最高裁のウェブサイトでは各裁判所の判決文を公開している

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   最高裁判所のウェブサイトに掲載された判決文で、訴訟当事者の要請で黒く塗りつぶしたはずの部分が実は読める状態になっていたことがわかった。指摘を受けて、掲載から22時間後にこの文書は削除され、判決文を作成した東京地方裁判所は不手際を謝罪した。過去の似た事例などからみて、実に安易な手順で「黒塗り」をしようとしていた可能性が高い。

   従来、判例は、各裁判所のウェブサイトごとに掲載されてきたが、06年3月に最高裁のウェブサイトがリニューアルされ、各地の判例をここで一元的に見られるようになった。今回問題が起きたのは、東京地裁が作成し、最高裁ウェブサイトに掲載された判決文で、2007年2月5日に掲載された。掲載作業自体は、判決文を作成した東京地裁が行った。

簡単に復元できるという指摘で、ファイルを削除

   判決文の公開にあたって、裁判当事者の企業から企業情報など約20ヶ所の閲覧制限が申し立てられ、担当書記官が該当箇所をワープロソフト使って黒く塗りつぶして公開した。ところが、翌6日に、「ある操作」をすると、黒塗り部分が簡単に復元できるという指摘が寄せられ、掲載から22時間後にファイルを削除したという。

   これを受けて、同地裁は、西岡清一郎・所長代行の名前で

「書記官による不適切な処理で、事件関係者に多大なご迷惑をかけてしまったことは誠に遺憾であり、深くお詫びいたします」

   とのコメントを発表している。
   「黒塗りしたはずの部分が復活」というのも、不可解な現象だ。J-CASTニュースでは、東京地裁に対して「黒塗り復活」の経緯を聞いてみたが、同総務課は

「『ワープロソフトの塗りつぶし機能を使った』とのみ公表しており、それ以上の具体的なことは言えません」

   との素っ気ない答えで、どのワープロソフトを使用しているかは教えてもらえなかった。
   その一方で、

「(「塗りつぶし操作」というのは)まあ、基本操作ですよね?」

   という問いには、

「そうですね。文字を飾る、といったレベルですね」

   と答え、PC操作初心者でも出来るような簡単な処理しか施していなかったことを認めてもいる。

「蛍光ペン」で墨塗りしただけ?

   実は、今回と似たような事例が他にもあった。千葉市教育委員会がウェブサイトに掲載していた会議録にも同様の問題があったことが06年7月に発覚、黒塗りされていたはずの「情報公開請求者の住所と氏名」「病気で休職する教諭の具体的な病名」といった情報が丸見えになっていた。当時この問題を報じた朝日新聞は、

「個人情報の部分を『蛍光ペン』という機能を使って墨塗りしたが、元の文書を消していなかった。確認不足で、技術的に未熟だった」

   といった市教委のコメントを伝えている。

   今回の東京地裁のケースも、ワープロソフトで作成した文書を「PDF」と呼ばれるファイル形式に変換した上でウェブサイトに公開していた。東京地裁の言う「塗りつぶし機能」が「蛍光ペン」に当たるのかどうかははっきりしないが、「蛍光ペン」の操作が初歩的な操作であることは間違いない。実際に「蛍光ペン」「PDF」「黒塗り」といったキーワードで検索すると、PDFファイルの「黒塗り」部分を復元する方法を紹介したブログがいくつもヒット、内容を見てみると、簡単な手順で「黒塗り」が解除できることが分かる。

   ちなみに最高裁の判例紹介ページだが、各地で行われた裁判すべての判決文が収録されるわけではない。東京地裁では収録の基準は公表していないとしながらも、

「労働事件や知的財産事件など、関心が高そうな事例や、著名な事例が収録されることが多いです」

   と話している。