生活防衛資金(使うお金)はここに置きつつ、老後資金をすべて預金に頼ることのリスクは意識しておく必要があります。
■保険
保険の本質的な役割は、お金を増やすことではなく「人生を守ること」です。
生命保険(定期・終身):万一の際の遺族保障。子育て世代であれば、子どもの夢を守るお金。終身保険は相続対策にも活用できます。
医療保険・がん保険(三大疾病・八大疾病):入院や治療費の自己負担を軽減。民間保険は公的健康保険を補完する位置づけです。
個人介護保険:要介護状態となった場合の費用に備える保険。生命保険文化センターの試算では、介護費用の平均総額は約542万円。公的介護保険だけでは賄いきれないケースもあります。
個人年金保険:老後の収入を補完するための保険。確定年金・終身年金など受取方式によって特徴が異なります。金利が戻ってきたことから、今後はチェックしておきたいところです。
変額保険(現在):保険料の一部を株式・債券などで運用し、死亡保険金・解約返戻金が運用実績に応じて変動する保険です。運用益が非課税で再投資される点や保険保障と資産形成を同時に行える点が特長で、現在は保険会社の運用リスク管理も厳格化されており、適切に活用すれば有効な手段です。
ただし、ここで歴史を振り返ることが重要です。バブル期、変額保険は相続税対策として富裕層を中心に大量販売されました。しかし株価・地価の暴落により運用が悪化し、「追加保険料を払わなければ失効する」という通知が契約者のもとに届く事態が続出しました。銀行がローンを組ませて加入させる「バンクローン変額保険」スキームでは、相場崩壊後に追加請求が直撃し、訴訟に発展するケースも相次ぎました。保険を「増やすもの」として使った結果、守るはずの資産が逆に脅かされた歴史的な教訓です。現在の変額保険はこれらの反省を踏まえて制度・規制が整備されていますが、商品の仕組みとリスクを十分に理解したうえで加入することが不可欠です。
損害保険(個人賠償・火災・地震):日常の賠償リスク、住まいへの災害リスクに備える保険です。個人賠償責任保険は、自転車事故や日常の過失による賠償を幅広くカバーします。火災保険・地震保険は、住宅という最大の資産を守る保険として必須です。特に地震保険は火災保険とセットでしか加入できず、補償は損害の30~50%に限られますので、補償内容をしっかり確認してください。
■証券(投資)
株式・投資信託・債券などによる資産形成です。NISAの恒久化・拡充により、長期・積立・分散投資のための環境は格段に整いました。ただし元本保証はなく、短期的な相場変動に動じない「長期目線」が必要です。iDeCoは掛金が全額所得控除となるため、特に現役世代の節税効果が高い制度です。資産運用は「余裕資金」で行うことが大原則です。
■住宅ローン
意外と見落とされがちですが、住宅ローンもお金の守り方と密接に関わります。
繰り上げ返済か、ローンを残して運用するかという問いに対する答えは、適用金利と期待運用リターンの差で判断することが基本です。
変動金利が低水準の間は、運用利回りがローン金利を上回る可能性があるため、必ずしも早期完済が最善ではない場合もあります。一方、金利上昇局面では返済額が増えるリスクがあります。2024年以降、日銀の政策金利引き上げにより変動金利にも上昇圧力がかかっています。自分の金利タイプと残債、手元流動性のバランスを踏まえた判断が必要です。また、住宅ローンには団体信用生命保険(団信)が付いており、債務者が死亡・高度障害となった場合にローンが完済される仕組みがあることも、守るお金として理解しておいてください。
住宅ローンで注意が必要なのは、ローンをなくそうと繰り上げ返済をすることで、手元の資金が少なくなってしまい、いざというときにお金がないということがおきかねないということです。繰り上げ返済をする際は、こうしたことも考慮してください。
お金の話というと、どうしても数字の議論になりがちです。しかし本来は、「どんな人生を生きたいか」という問いから始めると、わかりすくなると思います。
お金を整えることは、人生を縛ることではありません。むしろ、選択肢を広げ、日々をより軽やかにしてくれるものです。
「お金が整うと、人生はもっと自由になる」
それが、私がこれまで多くの方の人生設計に関わってきた中で、確信していることです。
